笠原一輝のユビキタス情報局

Intel、モバイルCPUにもデュアルコアとLaGrandeを導入




アナンド・チャンドラシーカ氏
 Intelのモバイル事業を率いるアナンド・チャンドラシーカ副社長(モバイルプラットフォームジェネラルマネージャ)は、IDFの基調講演において、同社が今年末までに出荷することを予定している次世代Pentium MとなるDothan(ドサン、開発コードネーム)と、2004年後半に投入を予定している次世代Centrinoモバイル・テクノロジとなるSonomaプラットフォームに関するいくつかの発表を行なった。

 また、報道陣向けセッションにおける発言内容からも、Intelの次世代のモバイルプラットフォームの姿が徐々に明らかになってきている。ここでは、そうしたIDFで明らかになったモバイルPCの未来に関する話題を、OEMメーカー筋からの情報も加味しながらお伝えしていく。



●Dothan、Prescottともに出荷は第4四半期、発表は2004年第1四半期に設定

 「売り上げは第4四半期中に発生する。具体的な発表時期はOEMメーカーなどの準備が整ってからになるので、現時点では未定」。この台詞は、一人のIntel幹部が発したものではない。Dothan、Prescott(プレスコット、開発コードネーム、Pentium 4の次世代コア)に関して、報道陣が質問すると、例外なくIntel幹部全員がこの台詞を繰り返した。

 これが意味するところは明白だ。おそらく、Intelの広報チームなりマーケティング関係者が用意している想定問答集の中に、DothanとPrescottの出荷時期、発表時期に関して聞かれたらこう答えろと書いてあるだろう。Intelのような巨大な企業の場合、広報なりマーケティングがこうした想定問答集を用意するのは当然のように行なわれているし、実際Intelはそうした幹部発言のコントロールがとても上手な会社だ。

 この発言をよくかみ砕いてみよう。“売り上げが第4四半期にある”という意味は、OEMメーカーに対する出荷は第4四半期中に行なえるということだ。これは既定路線だ。Intelは90nmプロセスルールの製品、つまりDothanとPrescottを第4四半期までに出荷するということはこれまでも繰り返してきたし、Intelの幹部が約束した以上、間違いなく第4四半期に出荷されることは間違いないだろう。

 問題は後半の部分だ。“具体的な発表時期はOEMメーカーなどの準備が整ってからになるので、現時点では未定”というのは、第4四半期には発表しない可能性もあるということを示唆している。つまり、発表は2004年の第1四半期になる可能性があるということをIntel自ら認めてしまっているようなものだ。

 OEMメーカー筋からもたらされている情報もこれを裏付けている。それによれば、Intelは8月の上旬にDothanに関して出荷は第4四半期中、発表は2004年の第1四半期であるとすでに通知してきたという。発表時に1.80GHz、1.70GHzのクロックでリリースされる予定だ。

 さらに、先週になり、Prescottに関しても出荷は第4四半期に行なうが、発表自体は第1四半期になる可能性があると、一部のOEMメーカーに対して伝えはじめている。実際、あるOEMメーカーは、来年発表するモデルでPrescottに換えて、Pentium 4 Extreme Editionを利用しないかというオファーまで受けたという。

 実際、IntelはPrescottの発表時期をはっきりと伝えていないという。1月なのか2月なのかも分からないので、Prescottを使おうと考えていたベンダは大慌てで再検討に追われているという。

●DothanはBaniasに比べ熱設計消費電力が下がり、平均消費電力は上がる

 Dothanに続いて、Prescottも…ということになれば、Intelの90nmプロセスルールに何か問題が発生しているのではないかと、考えたくもなるが、出荷自体は第4四半期に行なえるということは、90nmプロセスの歩留まりには特に問題はなさそうだ。実際Intelに近い関係者も歩留まりに関しては良好であると証言している。

 では、何が原因なのか。これに関しては、以前Dothanの延期について触れた時に、消費電力の問題ではないかと指摘した。実際Prescottの熱設計消費電力は、当初Intelが説明したよりも上がってしまっているし、Dothanに関しても、最初にOEMメーカーに配られたサンプルに関しては、熱設計消費電力も、平均消費電力に関しても上がってしまっていたという。

 だが、このIDFで、Dothanの消費電力についての質問に、Intel モバイルプラットフォームグループマーケティングディレクタのドン・マクドナルド氏は「Dothanの消費電力だが、熱設計消費電力に関してはBaniasよりも下がる。平均消費電力に関しては大雑把にいってBaniasとほぼ同じだ」と明言している。実際、IntelはOEMメーカーに対して、1.80GHzのDothanは熱設計消費電力が21W、平均消費電力は1.25W以下と説明しており、現状のBaniasの1.70GHzが熱設計消費電力は24.5W、平均消費電力は1W以下であることを考えると、マクドナルド氏の発言と符合する。“大雑把にいって”とはいえ1.25W以下と1W以下が“ほぼ同じ”かどうかは議論の余地があると思うが。

BaniasとDothanの消費電力の比較
 Banias@1.70GHzDothan@1.80GHz
熱設計消費電力24.5W/1.48V21W/1.31V
平均消費電力1W以下1.25W以下

 マクドナルド氏がDothanの熱設計消費電力が、Baniasのそれを明言したのは、Intel社内では熱設計消費電力をBaniasのそれを下回らせるめどがついたと考えるとべきだろう。

