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AMDの次期CPUコア「K9」は2005年に登場か




●複数CPUコアをオーバーラップして開発するAMD

AMD CPUの推定開発サイクル
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 AMDは2005年頃までに次のCPUコアを必要としている。次世代OSが、新しいCPUコアアーキテクチャを求め、新メモリ技術が新インターフェイス技術の必要性を高めるからだ。また、AMDのCPU開発サイクルから数えても、2005~6年頃には次のCPUが登場する計算になる。Athlon 64(K8系)が遅れたことで、次のCPUコアとのインターバルは狭くなったと想定される。つまり、K8に続く「K9」コアが、近いうちに見えてくると思われる。

 通常、PC向けのハイエンドCPUの設計には4~5年かかる。しかし、IntelとAMDはどちらも複数のCPU開発チームを社内に備えており、開発期間をオーバーラップさせることで開発サイクルを半分に短縮している。

 例えば、AMDのDirk Meyer(ダーク・メイヤー)上級副社長(Senior Vice President、Computation Products Group)は、2002年6月のグループインタビュー(東京)で「一般的に言うと、メジャーCPUは2年毎に投入する。うちもライバルもこれは同じで、このトレンドは続くだろう」と語っていた。

 もともとAMDは自社のx86 CPU開発チームを持っていたが、'96年にCPU開発会社NexGenを買収、NexGenの開発していたコアを改良して「K6」としてリリースすることで飛躍した。さらに、旧DECのAlphaプロセッサ開発チームから多数のアーキテクトとエンジニアを迎えることで開発力を強化した。

 K7を担当したDirk Meyer氏は元Alpha 21064/21264のアーキテクト、K8を担当するFred Weber(フレッド・ウェバー)副社長(Vice President、Computation Producuts Group)は元NexGenのアーキテクトだった。主要なアーキテクトはそのままAMDに留まっているため、現在もAMDは複数の開発チームで、複数のCPUをオーバーラップして開発しているものと見られる。

 オーバーラップ開発の結果、AMDは2から3年毎に新CPUを投入できるようになった。K6は'97年4月に発表、後続のAthlon(K7)は'99年8月に発表と、その間は2年と1四半期ちょっとしか離れていなかった。Meyer氏が指摘するように、約2年サイクルで来ていた。

 そして、次のK8は2001年中に登場する予定だと、'98年頃は報道されていた。その当時は、旧DECのJim Keller氏(Atiq Raza氏の退社後に退社)がK8を担当し、すでに開発を始めていると言われていた。どうやら、最初はK7→K8も2年数カ月で投入するつもりだったらしい。



●計算上は2005年中の登場となるAMDのK9

 しかし、誰もが知っているようにK8の投入時期はずれた。2001年中はともかくとして、2002年春に公表した投入ターゲットの2002年中も逃した。そして、確実なはずだった今春も、発表したのはサーバー&ワークステーション向けのOpteronだけ。デスクトップ向けのAthlon 64は9月へとずれた。つまり、K7→Opteronなら3年半、K7→Athlon 64なら4年もかかってしまったことになる。

 もっとも、これは、AMDがあまりに多くの要素(CPUアーキテクチャ、プロセス技術、プラットフォーム)を一度に変えようとしたために生じた問題だ。今回は、新導入のSOIプロセスで手間取ったと言われている。AMDが2002年秋出荷をターゲットとしていたということは、K7→K8も本来の計画上のサイクルは、おそらく約3年だったと思われる。つまり、AMDのCPUサイクルは、依然として2年半~3年だと推測できる。

 では、次のK9はどうなのか。これまでのサイクルから推測してみよう。K6→K7が約2年半、K7→K8が計画上3年だったとすると、K9はかなり迫っていることがわかる。K8のオリジナルスケジュールの2002年秋から計算すると、2年半後なら2005年春、3年後なら2005年秋ということになる。つまり、遅くとも2005年中にはK9が登場する計算になる。

 この場合、Athlon 64とK9の間はわずか2年になってしまうが、これはAthlon 64が遅れたからだ。別チームで設計を行なっているK9のスケジュールは、おそらくこの遅れの影響をそれほど受けないだろう。また、HyperTransportやAMD 64アーキテクチャ、SOIプロセスの導入など、もっともクリティカルな部分はすでにAthlon 64/Opteronでやってしまっているから、K9の開発負担は相対的には軽くなる。

