塩田紳二のPDAレポート

24ドル オーガナイザー対決



 米国では、オーガナイザーと呼ばれる、スケジュールや電話番号を記憶、管理する電子機器がある。日本で言えば「電子手帳」だろうか。今回は、このオーガナイザー2機種を紹介する。

●オーガナイザーとは

 米国では、整理するためのものはなんでもかんでもオーガナイザーという。日本で言うシステム手帳もオーガナイザーだし、机の引き出しを整理するトレイもオーガナイザーである。

 電子機器では、カレンダやスケジュール、電話番号などを管理する機器も全部オーガナイザーなのだが、Palmなどコンピュータに近いものはハンドヘルド・コンピュータと呼び、個人情報管理専用機をオーガナイザーと呼ぶ。日本国内では、PDAという用語が広く使われているが、こちらはかつて、AppleがNewtonを発表したときに使った言葉が元になっている。米国では、雑誌記事などでまれにPDAという表記を見かけるが、ハンドヘルドと呼ぶのが普通のようである。

 オーガナイザーは、能力的にはハンドヘルド・コンピュータまでは行かない、簡易な、個人情報管理ツールだ。簡易なぶん、サイズがPDAよりは一回り小さく、バッテリもボタン型リチウム電池などで、バッテリ寿命も数カ月というレベル。販売もコンピュータショップだけでなく、普通の文具や電気製品を扱う店で行なわれている。今回入手したものは、ゲームソフトなども扱う大きなCDショップや、ファーマシー(日用品全般を扱う店)で入手したもの。価格は、タイトルにあるように約24ドル(=3,000円弱)だった。

 今回、こうしたオーガナイザーをわざわざ紹介するのは、この2つの製品が、ちゃんとPCとのデータ交換機能を持っているからである。従来この手の製品は、メモリバックアップはされているものの、入力したデータを外に出すことはできなかった。しかし、今回紹介する2機種は、シリアルケーブルとPC側のソフトが付属しており、これを使って、PCとデータ交換や同期が可能になっている。たかだか3,000円弱の機器とはいえ、こうしてデータ交換できれば、使い勝手はかなり向上する。また、たとえ電池が切れてメモリの中身が消えてしまっても、再度PCからデータを送ればいいのである。

●PCとつながれば、オーガナイザーも輝く

 日本国内では、PDAというと、数万円もするような高価なものばかりだが、数千円ぐらいの機器でPCとデータ交換できるなら使うという人も多いのではないだろうか? PCとのデータ交換は、メモリ蒸発をカバーでき、データ入力がラクになるというメリットがある。

 オーガナイザーは、簡易で非力な機器で、単体でみれば、データの入力や編集、が面倒だの、データ消失が怖いといったデメリットばかりが目に付く。しかし、PCと接続できることで、こうした機器は便利なデータビューアーとなる。となれば、機器自体の能力が低いことなどあまり関係ないし、前記のデメリットも問題ではなくなるのである。万一壊れてしまっても、新しいのを買って、またデータを転送すればいい。逆に、PCと接続できるからこそ、安価な作りが可能になるのではないだろうか。

 日本だと漢字の表示や入力が問題という意見もあるだろうが、我々はつい最近まで、こうした機器でカタカナのみを使っていたはずだ。3,000円弱なら、カタカナ表示とローマ字入力でなんとかなるのではないだろうか。逆に価格を倍にしたところで6,000円、3倍でも1万円しない。気軽に買える1万円以下のオーガナイザーが、日本でもできそうなものだ。

●ハードウェアは簡素

 今回は、シャープの米国法人が発売するYO-290とRoyalのextreme2の2機種を紹介する。

シャープのYO-290。本体下部にはナビゲーション用のキーがある。液晶カバーは裏側に折りたたむことが可能 Royalのextreme2。液晶の下にあるのは電源スイッチ。こちらも同様に液晶カバーを裏側に回すことができる

