●RAID対応ハイエンドシステム向けチップセット「Intel 875P」 いきなり対応プロセッサ(FSB 800MHzのPentium 4 3.0GHz)の販売延期(発売の一時停止)というトラブルに見舞われたものの、それも解除となり、ようやくIntel 875Pチップセットを利用する環境が整ってきた。ローエンドワークステーション向けの「E7205」、そしてハイエンドデスクトップPC向けの「Intel 850E」を置き換える位置づけにあるチップセットだけに、搭載マザーボードは実売価格2万円~3万円と、最近のものにしては高価。買う側としては、それなりの対価(つまりは性能の向上)を期待したくなる。
875Pに盛り込まれた性能向上技術といえば、どうしてもメモリまわりに注目が集まる。が、875Pにはもう1つ性能向上技術として、RAID構成のサポートが盛り込まれている。正確にはRAID構成をサポートしているのは、875Pに用いることが可能な2種類のI/O hubチップのうちICH5Rのみ(RのないICH5はRAIDのサポートなし)だが、875Pがハイエンド向けということもあって、多くのマザーボードがICH5Rを採用しているようだ。 ICH5Rがサポートするのは、RAID構成といっても、まったく冗長性のないRAID 0(ストライピング)のみ。冗長性(Redundancy)のないRAID(Redundant Arrays of Inexpensive(Independent) Disks)なんてまるで冗談のようだが、確かに性能は向上する。信頼性と引き換えになるため、日常的に利用するPC、あるいは貴重なデータの保存に使うのはどうかと思うが、動画の編集など信頼性を犠牲にしても性能をとりたいアプリケーションもあることだろう。そうした目的にはRAID 0も使えるハズだ。 ところで、今年の2月、米国で開催されたIDFの展示会では、すでにICH5Rを用いたIntel RAIDテクノロジに関する展示が行なわれていた。この時、説明してくれた担当者は、年内にRAID 1(ミラーリング)のサポートを加えたい、と言っていた(この場合、BIOSを含めた更新が必要になるだろう)。RAID機能を拡張できるのは、Intel RAIDテクノロジがいわゆるソフトウェアRAIDだからからだ(ただしICH5RはHDDのIDをサポート可能なよう、ハードウェアが拡張されている)。 ソフトウェアRAID(ホストCPUによるRAID)というと、性能が低いような印象を受けるかもしれないが、Pentium 4プロセッサのパワーは、高価なRAIDコントローラに搭載されている組み込み用プロセッサの比ではない。同じHDD等を使用する限り、少なくとも性能面で見劣りすることはない。 高価なインテリジェントタイプのRAIDコントローラと、安価なソフトウェアRAIDの違いは、CPUの占有率、高可用性、管理機能といった部分(実際上は、サポート可能なRAIDレベルの違いもある)で、むしろこのクラスならソフトウェアRAIDを用いた方が、トータルバランス的には優れているのではないかとも考えられる。 ICH5Rを用いたRAIDの大きな制約は、Serial ATAのポートが2つしかない、ということだ。これは、Serial ATAのドライブを2台しか接続できない、ということを意味する(現在、主にサーバ向けに1ポートに複数ドライブの接続を可能にするポートマルチプライヤが検討されているが、基本は1ポートにつき1ドライブ)。 デスクトップPCに使われるケースを考えれば、4ポート、6ポート搭載していても、果たしてそれだけのドライブを実装できるかどうか、疑問が残る。が、2台しか接続できないことがRAIDのバリエーションを制限していることも事実だ。 将来RAID 1がサポートされたとしても、Parallel ATAに接続されたドライブに用いることができないため、バリエーションはRAID 0もしくはRAID 1で、RAID 1+0(最低4台のドライブが必要)はサポートできないからだ。 ●Parallel ATAには非対応 Intel RAIDテクノロジの大きな特徴の1つは、RAIDボリュームの管理について、BIOSとWindows上で動作するソフトウェアで透過的に扱うことができる点だ。このWindows上で動作するソフトウェアがIntel Application Accelerator(IAA) RAID Edition(IAA 3.0)と呼ばれるもの。これまでのIAAは、ディスクキャッシュプログラムという色彩が強かったが、このRAID Editionでは、RAIDのボリューム管理ユーティリティという側面が強くなっている。 Intel RAIDテクノロジでは、多くのRAIDコントローラ同様、システム起動時にBIOS内のユーティリティを呼び出してRAIDボリュームの作成や削除が可能なほか、IAA RAID Editionから同じことを行なうことが可能だ。加えて、1台のSerial ATAドライブをベースに(1台目のSerial ATAドライブのデータを維持したままで)2台目のSerial ATAドライブを加えてストライピングセットを構築することができる。これは、たとえ1台目のSerial ATAドライブがシステム起動デバイスであっても問題ない。 