 こうして眺めると、スケジュールからすると、AMDのK9が2005年前後に登場する可能性が非常に高いことがわかる。

 AMDは通常製品リリース予定の、半年から3四半期ほど前にサンプルチップを公開、その数カ月前までにアーキテクチャを発表、さらにその1年以上前にロードマップを発表する。そのパターンが継承されるとすると、2004年秋までにはアーキテクチャが発表され、比較的近いうちにロードマップも発表されると推定される。


●K9でも変わらない64bitアプローチ

 では、AMDはK9にどんなアーキテクチャを採るのか。

 まず明確なのは、64bitへのアプローチはK8を継続することだ。K8では、既存のx86コードとAMD 64コードの両方を高速に走らせることができるアーキテクチャをとっている。AMDのDirk Meyer上級副社長は、昨年11月のイベント「Forum64」で「K9でも、K10、11、12であっても、32bitと64bitの両方を同様に走らせることができる」と明言した。もっとも、x86を自然に64bitへと拡張したAMD 64アーキテクチャの場合、x86とAMD 64の両方の性能を維持することは容易だ。

 もうひとつほぼ明らかなのは、AMDが今後もメモリインターフェイスをCPUに統合し続けることだ。このアーキテクチャはメモリアクセスのレイテンシを下げ、K8に大きな性能向上をもたらした。また、マルチプロセッサ構成をIntelアーキテクチャよりも容易にすることにも役立っている。DRAMインターフェイスの統合にはいくつの困難があるものの、AMDがこのアーキテクチャを簡単に捨てるとは思えない。

 それから、HyperTransportも継続する可能性が高い。そもそも、初めからAMDはHyperTransportを長期的なチップ間インターフェイスにすると宣言しており、将来も互換を継続すると言っていた。少なくともK9世代は、HyperTransportを使っているだろう。


●K9の最大のポイントはNGSCB対応?

 ではK9では何が変わるのか。

 ここでも明確なことがある。それは、セキュリティ機能の搭載だ。AMDは、2005年のCPUでは確実にこの機能が求められている。それは、Microsoftが2005年に投入する次世代OS「Longhorn(ロングホーン)」が、「Next-Generation Secure Computing Base (NGSCB)」を実装してくるからだ。

 NGSCBは、コードネーム「Palladium(パレイディアム)」と呼ばれていた技術で、PCにハードウェアベースのセキュリティ機能を付加し、それを利用できるOSレイヤーをMicrosoftが供給する。そのためNGSCBでは、PCの各ハードウェアにもセキュリティ機能が要求される。

 中でもCPUにはかなりの変更が加わる。セキュアなプログラム実行モードと、セキュアメモリアクセス機能の導入が必要となるからだ。つまり、完全に新しい動作モードと、そのモードで走るプログラムしかアクセスできないメモリ空間をページングによって設ける。こうした機能の実装は簡単には行かないだろう。

 AMDは、すでに2002年に、セキュリティ機能を実装する方向にあることを明らかにしている。例えば、2002年11月COMDEXのポストキーノートQ&Aセッションでは「約6カ月前に、我々はよりセキュアなPCを作ることをサポートすることを発表した。その目的のために、我々のチップアーキテクチャを変えようとしている」とAMDは説明していた。

 Microsoftが2005年をターゲットにしている以上、AMDも同じスケジュールでNGSCB対応のCPUを設計しているはずだ。となると、それはK9に違いない。ライバルのIntelも、次の「Prescott(プレスコット)」から、NGSCBに対応する「LaGrande(ラグランド)」機能を実装してくる(イネーブルはされない)。K9の第一の目的は、(パフォーマンスアップを別とすれば)NGSCBに対応することだろう。

 だが、K9世代では、その他にも大きな拡張が予想される。それは、インターフェイス回りだ。

【5月8日】【後藤】WinHECで明らかになったMicrosoftの次世代セキュアPC構想
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0508/kaigai01.htm

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(2003年9月12日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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