 簡易な製品なので、英語といえども文字認識が可能なプロセッサなどは積んでおらず、入力はいわゆるソフトウェアキーボードのみ、表示も3~4行の文字を表示できるだけだ。

 液晶部分は、上部が文字表示用にドットマトリックスになっていて、下半分は、ソフトウェアキーボード用に、液晶パターンにより固定された文字や記号などが表示される。ソフトウェアキーボードまでが液晶部にあるのは、表示を切り替えて、文字入力用と数値入力用のモードに分けるためである。液晶の下の部分は、アプリケーション(といっていいかどうかわからないが)起動用のシンボルが印刷されている。このあたりはPalmのシルクボタンと同じ。

YO-290(上段)、exstreme2(下段)のソフトキーボード部分。予め2つのキーボードパターンが作ってあり、これを切り替えて使う

 また、YO-290は本体下部に、extreme2は、本体側面にカーソルキー、実行キーなどを備えており、一部、これらのボタンによる操作も可能。

 本体内にスタイラスホルダがあり、液晶部分を保護する跳ね上げ式のカバーがある。基本的な作りは、よく似ている。ちなみに両方ともMade in Chinaと表記されている。

 PCとの接続は、本体側面にあるミニプラグに専用ケーブルをさして行なう。どちらもケーブルの反対側は、PC用のシリアルコネクタになっている。YO-290にはフロッピーディスクが、extreme2にはCD-ROMが付属し、これにPC側ソフトウェアが入っている。

 PC側のソフトウェアは、Palm機に付属するPalmデスクトップやOutlookのように、スケジュールや住所録の管理機能を持つソフトウェア。ちなみにRoyalのオーガナイザーの上位機種は、Outlookとのシンクロが可能だ(これについては、別途入手してまたレポートしたい)。

YO-290のキーボード部分。左上はバックライトのオンオフ。スイッチ類はここだけに配置されている YO-290のPCインターフェース。付属の専用ケーブルでPCのシリアルポートと接続する extreme2のサイドスイッチとPCインターフェース。矢印のあるキーはソフトキーボードの上下キーと同じで、オレンジのボタンはエンターキーに相当する

●シャープ YO-290

 シャープのYO-290は、バックライトを装備しており、見た目などもかなりPDA的だ。基本機能は、

  • Telephone
  • Calendar
  • Schdule
  • Anniversary
  • ToDo
  • Memo
  • Clock/Alarm
  • Expense
  • Word Translator
  • Calculator
  • Conversion
  • Game

となっている。上記アプリケーションは、液晶下に印刷されたシンボル8つをタップして起動するほか、電源オンの直後に限って、Next、Prevキーで順次選択が可能になっている(ただし、このときには、Clock、Telephone、Schdule、Memoだけが選択できる)。シンボルは8つしかないが、続けてタップすることで、アプリケーションが切り替えられる。たとえば、電卓シンボルには、CaluculatorとConversionが割り当てられている。

 基本的に各機能では、検索したデータを表示させる。例外はCalendar機能で、これは、ひと月分のカレンダー(液晶上部には、このときに使う曜日表示があらかじめ印刷されている)を表示し、日付の横にSchedule、ToDO、Anniversary(記念日)を表す点が表示される。ここで日付を選んでEnterキーを押せばScheduleの表示になるし、その日に予定が登録されていないときは入力になる。

 時計は、ワールドクロックにもなり、3つのアラームが設定可能。この手の機器のワールドクロックは、日付も同時に表示されのが便利なところ。また、毎時0分に時報を鳴らすこともできる。

 住所録機能は、名前はTelephoneだが、4つの電話番号(Home、Office、FAX、Mobile)の他にメールアドレスや、住所も入力できる。住所は、Address、City、State、ZIP、Countryの5つの項目に最大48文字の入力ができ、米国以外の住所も(アルファベット表記になるものの)ちゃんと入力できる。また、登録項目は、Business、Personal、Otherの3つのカテゴリに分けて管理できる。

 Expenseは出金メモで、日付範囲を指定しての集計も可能。また、費目は8種類だが、ユーザーが費目名を変更できるようになっている。

 Conversionは、通貨、度量を変換する。通貨はレートを自分で設定して利用する。Word Translatorは、英語とスペイン語の単語の翻訳機能だ。

YO-290のTelphone、Calendar、Conversion、Word Translator、Anniversaryの画面。YO-290は、14文字5行の文字表示が可能

