元麻布春男の週刊PCホットライン

Linuxに原稿書き環境を整える
~ATOK/MIFES/TVのインストール


●850Eベースで環境を構築

 前回、865チップセットベースのシステムでハードウェアのサポート状況を確認した後、結局ちょっと古い850EチップセットベースのシステムにRed Hat Linux 9(以下RH9と略)をインストールすることに決めた。

 850Eチップセットは、Intelのメモリ戦略の転換(RDRAMからDDR SDRAMへ)に伴いICHを新しいもの(ICH4)に更新してもらえず、古いICH2を使い続けるしかなかった可哀想なチップセットだが、Linuxでのサポートという点では最新のICH5より安心できる。USB 2.0については、マザーボード上にNEC製のホストコントローラがあるし、USBはホストインターフェイスが標準化されているから基本的にドライバはユニバーサルに使える。

Linux用システムの構成
パーツ製品名備考
マザーボードIntel D850EMVRRDRAM対応の850Eチップセット
CPUPentium 4 3.06GHzFSB 533MHzでHyper-Threading対応
メモリ512MB PC1066
グラフィックスGeForce2 MX 400AGP4X
Ethernet内蔵ICH2内蔵コントローラ
サウンド内蔵ICH2内蔵AC'97コントローラ
USBNEC製外付け
IDEデバイスPM: 5T040H4Maxtor製HDD
 PS: なし
 SM: SD-M1612東芝製DVD-ROMドライブ
 SS: LS-120SuperDisk

 手堅く、最新のハードウェアを避けた構成だけにRH9のインストールは特に問題もなく順調に終了した。だが、インストールするだけではしょうがない。どのくらい実用的に使えそうか、問題があるとしたらどの部分なのかを検証する必要がある。

●エディタはMIFESを起用

パッケージ版が発売されたばかりのMIFES
 筆者がLinuxを仕事に使うのであれば、何といっても原稿を書ける環境が必要だ。筆者が普段原稿を書いているのは秀丸だが、秀丸にLinux版はない。

 RH9に標準で付属するエディタはと探してみると、メニュー上に見つかったのはアクセサリの項にテキストエディタ(gedit)、それからプログラミングの項にemacsの2つ。コマンドラインで叩いてみると、行エディタのed、スクリーンエディタのviもちゃんとあった。

 emacsが強力なエディタであり、事実上できないことは何もないのは事実なのだが、敷居が高いこともまた間違いようのない事実。筆者は以前UNIXを使っていた時代を含めて、何回か試行したことはあるのだが、ついにemacsに馴染むことはなかった。できれば今回も避けておきたい。viは昔使っていたエディタであり、おおむね今も使える(rogueのおかげで、意外とコマンドも覚えている)。設定ファイルを書き換える、といった用途ならviで全く構わないのだが、日本語の原稿を書くのに向いたエディタではない。もちろん行エディタのedでは、原稿など全く書ける気がしない。

 残るのはgeditだが、これも原稿を書くのには不向きなようだ。何字詰め、何行という形で指定されることの多い日本語の原稿に合わせて、行の折り返しを指定できない。また、カーソル移動や文字の削除、ジャンプなどの編集コマンドをどのキーに割り当てるか、カスタマイズできないため、とても秀丸の代わりにはならないだろう。

 というわけで試してみることにしたのがメガソフトの「MIFES for Linux」だ。MIFESといえば、PC98時代に一世を風靡したテキストエディタ。PC98を使っていた時期が極めて短い筆者も、名前はもちろん動作している様子を見たこともあるくらい有名なものだ。

 筆者の場合、最初に使ったエディタ(あるいはそれに類するもの)が、CP/M上で動作したTurbo Pascalの統合開発環境? の内蔵エディタで、このキーアサインが、CP/M上の英文ワープロであったWordStarに準じたものだったため、キーアサインがWordStar準拠でないと困る体になってしまった。PC98を使っていた時代も、キーアサインがWordStarに準拠していたFinalという別のエディタがお気に入りで、WordMaster(CP/M上の有名なテキストエディタ)風味のMIFESとは縁がなかったのである。結局、今使っている秀丸のキーアサインにも、WordStar風味がかなり残っている。

