CeBIT America会場レポート

巻き返しを図るVIA、KT600とPT800を市場投入へ


VIA TechnologiesのPT800を搭載したリファレンスマザーボード。サウスブリッジはVT8237を搭載している

会場:Jacob K.Javits Convention Center(米国ニューヨーク州)
会期:6月18~20日(現地時間)


 VIA Technologiesは、CeBIT Americaの会場において、同社の最新チップセットKT600とPT800を展示し、まもなく出荷を開始することなどを明らかにした。

 KT600はシステムバス400MHzのAthlon XPに対応した最新チップセットで、PT800はシステムバス800MHzのPentium 4に対応したチップセットとなる。また、今後VIA Technologiesは、立て続けにPentium 4チップセットをリリースしていき、シェアを取り返すべく製品ラインナップの強化を図っていく。そうしたVIAのロードマップと今後の課題についてレポートしていきたい。



●KT600、PT800を数週間のうちに市場へ投入する

 VIA Technologies(以下VIA)は、昨年チップセットの市場シェアの多くを失っている。その原因はPentium 4向けチップセットが思うように伸びず、チップセット市場の大多数を占めるIntel向け市場でシェアを失ったからだ。

 Pentium 4用チップセット市場でシェアを失った大きな要因が、Intelとの間の法的係争だ。その影響を受けることを嫌ったOEMベンダが、VIAチップセットの採用を見送ったのだ。

 同社のプロダクトマーケティング担当准副社長のリチャード・ブラウン氏も「確かに当社は昨年シェアを失ったことは事実だ」と認めている。VIAが重要な市場を失った例はいくつかあるが、例えばソニーのバイオWシリーズは、CPUにP6コアのCeleronを採用していた時期には、VIA PN133Tを採用していたのだが、P4ベースのCeleronに変わったと同時にSiS650に変更されている。

 ソニーはチップセットを変えた理由を公表していないが、業界関係者によれば内蔵グラフィックスの処理能力がSiSに劣っていたのと、やはりVIAがIntelのライセンスを持たないためだったという。

 しかし、その原因はすでに解決されている。既報のとおり、VIAはIntelとPentium 4のバスライセンスに関して和解しているのだ。「Intelとの和解により、当社がPentium 4用チップセットを顧客に提供する上での障壁は取り払われたといってよい、今後続々とPentium 4向けチップセットやAMD向けの新しいチップセットを提供していくべくロードマップを強化している」(ブラウン氏)と、今後VIAはIntel、AMDの両プラットフォーム向けに新しいチップセットを提供していくという。

 その第一歩として、同社は5月に発表したAMD向けチップセットのKT600と、近々発表する予定のPT800を市場に投入していくという。

 KT600は、現在市場に投入されているKT400Aのアップデートバージョンで、400MHzのシステムバスに対応するほか、サウスブリッジは新たにSerial ATAコントローラを内蔵したVT8237に切り替わるという。これにより、外部Serial ATAコントローラを搭載しているマザーボードに比べて安価にSerial ATAの機能を提供できる。

 PT800は、Pentium 4向けチップセットで、800MHzのシステムバスとDDR400に対応している。つまり、533MHzのシステムバスとDDR333にしか対応していなかったP4X800のアップデート版ということができるだろう。

VIAのPT800。800MHzシステムバス、DDR400(シングルチャネル)、HTテクノロジをサポートしており、AGP 8X、8X V-Link(533MB/sec)、Serial ATAをサポートしたVT8237をサウスブリッジとして利用可能 VIAのKT600。400MHzシステムバス、DDR400(シングルチャネル)、AGP 8X、AGP 8X、8X V-Link(533MB/sec)、Serial ATAをサポートしたVT8237をサウスブリッジとして利用可能


●9月にはPentium 4向けにPT880、Athlon 64向けにK8T400を投入する

 VIAの課題は、SiSなどに奪われた顧客を再び取り返すことが可能であるかという点だろう。

 すでに、ASUSTeK、GIGA-BYTE、MSI、ABITなどの大手マザーボードベンダは、SiSのチップセットを搭載したPentium 4用マザーボードを発売しており、こうした顧客に再びVIAのチップセットを採用してもらう必要がある。

 この点についてブラウン氏は、「当社はマザーボードベンダと強力なパートナーシップを結んでいる。今後各社から当社のPentium 4用チップセットを搭載したマザーボードがリリースされるだろう」(ブラウン氏)と、マザーボードベンダからPT800を搭載したマザーボードが発売されるという見通しを明らかにした。

 だが、これらのマザーボードベンダがブラウン氏のいうようにPT800を搭載したマザーボードを本当にリリースするかは不透明だ。というのも、Intel 875/865シリーズの登場で、リテール向けマザーボードのトレンドはデュアルチャネルに移行しており、シングルチャネルのPT800はローエンド向けにしかならないからだ。

