8月27日の最接近を過ぎて、火星ブームも一段落したようだが、まだまだ火星は南の空で明るく光っている。前回、都内のベランダから天体望遠鏡とデジカメを使って火星の撮影にトライしたのだが、火星をアイピースの視野内に捉えることはできたものの、筆者のスキル不足や準備不足もあって、満足のいく写真は撮れなかった。今回は、前回の反省を活かして、再び火星の写真撮影に挑戦してみた。 ●高倍率アイピースとデジカメアダプターIIを用意
火星大接近については、前回の記事を見ていただきたいが、今年8月27日の最接近は、実に約6万年ぶりという記録的なもので、ニュースなどでも大きく取り上げられていた。 前回の記事も、おかげさまでかなりの反響があり、筆者と同じような動機で天体望遠鏡を購入したという方からもメールをいただいた(その方は、筆者のよりはるかに高級な望遠鏡を購入したようで、正直うらやましい)。 8月27日以降、マスコミなどでの火星大接近に関する報道は一気に沈静化したが、最接近を過ぎたからといって急激に火星が遠ざかるわけではないので、まだまだ観察の好機が続いている。9月中は、小口径の望遠鏡でも楽に火星を観察することができるだろう。 火星は大接近中でも視直径がかなり小さいため、表面の模様を観察するには、ある程度の高倍率が必要になる。前回は焦点距離9mmのLVアイピースを利用して約133倍で観察したが、もうちょっと倍率を欲張ろうと思って、新たに焦点距離7mmのLVアイピースも購入した(それ以外に月面観察用として15mmと18mmのアイピースも購入した)。利用しているビクセンのVIPER-MC90Lの焦点距離は1,200mmなので、倍率は1,200/7=約171倍となる。VIPER-MC90Lの口径は90mmであり、倍率的にはほぼこれで精一杯であろう(有効倍率はミリメートルで表した口径の2倍程度)。
前回はビクセンのデジカメアダプター「DG-LV」とDGリング28、アダプタリングを利用してCOOLPIX 5000でのコリメート撮影に挑戦した。しかし、その方法だと、カメラ側の総重量が重く鏡筒バランスが崩れてしまい、鏡筒をうまく動かすことができなくなってしまった。 そこで今回は、COOLPIX 5000の代わりに、より小型で軽量なペンタックスのオプティオSを利用してみることにした。オプティオSは、光学3倍ズーム搭載デジカメとしては、現時点で世界最小・最軽量を誇る製品で、撮影時重量はわずか115g(電池、SDメモリーカード含む)しかない。ただし、デジカメアダプター「DG-LV」は、ボディ前面にフィルタやコンバージョンレンズ取り付け用のネジ穴が切ってあるデジカメしか利用できない。 そこで用意したのがMEADEのデジカメアダプターIIである。デジカメアダプターIIは、三脚用ネジ穴を利用してデジカメを固定するアダプターで、デジカメとの位置を3軸で調整できるので、底面に三脚用ネジ穴が用意されているデジカメならほとんどの製品で利用可能だ。 デジカメアダプターIIは火星大接近のため、ほとんどの天体望遠鏡ショップで品切れ中だったので(最近、一部の専門店に入荷したようだ)、知人に貸していただいた。なお、デジカメアダプターIIの使い方や対応機種については、MEADE製品の国内総代理店であるミックインターナショナルのサイトで詳しく解説されている。
また、撮影時にシャッターを手で押すと、大きくぶれてしまうので、オプティオS用の赤外線リモコンも用意した。 ちなみに、COOLPIX 5000とDG-LV、DGリング28、アダプタリングの総重量(アイピース込み)は約712gであったのに対し、オプティオSとデジカメアダプターIIの総重量(アイピース込み)は約440gであり、大幅に軽量化されたことになる。 デジカメアダプターIIは、X軸、Y軸、Z軸の3軸で位置を調整して、デジカメのレンズの光軸とアイピースの光軸が一致するようにセットするのだが、ぴったり光軸を合わせるのはなかなか難しい。デジカメはネジ1本で固定するため、しっかり締めないと、撮影操作中にデジカメが動いてしまうことがある。 