 MIFES for Linuxは従来ダウンロード販売のみだったが、ちょうど8月末からパッケージ版も登場している。今回、インストール(といってもCD-ROMから適当にファイルをコピーするだけのシンプルなもの)し、立ち上げてみたが、FinalやMIFES、ちょっと遅れて登場してきたRED(Linuxにも含まれている行エディタとは別のフルスクリーンエディタ)などが覇を競っていた頃を思い出してしまった。デフォルトのキーアサインは必ずしも筆者の好みではないが、カスタマイズは可能だし、指定した文字数による行の折り返しもサポートしているから、これで原稿を書くことは可能だろう(デフォルトの青い画面は何とかしたいところだ)。

●日本語入力はATOK

ATOK X for Linux
 エディタにめどが立ったら、次は日本語入力環境だ。RH9にはWnn7 Personalが付属しているが、その変換精度や変換候補の並び順は、Windows用の最新のIMEと互角とは言いがたい。これについては「ATOK X for Linux」を用いることにした。こちらはジャストシステムの直販サイトで購入した。

 筆者はIMEのキーアサインはVJEなのだが、こちらもキーアサインのカスタマイズは可能だからなんとかなるだろう。気になったのは、MIFESとの組み合わせにおいて、ATOKクライアントを起動するCtrl + Spaceが、時としてMIFESでキーボードマクロの記録と誤認されることなのだが、毎回生じるわけではないので、とりあえず放置している。

 エディタと日本語入力環境以外で不可欠なもの、たとえばWebブラウザやPDFを表示するビュワー(Xpdf)は最初から添付されているし、Microsoft Office互換のアプリケーションとしてOpenOffice.org 1.0がバンドルされている。付属のGNOMEパイロット(PDA連携ツール)が、Clieと同期することができなかった(日本語のユーザー名を設定することさえできなかった)のが残念だが、それなりに仕事に使えそうな雰囲気は出てきた。

●TV表示は老兵のTV Wonder

ATI TV Wonder
 だが、もう1つ欠けているものがある。それはTVを表示することだ。筆者はWindows 3.0の時代から、デスクトップの片隅にTVを表示する機能を必ず加えてきた。もう10年以上続けている習慣である。当然、Linuxでもこれは必要だ。

 初期の頃は大変だったが、最近はWindowsであればTVを表示するくらいは何ということもない。Windowsで利用することを前提に、安価なTVチューナカードがたくさん市販されている(Windows 3.0の頃使っていたアナログオーバーレイのTVチューナカードは高価だった)。しかし、Linuxでどうするか、ということになると、情報量はガクッと減る。500ページを超える立派なRH9のマニュアルにも、TVを見るなんているトピックは存在しない。

 いろいろ調べていると、どうやらLinuxでもTVを見るためのさまざまなアプリケーションが存在していることが分かった。そして、それらのプログラムは必ずといっていいほど、Video for Linuxと呼ばれるAPIを利用している。Video for Linux自体は、最近のカーネルには含まれているようで、TVチューナカードとそれに対応したドライバがあれば、TVを表示するアプリケーションは動きそうだ。

 今回、実験のために用意したTVチューナカードは、棚の中に眠っていたATIの「TV Wonder」(たしか個人輸入した米国版)。このカードはBrookTree(現Connexant)のBt878を使ったTVチューナ/キャプチャカードだ。Bt8x8を使ったカードには、bttvと呼ばれるVideo for Linux用のドライバがあること、どうやらRH9にはbttvが最初から含まれていることが分かったが、これだけの情報を集めるのも一苦労。個人ユーザーをターゲットにしていないせいか、こうした機能に関するドキュメントが不足しているのである。bttvそのものは標準的なインストールに含まれているのだが、ドキュメントはソースコードパッケージにしか含まれていない。RH9のマニュアルにはマルチメディア関連の解説、さらには日本語機能に関連した記述はほとんどない。やはりコンシューマー向けのOSではないのだと痛感させられる。

