CeBIT 2003レポート

AMDがクライアント向け64bit版Windows XPの初期開発版をデモ


64bit版Windows XP。「Windows XP 64-Bit Edition Version 2003/Build 3754.dnsrv_amd64.030123-2000」と書かれている
会場:独ハノーバー市ハノーバーメッセ(Hannover Messe)
会期:3月12日~20日(現地時間)

 AMDは4月22日に、64bit命令セットをサポートするOpteronをリリースする。クライアント版のAthlon 64はやや遅れて9月にリリースされることになるが、ここCeBITにおいても、OpteronやAthlon 64に対応するマザーボードが多数展示された。

 また、驚くべきことに、AMDのx86-64をサポートするクライアント用64bit版Windowsが、Microsoftのブースに展示されていた。これまでサーバー用の64bit版Windowsが公開されたことはあったが、クライアント向けの64bit版Windowsが公開されたのは初めてだ。仮にこれが実際に投入されるという事態になれば、PC業界に地殻変動をもたらすことになり、大きな注目を集めている。



●ついに姿を現したクライアント版のx86-64対応Windows XP

 その秘密兵器は、CeBITのホール4にあるMicrosoftのブースにひっそりと展示されていた。すでに何度も公開されているOpteron用のサーバー用64bit版Windowsにならび、クライアント用の64bit版Windows XPが、Athlon 64の上で動作していたのだ。

 すでに、AMDは昨年のOpteronのブランド名発表のタイミングで、AMDとMicrosoftが64bit版OSの開発で合意したことを明らかにしていた。AMDによれば、この開発はサーバー用のみならず、クライアント用も含まれるとされており、その動向は大きな注目を集めた。だが、その後AMDが公開した開発中の64bit版Windowsはサーバー用だけであり、多くの関係者は、AMDとMicrosoftの共同開発というのは、サーバー用だけに有効なのだろうという受け止め方をしていた。

 ところが、今回公開された64bit版Windowsは、アルファ版にも満たない初期開発版ながら、クライアント向けのWindows XPで、サーバー用ではなかった。バージョン表示のところには「Windows XP 64-Bit Edition Version 2003」とかかれており、Serverという文字はどこにもない。そしてビルド番号のところには「Build 3754.dnsrv_amd64.030123-2000」とかかれており、AMDのx86-64命令をサポートした64bit版であることを指し示している。実際に64bit版のInternet Explorerが動作していたほか、32bit版のInternet Explorerも動作するなど、32bitのWindowsアプリケーションと64bitのWindowsアプリケーションが同時に動作している様子は“衝撃的”と言うほか無い。

AMDのバックステージで動作していたAthlon 64とWindows XP 64-Bit Edition 64bit版のInternet Explorer こちらはOpteron上で動作するサーバー用だが、64bit版Quake2と32bit版PowerPointが同じWindowsで同時に動作している


●Microsoftにとってはあまりおいしくない2つの64bit命令の併存

 もっとも、技術的にはさほど驚くべきことではない。というのも、MicrosoftのOSは、サーバーとクライアントはもともと同じカーネルで動作しており、x86-64の64bitコードをサポートするサーバー用OSがあるのであれば、それをクライアント用に転用するのはさほど難しいことではないからだ。その証拠に、今回公開されたWindows XPには、クライアント用Windows XPの象徴といえるユーザーインターフェイス「Luna」などは実装されていなかった。

 しかし、マーケット的インパクトは決して小さくない。第一に重要なことは、このデモがMicrosoftのブースで行なわれていたという事実だ(ちなみに、AMDのブースでは、報道陣やAMDの顧客のみが入れるエリアではデモされていたが、一般の来場者が入れるエリアでは公開されていなかった)。つまり、Microsoftが、x86-64対応64bit版Windowsのクライアント版を一般の来場者に見せることを許可したということだ。

 ただ、これがすぐにクライアント用x86-64対応64bit版Windowsがリリースされるようになるかと言えば、それは明確ではない。AMD ヨーロッパ担当ストラテジックマーケティングマネージャのデーブ・エベリット氏は「これは純粋にデモだ。Microsoftがこうした製品をリリースするかどうかは我々からは答えることができない」と述べるなど、AMDの関係者は慎重な言い回しに終始している。Microsoftもこの件に関しては、特に何もコメントしていない。

 もちろんAMDにしてみれば、「今すぐ出して欲しい」というのは本音だろうが、Microsoftにとってはおそらくそうではない。仮にMicrosoftが、x86-64対応64bit版Windowsをリリースした場合、クライアント向けWindowsが2つに分かれてしまう結果になる。言うまでもなく、IA-32向けのバージョンと、x86-64という2つのバージョンだ。さらに、以前「Yamhill Technology」といわれるIntelの64bit命令セットが話題になったが( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0131/kaigai01.htm )、仮にIntelがYamhillを実装してきた場合、Microsoftはこちらもサポートせざるを得なくなる。となると、64bit時代には、x86-64版WindowsとYamhill版Windowsが並び立つ結果となる。

 もちろん、どちらのOSでも32bitコードは同じx86命令が実行できる。しかし、64bit命令を実行するには、アプリケーションベンダは両方の命令セットに対応しなければいけなくなる。つまりアプリケーションベンダにとっては、頭が痛い問題となりうる。また、Microsoftも2つのOSを同時に開発せざるを得なくなり、開発リソースの分散などの事態が起こる結果となる。せっかくWindows 9x系を無くし、Windows NT系のカーネルに統合できたばかりなのに、再び2つのOSを同時に開発しなければいけない事態は、Microsoftにとってはおいしいストーリーではない。