 操作は、本体下部にあるカーソルキーとPrev、Nextキーのみでほとんど可能になっている。データの入力時のみソフトウェアキーボードを使えばよい。5×6ドット文字で、14文字5行の文字表示が可能だが、下2行は行間がなく、13ラインになっているために、少し大きな文字などが表示できる。

 バックライトボタンを押すと、一定時間(設定により10、20、30秒の3つから選択可能)点灯する。あまり明るくはないが、反射型液晶でもあり、まっ暗なところで使うわけではないので問題はないと思われる。電源を入れた直後は、Clock表示となるため、日常的に時計として使うこともできる。

 メモリは、約754KB、説明書によると電話帳の項目にして290個は入力できる容量を持つ。バッテリは、CR2032を2つ使い、片方は本体、もう1つはバックライト用になっている。本体は、表示のみで連続約2,400時間、電源オフの状態で時計が動いたまま約2年は電池が持つようである。まあ、これぐらいあれば、あまり電池のことは気にしなくていいレベルといえる。

 全体として機能を詰め込んだオーガナイザーという感じで、Expenseが記録だけでなく、集計もできるのはちょっと便利そうだ。

●Royal extreme2

 Royalは事務機器などを製造する米国のメーカーで、オーガナイザーの老舗の1つ。同社は、イタリアの事務機メーカーOlivettieの子会社でもある。

 Royalは、オーガナイザーとは別に「DaVinci」なるPDAを発売していたこともあったし、3年前のCESで、Linux搭載のPDA試作機を展示したこともあった(こちらのほうはその後何もニュースを聞かないが……)。

 このextreme2は、全体にシンプルなデザイン。本体正面は、タッチパネルのついた液晶ディスプレイと電源ボタンだけ。本体側面に、上下カーソルキーと実行ボタンがある。

 液晶も、3行表示が可能だが、下2行は、数字のみが表示可能な「日」の字型にドットが並ぶパターンになっている。

 本体は、下のほうが角がない曲線になっていて、一部色が違っているなど、デザインは悪くない。変わったデザインで有名なOlivettiのグループ企業なので、少しは影響があるのかも。

 extreme2には、以下のような機能がある。

  • Clock/World Time
  • Phone
  • Schedule
  • ToDo
  • Memo
  • Spell Checker
  • Game
  • Calulator
  • Conversion

 前記のように表示がかなり制約されていることもあって、extreme2はカレンダー表示などが行なえず、スケジュールなども、本体側面のカーソルキーで項目を順次表示していったり、件名の最初の文字を入れて矢印キーで該当の項目を検索するなどの機能を使う。通常のPDAに慣れていると、かなり安易に感じられる機能である。入力も、件名、日付、開始時間のみ。一応開始時間にアラームを鳴らすことは可能。どちらかというと、スケジューラーというより、高機能アラームといった感じ。

 Phoneは、名前、住所の他に、電話番号5つの電話番号とメールアドレス、URLを登録可能。液晶の上部には、電話番号の表示用に“Home”、“Work”などの文字が最初からパターンとしてあり、これを使って、表示されている番号が何の番号なのかを表示する。

 時計機能は、ワールドタイムに加え、ストップウォッチ、カウントダウンタイマー、アラームがあり、少し充実している。また、毎時00分に音を鳴らす機能もある。

extreme2のPhone、Schdule、Conversionの各画面。extreme2の液晶は下2行は数字と簡単なアルファベットのみ表示可能な「日」の字型になっている

 YO-290に比べるとかなり簡単な機能ばかりだ。コストを下げるためか、表示の下2行が数字と若干の記号程度しか表示できないためかあまり凝った機能はない。ただ、extreme2では、アクセント記号付きのアルファベットが入力可能で、英語以外にも対応している。

 メモリは384KB、バッテリはCR2032を2個使っている。

 全体として、かなり簡易なオーガナイザーである。Royalは、かつて、同じ筐体でexcelsiorというオーガナイザーを出しており、こちらは、4行表示が可能なドットマトリックス表示だった。どうもextreme2はこれを簡易版にしたものらしい(ちなみにexcelsiorは今は別の筐体で販売されている)。

