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Intelの次々世代モバイルCPU「Jonah」の正体




●さらに4つのモバイルCPUが控えるIntelロードマップ

 Intelが2005年頃に投入する予定の次々世代モバイルCPU「Jonah(ヨナ)」。Pentium こと「Banias(バニアス)」やその後継の90nm版CPU「Dothan(ドタン)」の後に続くモバイル専用CPUだ。おそらく、IntelはこのJonahで、Hyper-Threading、LaGrande、PNI(Prescott New Instructions)などの新命令、そしてLGA(Land Grid Array)パッケージを導入する。さらに、Jonahの後には「Merom(メロム)」「Gilo(ギロ)」の2つの新世代CPUが続く。

 これらのCPUについては、すでに笠原一輝氏がレポートしている。しかし、実際のところ、まだ概要は情報ソースから伝わってきていない。確実なのは、コードネームと順番程度。「製品パイプラインではBanias、Dothan、Jonah、Meromの順番になる。Jonahが2005年の製品でMeromはその先となる」「Giloはそのもっと先だ」とある関係者は言う。

 しかし、Intelの開発態勢やこれまでの開発パターンを考えると、少なくともJonahについては、ある程度推測ができる。

 まず、Jonahについて整理すると、確実な情報は以下の2点となる。

・Dothanの後継となるモバイル専用CPU
・登場は遅くても2005年前半

 ある関係者は「IntelのモバイルCPUのメジャー製品チェンジは18カ月ごと」という。18カ月はBaniasから数えると2004年後半、Dothanからなら2005年前半となる。“Jonahが2005年の製品”という情報と重ねると、早くても2004年末、遅くても2005年前半の登場と推測される。実際、Intelは2004年後半のPCI Expressチップセット「Alviso(アルビソ)」は、まずDothanとの組み合わせになると説明しているらしい。それを考えると、2004年に登場するとしても末になるだろう。

 Jonahについての疑問は、このCPUがBanias/Dothanの拡張版なのか、新設計のCPUなのかという点だ。しかし、Jonahのスケジュールは、このCPUがDothan拡張版ではなく、新アーキテクチャの可能性が高いことを示している。それは、Intelのモバイル系CPUのこれまでの開発スケジュールを振り返るとよくわかる。

●Baniasの開発スケジュール

 下がIntelのモバイル系CPUの開発スケジュールの推定図だ。

Intelモバイル系CPUコアの開発推定図
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 まず、Baniasのスケジュール。IntelがBaniasの開発を公式に示唆し始めたのは2000年の秋。例えば2000年8月に、当時Intelの上級副社長だったAlbert Yu(アルバート・ユー)氏が、Intel Developer Forum(IDF)のインタビューで低消費電力版CPUのための部隊を編成したことを明かしている。実際には、Intel内部では2000年頭までにモバイルCPUのプロジェクトが動いていたらしい。つまり、Baniasの開発は、'99年後半から2000年頭のどこかの時点でスタートしたと考えられる。

 '99年末から2000年頭は、Intelにとってモバイル戦略に危機感がある時期だった。というのは、TransmetaのCrusoeが2000年頭に登場したからだ。IntelもTransmetaの動きは察知していたはずで、'99年後半には手を打つ必要性を感じていたと思われる。

 また、'99年末から2000年頭というのは、Intel内部の開発リソースの“空き具合”とも一致する。Baniasを開発したIntelのイスラエルチームは、Baniasの前にPentium IIIにチップセットを統合した「Timna(ティムナ)」を開発していた。Timnaは2000年に登場予定で、'99年後半には設計が終了していたと考えられる。とすると、少なくともイスラエルのCPU開発部隊のかなりの部分が、'99年にはもう手すきになっていたわけだ。彼らがBaniasに取りかかったとすれば、'99年後半から2000年頭スタートという線はぴったり合う。

 そうすると、Baniasは開発が始まってから製品化まで、約3年強かかったと推定される。面白いのはこの3年(36カ月)という数字。これを2で割ると、18カ月となる。つまり、IntelのモバイルCPUのメジャーチェンジの周期と一致する。ということは、Intelは2世代のモバイルCPUアーキテクチャ開発をオーバーラップさせていると考えられる。2チームが並列して36カ月かけて開発すると、ちょうど18カ月に1つの新アーキテクチャを投入できることになる。Baniasと平行してJonahの開発が行われており、Baniasが終わった時点でJonahの次の開発がスタートするというわけだ。ちなみに、IntelのモバイルCPUは、いずれも、イスラエルにあるIntelのIsrael Design Centerで開発されるようだ。

●Jonahの開発スタートは2001年後半?