 第4四半期中の発表を予定していたDothan、Prescottともに、結果的に搭載した製品が出回るのは来年の第1四半期になってしまった。この原因が何であるのかは今のところ判明していないが、やはり、Intelの90nmプロセスが何らかの問題を抱えていることは明白だろう。Intelの関係者は90nmプロセスの歩留まりは好調としているので、だとすれば、以前指摘した熱などの問題あると考えるのが妥当だろう。いったいIntelの90nmには何が起きているのだろうか。

●モバイルもLongHornに間に合うタイミングでLaGrandeを実装する

 今回のIDFでは、マイクロソフトの次世代OSであるLongHornにおいて導入をする予定のNGSCB(Next-Generation Secure Computing Base)に対応したハードウェアの基盤といえるLaGrandeテクノロジ(以下LaGrande)に関する説明セッションをはじめ、セキュリティに関するセッションが多数用意されていた。

 デスクトップPC向けのCPUでは、PrescottにLaGrandeが実装されることがすでに明らかにされているが、モバイル向けのBanias、Dothan、そしてその次の世代となる予定のJonahのラインではどのタイミングでLaGrandeを実装することになるのかは明らかにされていない。

 しかし、実のところモバイルの方がセキュリティとしては重要視されることが多い。というのも、毎日持ち歩くことになるモバイルPCでは、常にPC自体を盗まれる危険にさらされているし、公衆ネットワークに接続することで他のPCから侵入されたりという危険性も多々ある。IBMがThinkPadシリーズにTPMチップを導入し、セキュリティ機能をアピールしているように、モバイルにこそLaGrandeが必要とされているともいえるのだ。

 この問題について、記者から出た「2005年にリリースされるLongHornに搭載されるNGSCBの機能はモバイル向けCPUでも使えるのか」という質問に対し、チャンドラシーカ副社長は「2005年のLongHornに間に合うタイミングでLaGrandeテクノロジを、Centrinoのラインにも搭載していく」と明言した。

 CentrinoがLaGrandeに対応するには、CPUのシステムバスと、チップセットが対応する必要がある。2005年に間に合わせるとなると、チップセットはAlvisoが、CPUに関してはDothanないしはその次の世代であるJonahであると考えることができる。DothanはBaniasの改良版であることを考えると、LaGrandeが搭載されている可能性は小さいといえる(仮にもし対応していれば、今回明らかにしているだろう)。これらを考えあわせると、ほとんど新しいCPUとして生まれ変わると言われているJonahにおいて、LaGrandeに対応する可能性が高いとみていいだろう。

●モバイルに関しても将来的にHTテクノロジやデュアルコアを導入

 今回、ポール・オッテリーニ社長の基調講演では、4つの“T”ということで、「HTテクノロジ」、「Centrinoモバイルテクノロジ」、「LaGrandeテクノロジ」、「Vanderpoolテクノロジ」という4つの技術が鍵であるという宣言がされた。その中でもオッテリーニ氏が最も強調したのが、HTテクノロジだ。既報の通り、オッテリーニ氏はクライアントサイドでも、「将来的にデュアルコアを導入していく」と明らかにしている。

 「これは、モバイルでも有効なのだろうか」という質問に対してチャンドラシーカ氏は「将来的にはHTテクノロジに対応するつもりだ」と明らかにした。さらに、チャンドラシーカ氏は「HTテクノロジを搭載するときには、デュアルコアも導入することになる」と述べ、モバイルではHTテクノロジと同時にデュアルコアの導入も行なわれる可能性があることを示唆した。

 ただし、チャンドラシーカ氏は投入時期などに関しては言及しておらず、いつのタイミングでHTテクノロジやデュアルコアが導入されるのか、現時点では明らかではない。

 しかし、もしHTテクノロジとデュアルコアの導入が同じタイミングで行なわれるとしたら、プロセスルールがもう1、2段階微細化した後という可能性が高く、90nmないしは65nmプロセスで製造させると見られているJonahではないだろう。Intelは、今後Centrino向けCPUを、Dothan、Jonah、Merom、Giloという順に開発していくことをOEMメーカー向けに明らかにしており、その中で可能性があるとすれば、2006年の終わりから2007年にかけて予定されていると見られるGilo(ギロ)あたりという可能性が大きいのではないだろうか。

 というのも、HTテクノロジやデュアルコアの導入は、消費電力の増大という問題をCPUにもたらす。したがって、こうした問題を解決しない限りはモバイル向けCPUとして導入することが難しいといえる。IntelはGilo世代では、モバイルのみならず、現在モバイルPentium 4がカバーしているDTR(DeskTop Replacement)の市場までカバーするとOEMメーカーなどに説明しており、この世代でデュアルコア導入という可能性はかなり高いのではないだろうか。

 例えば、超低電圧版など向けにはHTテクノロジのみを有効にして消費電力を押さえ、通常版のモバイルDTR向けではマルチコアを有効にすることで、さらに高性能を目指すというストーリーだ。これであれば、低消費電力と高性能という相反する命題を実現することが可能になり、Giloがメインストリームから超小型モバイルまでカバーすることができるようになる。

 いずれにせよ、モバイルに関してもHTテクノロジ、デュアルコアの採用という展開が見えてきたことで、Intelが今後CPUの高性能化の方向はマルチスレッド化であるということを、より強く打ち出してきたということができるだろう。

Intelのモバイル向けCPUコアロードマップ
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(2003年9月22日)

[Reported by 笠原一輝]


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