 以前よりVIAはデュアルチャネルのチップセットを計画してきた。古くはP4X600と呼ばれる製品で、その後PT600に改名されたのだが、結局リリースされなかった。このP4X600/PT600は最終的にPT880に改名され、800MHzのシステムバス、デュアルチャネルDDR400をサポートする製品として計画が見直されている。

 「PT880は9月のComputexのタイミングで発表する予定だ」(ブラウン氏)とのことで、まもなくサンプル出荷を開始し、9月には製品として発表する方針を明らかにした。

 PT880は、すでに述べたように800MHzのシステムバス、デュアルチャネルDDR400というIntel 875/865ファミリーに対抗するスペックを持っているほか、QBM(Quad Band Memory)と呼ばれるメモリ技術をサポートする。

 QBMはモジュールにスイッチを搭載して切り替えることで、モジュールの帯域幅を倍にする技術で、Kentron Technologiesがスイッチをモジュールベンダに提供するビジネスとして推進している規格だ。QBMに対応することで、シングルチャネルで利用した場合でも帯域幅は倍になるため、コスト面でメリットがある。

 「QBMはデュアルチャネルのやや下という位置づけのソリューションだ。ハイエンドとしてデュアルチャネルがあり、ついでQBM、ローエンドがシングルチャネルという位置づけになる。メモリの選択肢を増やすことはユーザーのメリットとなるはずだ」(ブラウン氏)と、VIAとしては他社との差別化としてQBMをサポートしていきたい意向であるようだ。

 ただ、VIAのもくろみが当たるかどうかは、まだ不透明だ。というのも、QBMはチップセット/マザーボード側の実装については、ほとんど変える必要がないものの、モジュール側はスイッチを搭載する必要があり、通常のDDR SDRAMモジュールとは違った基板が必要になるからだ。

 つまり、モジュールベンダがQBMのモジュールを作らない限りチップセット/マザーボード側がサポートしても絵に描いた餅になりかねない。現時点ではDRAMベンダはQBMに対する姿勢を明らかにしておらず、実際にQBMに対応したメモリモジュールが市場に登場するかどうかは不透明な情勢だ。

 なお、9月にはAMDがAthlon 64を発表するので、これに合わせて単体型チップセットのK8T800と統合型チップセットのK8M800の2製品もリリースする。

VIAのチップセットロードマップ(筆者予想) PT880のブロック図(筆者予想)


●2004年にはDDR2とPCI ExpressをサポートするPT890とK8T890を投入

 PT880の投入により、VIAは800MHzのシステムバス、デュアルチャネルDDR400というIntel 875/865ファミリーに対抗することが可能になり、低価格版デュアルチャネルマザーボードといった市場に参入することが可能になる。

 昔のように、ハイエンドは440BXないしはIntel 815、低価格はApollo Pro133といった、Intelのチップセットと同機能だが低価格という差別化が可能になる。これによりチャネルやリテールのマザーボード市場においてSiSからシェアを取り返すというのがVIAのプランだ。

 ただ、一度SiSに奪われた大手OEMベンダ向けのビジネスを取り返すのは簡単な作業ではない。というのは大手OEMベンダの製品計画は半年~1年単位で組まれており、一度投入した筐体やマザーボードは半年~1年程度は使い続けるというのが通例だからだ。

 このため、VIAは、大手OEMベンダへ食い込む時期として、次のプラットフォーム変革の時期をねらっている。その時期とは、2004年の第2四半期に、Intelが次世代のハイエンド/メインストリーム向けチップセット“Grantsdale”(グランツデール、開発コードネーム)を導入するタイミングだ。

 IntelはGrantsdaleでプラットフォームを大きく変更する。1つはバスアーキテクチャをPCI Expressに変更することだ。グラフィックスはAGP 8XからPCI Express x16に移行し、PCIバスはPCI Express x1へと移行する。

 また、Grantsdaleでは、1,066MHzのシステムバスをサポートし、CPUソケットもLGA775という新しいソケットへと移行することになる。これは、Prescottの後継となり、2004年の第3四半期にリリースが予定されているTejasでLGA775と1,066MHzバスをサポートするためで、Tejasの利用を前提にするマザーボードを設計するとなると、1,066MHzバスとLGA775のサポートをする必要があることになる。

PT890のブロック図(筆者予想)

 VIAはGrantsdale対抗製品としてPT890を計画している。PT890はLGA775と1,066MHzバスをサポートし、PCI Express x16やPCI Express(レーン数は未定)をノースブリッジに実装する。Grantsdaleでは周辺機器用のPCI ExpressはサウスブリッジであるICH6に実装するのとは異なったアプローチになっている。