 では、BaniasのスケジュールからJonahの開発スケジュールをもう少し詳しく推測してみよう。

 BaniasはクオリティサンプルがOEM顧客に提供されたのが昨秋、エンジニアリングサンプルは昨夏前だった言われている。その前にIntel社内のバリデーションを行っているはずなので、Baniasのテープアウトは2002年前半ということになる。すると、Baniasの設計スタッフのうち一部は、2001年中にはもう手が空いていたと考えられる。アーキテクチャ定義を行うアーキテクト達はもっと前から空いていたはずだ。そのため、IntelはBanias/Dothanと平行してもう1ラインの設計を並行して走らせることができたと考えられる。

 実際、IntelのMooly Eden氏(General Manager, Israel Design Center)は2002年10月のインタビューで「我々は並列に(CPUの)設計を行っている。ひとつ(の設計)が終わって次にかかるのではない」「それによって、新技術を素早く実装できるようにする」と説明している。

 また、2002年4月にはIntelのAnand Chandrasekher(アナンド・チャンドラシーカ)副社長(Vice President/General Manager, Mobile Platform Group)は「Eden氏があと2世代のBaniasファミリの開発も担当している」と答えている。少なくとも2002年の4月には、Jonahの開発は平行してスタートしていたわけだ。

 では、イスラエルのアーキテクトたちが2001年中からJonahの開発に取りかかっていたとするとどうなるか。Baniasと同じ開発期間を当てはめると、彼らが開発する新CPUの登場は2004年後半から2005年前半となる。つまり、Jonahの時期として伝えられる情報と一致する。

 それが意味しているのは、JonahはBaniasと同程度に時間をかけて開発された新アーキテクチャのCPUの可能性が高いことだ。もしかすると、ベースはDothanかもしれないが、おそらくCPUアーキテクチャ自体は、かなり大幅に拡張されているだろう。イスラエル開発チームのペースで行けば、小幅な拡張版CPUなら、2004年の早期に投入できるはずだからだ。

●Hyper-ThreadingがCPUの次の必須機能に

 Baniasの3年程度という開発期間は、通常4年かかるIntelのデスクトップCPU開発と比べるとかなりのハイペースだ。それには理由がある。Baniasは設計期間と労力を短縮するために、Pentium IIIの設計をベースにしているのだ。Intelはこのことを公式には謳っていないが、複数の関係者がそう証言している。また、2月のIDFではIntelでPrescott開発を担当するJoe Schutz氏(Vice President and Director, Logic Technology Development)が「BaniasはP3(Pentium III)ファミリ」と言い切っていた。

Intel CPUコアの移行
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 もちろん、Baniasでは消費電力を下げ効率を上げる技術を多数盛り込んだために、Pentium IIIとは大きく異なるCPUとなっている。しかし、Pentium IIIの設計データのうち、使えるものを使ったことで、短期間に設計できたのも確かだろう。

 では、Jonahはどうなのだろう。もちろんゼロから設計することもできるが、速い設計のペースを考えるとそうは思えない。おそらく、Jonahも既存のCPUの設計データをベースにしていると考えられる。疑問は、それがPentium III系かPentium 4系かという点。もし、Jonah系CPUが65nmプロセスが主軸となるアーキテクチャだとするなら、元のCPUコアはPentium 4である可能性が高いと考える。65nmなら、相対的にPentium 4系CPUコアのトランジスタ数は、モバイルに十分使える程度になるからだ。

 Pentium 4をベースにする利点は3つある。まず、(1)開発期間が短縮できる。(2)次世代CPUに必要なHyper-Threadingがすでに実装されている。(3)スケーラブルに性能が伸ばしやすい。

 (1)開発期間短縮は重要だ。イスラエルチームは2年に1CPUのペースで繰り出そうとしており、そのためには開発労力を省く必要がある。だから、今後も当分は既存CPUのデータを流用すると思われる。

 (2)Hyper-Threadingは次世代モバイルCPUにとって必須の要素だ。Intel自身も、次世代モバイルCPUがこの方向に向かうことを否定しない。

 「マルチスレッド処理能力をモビリティライン(Pentium M系CPU)にももたせる。どう実装するかはまだ話せないが」(Chandrasekher氏)

 「我々は、どうやって(CPUの)パフォーマンスを向上させるかを常に考えている。それには2つの方法がある。ひとつはシングルスレッドの性能を上げること、もうひとつはHyper-Threadingだ。我々は他の技術同様に、Hyper-Threadingに期待している。Baniasでは実装しないが、将来のファミリ(CPU)でカバーすることは、確かに(definitely)考えている」(Eden氏)