●IntelにプレッシャーをかけたいMicrosoft

 どうしてMicrosoftは、クライアント用x86-64対応64bit版Windowsを開発し、それをCeBITで公開することを許可したのだろうか? ある業界関係者は、「もしMicrosoftが本当にAMD向けの64bit版Windowsを開発しているのであれば、それはIntelと何か取引をしたいからだろう」と指摘する。

 MicrosoftがIntelに対して何を望んでいるのかはわからないが、1つ考えられるのは、Intelに対して64bit命令のクライアントCPUへのインプリメントを急がせるというものだろう。Intelはクライアントにおける64bit命令の搭載をあまり急いでいない。その最も大きな理由は、彼らがIA-64のというサーバー専用の64bit命令セットを持っており、その立ち上げを急いでいるからだ。

 もし、今IntelがYamhillをクライアント用のPrescottやTejas、Nehalmという将来のCPUに搭載することが判れば、IA-64は大規模サーバーなど一部のエリアにとどまってしまうことになるだろう。Intelが描いているような、最初は大規模サーバーから始めて徐々に小規模なサーバーやワークステーションなどに落とし込んでいくという戦略は崩壊する。

 なぜならば、PCサーバーやワークステーションにとっては、同時にIA-32命令も実行できるx86-64のようなアプローチが望まれているからだ。おそらく、Yamhillが現実となれば、現在IA-64がカバーしているような部分にもYamhillベースのCPUが浸透することになるだろう。これはIntelにとっては最悪のストーリーだ。

 しかし、Microsoftにとっては、その方が都合がよい。彼らは、現在Intel向けにIA-32、IA-64という2つの命令セットのサーバーOSを別々に開発している。仮にIntelがYamhillのアプローチをとるのであれば、これらの2つのOSを統合して1つのOSにすることができ、開発リソースも節約することができるだろうし、他のOSに割くことも可能だろう。

 そうしたことを考えると、MicrosoftがIntelに対してYamhillを早く導入してほしいと考えている可能性が高いと言える。それを促すための武器が今回のx86-64対応64bit版Windowsではないのだろうか。


●Intel vs AMDの最終的な鍵を握るのはMicrosoft

 すでに説明したように、AMDの関係者はMicrosoftがクライアント用の64bit版WindowsをリリースするかどうかはMicrosoftに聞いてくれと口をそろえて言う。ある意味、これは彼らの本音ではないだろうか。上記のようにIntelにプレッシャーをかけることがMicrosoftの本当の狙いだとすれば、おそらくMicrosoftはAMDに対してクライアント向けの64bit版Windowsをリリースするという約束や言質は与えていないだろう。

 Microsoftにしてみれば、AMDと組んで64bitを推進していくというのは、大きなギャンブルになりかねない。少し前に、AMDはプレスリリースを出して、同社のシェアが18.7%に達したと発表したが、逆に言えば残りの80%以上はすべてIntelなのだ。また、AMDの製造キャパシティや彼らの工場に関するプランなどからいっても、AMDのシェアがIntelのそれを超えるというのはここ5、6年のレベルでは現実的にはあり得ないだろう。

 だが、それでもMicrosoftがこのx86-64対応64bit版Windowsをリリースしてくるのであれば、Intelの支配力は大幅に弱まる結果となる可能性もある。例えば、AMDがx86-64を他社にライセンスして、他社の製造キャパシティも利用してIntelに匹敵するような数を作れれば、別の展開だって無いわけではない(現実的にはかなり低いと思うが、何があるのかわからないのがこの業界だ)。

 むろん、これからIntelは全力をあげて、クライアント用のx86-64対応64bit版Windowsの阻止にかかるだろう。そこには、政治力がものを言う世界であり、何が起こるかは外にいる我々には見えてこないだろう。

 しかし、1つだけ言えることは、すべての決定権は、Microsoftにある。それが、今のIntelとAMDが置かれているポジションだ。

●OpteronやAthlon 64のマザーボードも多数展示され、来月のOpteronリリースに備える

 AMDブースやマザーボードベンダのブースには、OpteronやAthlon 64に対応したマザーボードが多数展示されていた。特にAMDブースには、始めてOEMメーカー製のOpteron用マザーボードが展示された。Opteronマザーボードは、MSI、RIOWORKS、TYANの3社により製造されており、4月22日に予定されているOpteronの発表と同時に、市場に出回ることとなる。

 なお、AMDはOpteronのモデルナンバー表示に関しても公開した。Opteronのモデルナンバーは次のような3桁で表示される

  Opteron XXX

最初の1桁目はプロセッサの数を示す。例えば、シングルプロセッサ(1ウェイ)用であれば1、デュアルプロセッサ(2ウェイ用)であれば2と表記される。2桁目と3桁目はOpteronの中での性能を相対的に示す表示となる。例えば、2ウェイ用であるとすれば、

  Opteron 230

のように、表示されるようになる。現時点ではOpteronのモデルナンバーは明らかではないが、当然Xeonを意識したものになるだろうから、230や228などのモデルナンバーになるのではないだろか。

 さて以上のように、マザーボードも出揃い、Opteronの準備は整ってきた。いよいよ、来月の22日に、ニューヨークにおいてOpteronが発表されることとなる。

MSIのOpteron用マザーボードMS-9131。CPUソケットを2つ、メモリソケットを6つ備え、PCI-Xスロットを備える RIOWORKSのOpteron用マザーボード。メモリソケットを8つ備えている TYANのOpteron用マザーボード。メモリソケットを6つ備えている

□CeBIT 2003のホームページ(英文)
http://www.cebit.de/homepage_e

(2003年3月17日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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