デジカメアダプターIIとオプティオSをVIPER-MC90Lに装着して鏡筒の動きをテストしてみたが、やはりそのままでは鏡筒バランスが崩れてしまったようで、鏡筒の先端を下方向に向けようとすると、ギアが滑ってうまく動かない。そこで、鏡筒を前方に少しずらして固定したところ、全ての方向にきちんと動くようになった。 最接近前後から、東京の天気はぱっとしなかったのだが、8月30日の夜から31日の朝にかけてようやく晴れたので、早速オプティオSでの撮影にトライしてみたが、デジカメの設定をいじろうとすると光軸がずれてしまうことや、フォーカスあわせがしにくいこともあって、なかなか思うように撮影はできなかった。なんとか数枚撮影できたうちの1枚が、右に示した写真である(トリミングのみでレタッチは行なっていない)。かろうじて模様らしきものが見えるが、ちょっとこれでは厳しい。 ●鏡筒バランスを取るためにパワーアンクルを活用
そこでもう一度、前回の組み合わせ(COOLPIX 5000+DG-LV)を試してみることにした。こちらの方法では、フィルタ取り付け用ネジ穴を利用するため、光軸がずれる可能性が小さいからだ。その代わり、デジカメ側が重くなるので、鏡筒バランスをきちんと取る必要がある。 前回は、鏡筒バランスをあまり気にしていなかったのだが、望遠鏡やデジカメアダプター選びの際に参考にした「Yoshi's ETX Site」( http://etx.galaxies.jp/ )のよしさんから、鏡筒バランスが非常に重要だというアドバイスをいただいたので、鏡筒バランスを取る方法を考えてみた。デジカメをアイピースに装着することで、鏡筒バランスが崩れてしまったのであるから、鏡筒の前側にウェイト(錘)をつけて調整してやればいいわけだ。 そこで思いついたのが、パワーアンクルである。パワーアンクルは、足首に巻き付けて使うサポーターのような形状をしたウェイトで、下半身を鍛えるのに使われる(ちなみに、手首に巻くパワーリストもある)。筆者くらいの年だと、パワーアンクルやパワーリストといえば「リングにかけろ」を思い出すが、今の若い人だと「テニスの王子様」あたりになるのだろうか。 一般的なパワーアンクルは、ベルクロで足首に固定するようになっており、重量は中に入れる鉄製の棒の数で調整できる。今回購入したパワーアンクル(価格は2個セットで6,800円)は、1個当たり最大10本の鉄棒を入れることができ、その場合の重さは約3kgになるのだが、もちろんそれでは重すぎるので、鉄棒を2本入れて、鏡筒の前方に巻き付けてみることにした。余計な光が鏡筒に入るのを防ぐフードの役割も果たすことを期待して、パワーアンクルが少し鏡筒の前方にはみ出すように巻いた。 パワーアンクルを巻く前は、COOLPIX 5000を取り付けると、鏡筒バランスが崩れて鏡筒の先端を下方向に動かすことができなくなってしまったのだが、パワーアンクルを巻くことで、問題なく動くようになった。 さらに、COOLPIX 5000に手を触れずに撮影ができるように、リモートコード「MC-EU1」も用意したので、これで準備は万端である。
●細かい模様は写せなかったが、とりあえずの結果は出た
これらの準備が整ったのが9月の頭であったが、その後もなかなか天候に恵まれない。9月9日は、マイナス2.7等の火星と満月に近い月齢13の月が大接近(東京では午後9時42分頃に最接近。その間隔は約6分角で、月の直径の5分の1程度)するという、滅多にない天文ショーが見られる日なので、晴れることを祈っていた。 その甲斐あって、雲は多少あったものの、なんとか晴れ間が広がった。最接近時の撮影はできなかったが、9時56分頃に撮影したショットが下に示した1枚目の写真だ。月と火星のツーショットをおさめるために、焦点距離15mmのアイピースを利用して、倍率80倍で撮影した。火星の下側の縁がわずかに明るくなっているが、これはおそらく極冠だと思われる。初心者にしては、なかなか雰囲気のある写真が撮れたと思うのだがいかがだろうか。