 Intelは、常に自社のCPU系列全体で、アーキテクチャの一貫性を持たせるように留意している。そうしないと、ソフトウェア側の最適化手法が一貫しなくなってしまうからだ。例えば、アプリケーション側がマルチスレッド化しても、モバイルCPUがHyper-Threadingをサポートしないとスレッド切り替えが増えるだけになってしまう。だから、次世代デスクトップCPU「Prescott(プレスコット)」と来年のデスクトップCPU「Tejas(テハス)」で加わる新命令も、Jonahに実装すると推測される。

 (3)スケーラブルな性能は、おそらくIntelが今後のモバイルCPUに求めている要素だ。それは、モバイルCPUのカバー範囲をさらに上へ伸ばそうとしているからだ。Pentium Mが登場しても、厚型のトランスポータブルノートPCはPentium 4ベースでさらに拡大していく。それは、デスクトップ代替の市場があるからだ。

 笠原氏も指摘しているが、Intelはこうした大型ノートPCの市場のある程度の部分も、将来はモバイルCPUの範囲に含めるつもりだと思われる。それは、Intelのデスクトップ系CPUの消費電力がさらに増えていくからだ。Tejasで110W、おそらくその先では120~130Wレンジに上がると推測される。モバイルCPUには、ますます乖離するデスクトップCPUの発熱量とのギャップを埋めることも期待されているはずだ。Pentium 4ベースなら、それはやりやすい。

 もちろん、Pentium 4をベースに低消費電力化するのはチャレンジだ。しかし、IntelがBaniasで取った手法は、比較的普遍的な方法であり、Pentium 4アーキテクチャにも適用できると思われる。

●LaGrandeの実装は必然

 この他にJonahで加わると思われる機能にはIntelのセキュリティアーキテクチャ「LaGrande(ラグランド)」がある。LaGrandeでは、セキュアメモリやセキュアプロセスに対応したOSカーネルやアプリケーションがないと活きない。そうしたソフトウェアプラットフォームを立ち上げるには、Intelの全CPUラインが対応する必要がある。OSをハンドルするMicrosoftが、要求事項に入れてくる可能性も高い。

 Intel側も、LaGrandeの実装は必然だと見ている。

 「我々はLaGrandeをBaniasで最初に実装しようとは思わなかった。LaGrandeはまだ成熟しているとは思わないからだ。最初にデスクトップ(CPU)で導入され、成熟したら、次にはLaGrandeは(CPUにとって)必然(inevitable)の技術になるだろうと考えている」とEden氏は昨年語っていた。

 実際、Intel内部では、LaGrandeの実装で2つのグループがあり、それぞれデスクトップとモバイルに向けて動いているという。

 LGA(Land Grid Array)パッケージ化も推測される。IntelはデスクトップCPUではTejasとPrescottでLGAパッケージを導入する。LGAでは金属のランド(電極パッド)を使うため、多ピン化が容易である上に、パッケージを薄型小型化できる。そのため、モバイルにも向いている。

●まだわからないプロセス技術

 Jonahのプロセス技術についてはまだわからない。しかし、登場が2005年前半だとするとまだ90nmである可能性が高い。65nmプロセスは、安定して生産できるのは2005年後半だと思われているからだ。

 また、Intelは、通常、新アーキテクチャのCPUをプロセス世代の後半で投入する。(1)安定したプロセスで作ることでリスクを減らすためと、(2)早めにサンプルを出すことで長期間の検証を行うためだ。そのセオリーからいけば、Jonahは90nmプロセスとなる。逆を言えば、Jonahのすぐあとに、同アーキテクチャの65nm版が続くことになる。

 そう考えると、MeromがJonahの65nmシュリンク版の可能性が考えられる。だとしたら、その次のGiloは、2003年から開発が本格化する次々世代アーキテクチャとなるだろう。その場合は、Baniasのチームが、Banias終了後にGiloの開発に取りかかったことになる。そう考えると、この時期になって3つの新コードネームが見えてきた理由も納得できる。現在取りかかっている、あるいは製品化が見えているのがGiloまでということだ。

 Giloは時期を考えると、設計データベースを流用するとしたらTejasの設計になるだろう。Prescott/Tejasでは、Intelの64bitアーキテクチャ「Yamhill(ヤムヒル)」が実装されていると見られる。とすると、Giloの時点でYamhillが入ってくる可能性がある。実際、Giloの時期を考えると、モバイルでも場合Yamhillが必要になる可能性がある。

 もっとも、こうした予測は、全て断片的な情報をベースにした推測に過ぎない。今回は、確度の高い情報として伝えることはできない。しかし、状況を分析すると、JonahがHyper-Threading、LaGrande、LGAパッケージ、PNIといった機能の全てか、あるいはいくつかを備えている可能性は高い。

□関連記事
【4月17日】【笠原】IntelがBanias、Dothanの後継として2005年にJonahを計画
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0417/ubiq1.htm

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(2003年4月28日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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