【画面1】rootでmodprobe bttvを実行すると、事前に/etc/modules.conf等でパラメータを指定しなくても、bttvドライバは組み込まれた
 どうやったらbttvドライバを組み込むことができるのか。組み込む際に、ハードウェアの仕様をどう指定するのか。これらについても、ハッキリ書かれたドキュメントはなかなか見つからなかったが、結論から言えば何のことはない、rootになって/sbin/modprobe bttv、これだけで問題なく組み込みができてしまった【画面1】。特にパラメータを指定しなくても、チューナユニットや音声プロセッサも自動的に識別された(今回用いたTVチューナカードが、米国でメジャーな製品だった恩恵もあるのかもしれない)。

 bttvが組み込まれたら、後はその上で動作するTV観賞用アプリケーションを用意すればいい。Video for Linux resources等を見ると、さまざまんじゃアプリケーションがあるようだが、とりあえずRed Hat Linux用のバイナリパッケージが用意されている、というだけの単純な理由でtvtimeと呼ばれるアプリケーションをテストしてみることにした(http://tvtime.sourceforge.net/)。tvtimeは、動画のキャプチャをサポートしていない(静止画キャプチャは可)が、どうせ動画のキャプチャは(今のところWindowsでしか利用できない)MTVシリーズで行なうので、TVが見られればいいという計算である。

 インストールは、Red Hat系のLinuxが標準的にサポートしているパッケージ管理ツールであるrpmを用いて行なう。tvtime本体(tvtime-0.9.8.5-1rh8.i386.rpm)の前にリモートコントロール等のライブラリ(lirc-0.6.5-fr3.i386.rpm)も同様にrpmで行なっておいた。現在は、メニューをサポートした新しい0.9.9がリリースされている(ただしソースコードのみでバイナリのrpmパッケージはまだのよう)が、今回用いた0.9.8.5はコマンドラインによるオプション設定が不可欠。放送方式(NTSC-Japan)と周波数(Japan-Broadcast)をコマンドラインから設定した後、tvtimeを立ち上げなおすと、自動的にチャンネルのスキャンが始まる。これで、一通りのチャンネルは取得できたのだが、なぜかどのチャンネルもチューニングがきっちり7MHzずれる(TVチューナカードが日本仕様ではないせいかもしれない)。いずれにしても、マニュアルでチューニングしなおして、それを記録すれば大丈夫だった。

●とりあえずの環境は完成だが

【画面2】MIFES、ATOK X、tvtimeが起動したRH9のデスクトップ
 こうやって出来上がったのが【画面2】のデスクトップだ。MIFESが立ち上がり、ATOKパレットが表示されているのは、昔に戻ったようで、変な感じだ。ここまでザッとやってみて、Windowsでやっていることの多くは、Linux上でも実現できる感触は得られた。が、同じことを実現するのに、かかる手間と時間はWindowsの比ではない。理工系の学生や研究者ではない普通のコンシューマーを前提にする限り、Windowsの有効なライセンスを持っているユーザーが、Linuxに乗り換えるメリットは、現時点ではほとんど見出せないのが実情だ。

 それでもMicrosoftによる事実上の独占による弊害は確実に増大している。PCの低価格化を反映しないライセンス料、マニュアルの省略やプロダクトアクティベーションなどのサービス低下が典型的な例だ。

 結局、事実上の独占により、主導権はユーザーではなくMicrosoftに握られてしまったわけだが、これはMicrosoftが悪いからではない。資本主義経済において、事実上の独占が成立すれば、このような弊害が起こるのが当然のことだ。

 この状態を打破するには競争が必要だが、相手として期待できそうなのはLinuxくらいしか筆者には思いつかない。確かに今のLinuxはコンシューマーが使うには辛い部分が多すぎるように思うが、この状況をコンシューマー向けのパッケージがいずれは変えてくれるのだと期待したい。そう思って、コンシューマー向けのLinuxに注目していくつもりだ。

□MIFES for Linux製品情報
http://www.megasoft.co.jp/milinux/
□ATOK for X製品情報
http://www.justsystem.co.jp/atokx/
□関連記事
【8月29日】【元麻布】Red Hat Linux 9 Professional導入記
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0829/hot276.htm
【8月21日】【元麻布】「Officeなし生活」の次は、別のOSを検討してみたい
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【6月11日】メガソフト、テキストエディタ「MIFES for Linux」発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0611/mega.htm
【2000年7月17日】ジャストシステム、Linux対応ATOKを9月に発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000717/just.htm

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(2003年9月3日)

[Text by 元麻布春男]


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