また、ストライピングセットの構築はバックグラウンドで実行されるため、ユーザーは時間のかかるストライピングセット構築の間、ブラウザでWebページを閲覧する、などといったことさえ可能だ(あまり重いことはやらない方がよいと思うが)。画面1から画面6に作業の流れを示した。筆者は市場にあるすべてのRAIDコントローラをテストしたわけではないが、これほど分かりやすく簡単なものはないのではないかと思う。 ただし、このIAA RAID Editionには制約もある。それは、このRAID Editionがその名前の通り、ICH5RのSerial ATAポートを用いたRAIDにしか対応していない、ということだ。IAA RAID EditionはICH5RのParallel ATAをサポートしないし、Serial ATAであってもBIOSでソフトウェアRAID機能を無効にすると組み込むことができない。 その一方で、これまでのIAA(RAID非対応版。最新リリースはバージョン2.3)はICH5Rをサポートしておらず、たとえSerial ATAポートを無効にしても、ICH5Rに対してIAA 2.3を組み込むことはできない。IAA RAID EditionはParallel ATAをサポートしていないだけではなく、機能的にもIAA 2.3のスーパーセットではないため、この点は残念だ(画面7~9)。加えて、IAA RAID EditionはWindows XP(ProおよびHome)のみのサポートとなる点も忘れてはならない。 ●現状ではバスボトルネックのメリットはなし
さて、以上のような特徴を持つIntel RAIDテクノロジだが、どれくらい性能が向上するのか気になるところだろう。またIntelは、Intel RAIDテクノロジについて、PCIバスによるバスボトルネックがない点(ICH5Rの内蔵Serial ATAポートはPCIバス接続ではないこと)も利点としてあげているが、現行のHDDにおいてPCIバスボトルネックは顕著なのだろうか。これらを確認するために、PCMark 2002を用いて簡単なベンチマークテストを行なってみた。 PCIバス用のSerial ATA RAIDコントローラにはPromise TechnologyのFastTrak S150 TX2plusを用いた。テストはParallel ATAのBarracuda ATA IVからシステムを起動し、空っぽのテストドライブ(Seagate Barracuda Serial ATA V)を対象にベンチマークテストを実施している。
その結果は表の通りだが、まず分かるのは、テストに用いたSeagateのBarracuda Serial ATA VのPCMark 2002における性能指標は、おおむね1000~1050程度、ということだ。これはIAAの組み込みの有無等によって変わることは基本的にない。参考に示したBarracuda ATA IV(Parallel ATA)より100程度性能が向上しているが、これがインターフェイスの違いによるものか、ドライブの記録密度向上によるものなのか、このテストだけで判断することはできない(おそらく後者なのではないかと思われる)。 このBarracuda Serial ATA Vをもう1台追加してIntel RAIDテクノロジでRAIDボリュームを構築すると、PCMark 2002の性能は5割以上も向上した。この表にはないが、英語版のWindows XP SP1上でSYSMark 2002を実施したところ、約4.7%の性能アップが見られた。この差は、メモリをシングルチャネルのDDR333から、デュアルチャネルのDDR400に変更した時の差にほぼ匹敵する。信頼性が犠牲になるとはいえ、RAID 0による性能向上効果は確かにある。 だがこの性能向上が、PCIバス対応のSerial ATA RAIDカードでは得られないのかというと、どうやらそうではなさそうだ。比較に用いたFastTrak S150のベンチマークスコアは、PCIバスボトルネックがないハズのIntel RAIDテクノロジのスコアを上回ってしまった。どうやら、現状のHDDを前提にする限り、PCIバスベースのSerial ATA RAIDカードでも性能上の問題はないようだ。 ASUSTekは、875Pチップセットを用いた同社のハイエンドマザーボード「P4C800」に、あえてIntel RAIDテクノロジをサポートしないICH5を採用し、代わりにPCIバス接続のPromise製Serial ATAコントローラ(RAIDサポート)を搭載しているが、この結果を見れば理解できる(OSサポートの問題もPromise製コントローラを利用した理由の1つだろう)。 もちろん、上述したとおり、Intel RAIDテクノロジのメリットは性能だけではなく、高い使い勝手にもある。RAID関連のBIOSやソフトウェアがマザーボードのシステムBIOSに統合されていることや、わざわざ別の拡張カードを利用しなくてよいというメリットもある。ビデオ編集など、信頼性を多少犠牲にしても高性能が欲しいアプリケーションのユーザーで、使用OSがWindows XPであるというのであれば、ICH5Rで利用可能なIntel RAIDテクノロジは十分検討に値するものといえるだろう。 □関連記事 (2003年5月1日)
[Text by 元麻布春男]
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