●PCとの連携機能

 YO-290もextreme2も、Windows上で動作するプログラムが同梱されており、付属のケーブルを使って、オーガナイザー内部のデータをPC側に転送することが可能だ。

 YO-290に付属するのは、「EO Link Utility」(プログラム自体はPC Software for EL-6990 and YO/ZQ-290というようだ)、extreme2のものは、「PDO Desktop」という。

 EO Link Utilityは、ウィンドウ上部に、YO-290のアプリケーションに相当するタブがある。各画面は、左側にリスト、右側に選択項目の詳細表示があり、ここで新規データ入力、データの編集、削除が可能になっている。実際の入力、編集は、専用のダイアログボックスで行なう。

 EO Link Utilityでは、YO-290に対して、データのアップロード、ダウンロードしか行なえなず、基本的にデータを自動的に同期させることはできない。もっとも、オーガナイザー側での入力はまれなので、PC側をマスターデータとして、転送するだけにしておいても問題はないだろう。逆にデータのアップロード、ダウンロードは、現在のタブのデータに対してのみ行なわれるので、どれかを変更したらその都度、YO-290側にダウンロードするといった使い方になってしまうと思われる。

 各データは、CSV形式でのインポート、エクスポートが可能なので、PC側のほかのソフトですでに入力したデータを利用するのも簡単だ。

YO-290付属のEO Link Utility。メニューバー下のタブでデータの種類を切り替える。ウィンドウ下にあるボタンは、データのアップロード、ダウンロードのボタン EO Link Utilityでは、入力はダイアログで行なう

 これに対して、extreme2に付属するPDO Desktopは、見た目にはOutlookにも似た、本格的なPIMツールになっている。ウィンドウ左側のボタンで住所録、スケジュール、ToDO、メモを切り替え、右側には、常にカレンダーなどが表示される。

 中央部分は、データ一覧のリストになっており、スケジュール表示ならば、1日、1週間、1月の予定を表示できる。また、スケジュールと同時にToDoを見ることもできるし、逆にToDo画面では、カレンダーと一日の予定を見ることができる。やはり編集は専用のダイアログで行なう。

 extreme2自体に比べると、かなりソフトの出来がいいので、PDO Desktopで入力したほうがラクだ。なお、extreme2の場合、通信は別のソフトであるsmartsyncで行なうようになっており、こちらはデータの同期が可能だ。

 データのインポート、エクスポートは、ウィザード形式になっている。インポートの場合には、CSVの他にタブ区切りやdBase形式ファイルが利用できる。またファイル内の項目とデータ項目の対応を変更することが可能で、多少、順番が入れ替わったCSVファイルにも対応できる。

extreme2付属のPDO Desktop。見た目にOutlook似で、単体でもスケジュール管理ソフトとして利用できる extreme2付属のPDO Desktop。データの入力は、ダイアログを使って行う extreme2付属のPDO Desktopでは、インポート、エクスポートの際にCSVのフィールドを設定可能

 オーガナイザー自体は、YO-290のほうが優れているが、PC上のソフトは逆。extreme2のPDO Desktopは、単体でもちゃんとPIMデータ管理ツールとして日常的に利用できる。その意味では、extreme2はビューアーもしくは、スケジュールアラーム機能付き時計として使ったほうがいいのかもしれない。

 さて、たかだか24ドルで入手したオーガナイザーだが、意外に凝ったところがあるのがおわかりいただけたと思う。このほかにも、さまざまなオーガナイザーが米国では入手可能だ。また、市内の大きなファマシーやグローサリーショップなどでも入手できるので、米国に行った折にちょっと店を覗いてみるのもいいかもしれない。日本語の表示はダメだが、予定表やちょっとしたメモぐらいなら、英語のみでもなんとかなる。PCからアラームデータをダウンロードできる電卓付き時計としてみれば、結構便利だ。

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(2003年7月15日)

[Text by 塩田紳二]


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