 また、メインメモリとしてDDR2(400/533/667MHz)をサポートし、同時にDDR1(266/333/400MHz)もサポートすることになる。サウスブリッジへのインターフェイスはUltra V-Linkと呼ばれるV-Linkのバス幅を広げたバージョンに変更される。従来のV-Linkでは8bit幅、533MHzで533MB/secの帯域幅が実現されていたが、Ultra V-Linkでは16bit幅1.06GB/secへと帯域幅が広げられる。

 また、PT890のAthlon 64版としてK8T890が用意されている。K8T890はPCI Expressブリッジとなる製品で、この製品によりAthlon 64でもPCI Expressが利用できるようになる。

 なお、PT890およびK8T890のサンプルは、第4四半期より出荷開始され、製品の出荷は2004年になるとVIAはOEMに対して説明しているという。


●PM890ではDirectX 9世代の内蔵グラフィックスをサポート

 また、VIAはPT890、K8T890のグラフィックス統合版としてPM890とK8M890を計画している。PM890/K8M890に統合される内蔵グラフィックスは、以前CasstleRock3の開発コードネームで呼ばれていたUniChrome3と呼ばれるコアで、現在CLE266などで採用されているUniChromeの後継となる製品だ。

 UniChrome3では、ピクセルシェーダ2.0エンジンを搭載したDirectX 9世代のコアとなり、コアクロックは250MHzが予定されているという。2005年に登場する予定の次世代WindowsであるLongHornにおいて、DirectX 9グラフィックスが重要な機能の1つとなってしまっているため、2004年以降に登場する統合型チップセットにおいてもDirectX 9機能の実装は必須となりつつあることに対応するためだ。

 ただし、UniChrome3では、ハードウェアのバーテックスシェーダ2.0エンジンは搭載しておらず、CPUでそれを代行する。情報筋によれば、IntelのGrantsdaleのグラフィックス内蔵版であるGrantsdale-Gも同様の仕様になっており、やはりバーテックスシェーダはCPUにより実現されるという。

 バーテックスシェーダをCPUで代行する理由は、言うまでもなくダイサイズを抑えるためだ。特に統合型チップセットはローエンド向け製品に使われることが多いため、コストは非常に重要になっている。ダイサイズが大きくなってしまえば、コストが跳ね上がり、安価に提供するのが難しくなる。

 このため、統合型チップセットではバーテックスシェーダエンジンが省略されるのだ。性能にシビアな単体GPUに比べ、こうした統合型チップセットでのトッププライオリティはコストだ。そうした意味では妥当な選択ということになるだろう。

 なお、PM890のサンプル出荷は2004年の第1四半期が予定されており、製品出荷は2004年の第3四半期以降が予定されている。


●今後は内蔵グラフィックスのパフォーマンスを上げられるかが鍵

 現在、多くの業界関係者が指摘するVIAの課題は、内蔵グラフィックスのパフォーマンスをどのように上げていくかだ。「統合型チップセットでは何よりもコストが重要だ」(ブラウン氏)との通り、確かに統合型チップセットでは低コストで作れることが何よりも重要だった。しかし、そのルールは変わりつつある。というのも、NVIDIAやATIなどGPUベンダが強力なグラフィックスコアを内蔵する統合型チップセットをリリースしてきているからだ。

 ATI TechnologiesはRS300の開発コードネームで知られてきたグラフィックス内蔵型グラフィックスを米国で発表している。RADEON 9100 IGPの製品名で呼ばれるRS300は、RADEON 9000相当のDirectX 8世代グラフィックスコアを内蔵しており、高い3D描画性能を実現している。RADEON 9000相当のコアを内蔵しているため、3DMark2001 SEでは4,000を超えるスコアを叩き出すと見られており、その性能は圧倒的だ。

 これに対してVIAが現在内蔵コアに利用しているUniChrome2では3DMark2001の予想スコアが2,000前後となっており、3D描画性能の差はかなり大きいと言ってよい。実際、OEMベンダも内蔵グラフィックスの優劣を比較する場合に、3DMarkのスコアを重視しているところも少なくないという事実を考えると、これは非常に重いと言える。

 問題はATIが、RS300にどの程度の価格をつけてくるかだが、OEMメーカー筋の情報によれば、RS300を搭載したマザーボードはOEMメーカーレベルの価格で80ドル以下とかなり戦略的な値付けがされているという。そうしたことを考えると、VIAもUniChromeシリーズの3D描画性能を引き上げていく必要があるといえる。

 今後は、PM890、K8M890に内蔵されるUniChrome3が、どの程度の描画性能を持っているか、それがVIAの統合型チップセットの将来を左右することになりそうだ。それをどうクリアにするかがVIAの課題ということになるだろう。

□CeBIT Americaのホームページ
http://www.cebit-america.com
□関連記事
【4月8日】Intel・VIAの“Pentium 4特許訴訟”が終結
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0408/intelvia.htm

(2003年6月24日)

[Reported by 笠原一輝]


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