この月と火星のランデブーは、肉眼で見ても見事なものだったので、松下の光学12倍ズーム搭載デジカメ「DMC-FZ1」の望遠端+デジタルズーム3倍でどこまで撮れるかやってみたのが、2枚目の写真である。こちらは、特にレタッチなどは行なっていないが、ちゃんと月の右下に火星が写っていることがわかる。 月と火星の大接近の様子は一応写真に撮れたので、火星をアップで撮影するという、当初からの目標に再びチャレンジした。しかし、高倍率での撮影はなかなか難しい。 モータードライブ付きの赤道儀や自動導入/追尾機能付きの経緯台なら、火星を視野の中心に入れたまま追尾することができるが、今回筆者が使っている架台にはそんな高級な機能はないので、火星は見ている間にもどんどん移動してしまう。7mmのアイピースで拡大すると、火星が視野の端から端に消えるまでわずか数十秒である。 惑星の模様を捉えるには、できるだけ多くの枚数を撮影して、それらの写真を合成(コンポジットまたはスタックと呼ばれる)する方法が主流なのだが、最近は特に、USB経由で接続するWebカメラを使って動画を連続的に撮影し、そこから切り出した数百枚から数千枚にも及ぶ画像をスタックする方法が注目されている。 そこで、COOLPIX 5000の連写機能を利用して、視野の端から端まで移動する火星をできるだけ多く撮影することにした。また、一人でリモートコードとVIPER-MC90Lのコントローラを操作するのは大変だし、架台にも振動が伝わりやすいので、筆者が望遠鏡の位置をコントロールし、妻にリモートコードの操作(シャッターやズーム操作)を手伝ってもらうことにした。 撮影した写真を火星を中心にトリミングしたものが、3枚目の写真だ。連続撮影した10枚の写真をトリミングした後、RegiStaxを利用して、スタックとウェーブレット変換による画像処理を行なったのが、4枚目の写真である。ノイズが減っただけでなく、右下の極冠部分もよりはっきりとしており、中央部の模様もなんとなくわかるようになった。
RegiStaxは、オランダのCor Berrevoets氏が開発したフリーソフトで、スタックやウェーブレット変換など天体写真を処理するための強力な機能を装備している。RegiStaxは非常に高機能なソフトで、筆者も使いこなせているというわけではないのだが、その威力の片鱗はこの写真からもわかるだろう。 天文雑誌や達人の方々のWebサイトには、素晴らしい火星の写真が多数掲載されているが、そうした写真は、それなりの機材と十分なスキルがあってこそ撮影できるものだ。口径90mm(しかも自動追尾なし)の望遠鏡で、光害の激しい都内のベランダからの撮影では、これくらい撮れれば一応満足すべきなのかもしれない(もちろん、筆者のスキル不足もあるので、機材と環境だけのせいにするつもりはないが)。 なお、火星は少しずつ遠ざかっているが、10月以降は土星や木星が見やすい位置にやってくる。そこで、土星の撮影に挑戦してみたのが、下の写真である。小口径の望遠鏡でも輪がはっきりと見えるので、なかなか感動的だ。明るさは大接近中の火星には及ばないものの、輪まで入れると、視直径が火星よりも大きいので、むしろこっちのほうが撮影は楽かもしれない。木星はまだ見ていないのだが、こちらは土星よりも明るいはずなので、木星の観察も楽しみにしている。最後に、今年の中秋の名月である9月11日に、月を撮影した写真も紹介しておこう。
●天体観察の魅力にすっかりはまる
天体望遠鏡を手に入れてから、まだ1カ月も経っていないのだが、天体観察の魅力にすっかりはまってしまった。本などで見慣れた火星や土星も、自分で望遠鏡を操作して、その目で見たときの感動は大きい。たとえそれが本などに出ている写真に比べて、はるかに見劣りする像でもだ。天体観察は、目で見るだけでも奥が深いが、それを美しく撮影するには、また別のノウハウが必要になる。その分、やりがいがあるともいえるわけだ。 望遠鏡を持っていないときは、雨さえ降らなければ天気はあまり気にしなかったのだが、今は天気予報サイトを日に何度もチェックしては、天候に一喜一憂する毎日を送っているのだが、これはこれでまた楽しいものだ。今度は、空の暗い郊外に望遠鏡を持っていって、星雲や星団なども観察したいと思っている。 バックナンバー
(2003年9月17日) [Reported by 石井英男]
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