プロカメラマン山田久美夫のデジタルカメラレポート
「キヤノン EOS 10D」ベータ機
ファーストインプレッション


 キヤノンから実販20万円を切る630万画素デジタル一眼レフ「EOS 10D」が登場した。このモデルは昨年発売された「EOS D60」の実質的な後継機となるが、ボディーの基本性能を大幅にアップさせながらも、20万円以下の価格を実現した戦略モデルだ。

●D60よりアップした画質

 撮像素子は先代の「D60」と同じくAPSサイズの630万画素CMOSセンサーを搭載しているが、画質は「D60」よりもさらにアップしている。実解像度も向上しており、ノイズレベルも軽減。細部の偽色も軽減されるなど、なかなかの実力を備えている。

 今回はベータ版ボディーだったが、画質はとても良好でバランスのいい仕上がりが得られた。画素数的にはいまや1,000万画素を越える「EOS-1Ds」のようなモデルも存在するが、これだけの描写力を備えていれば、600万画素機でも十分な実力といえる。

 今回掲載したものは、露出やホワイトバランスなどはすべてカメラ任せのオート設定で撮影しているが、露出やホワイトバランスの制御も的確で、通常のシーンであれば、カメラ任せでも安心して撮影できるレベルだ。

 また、ISO感度も「D60」では最高でISO1000までだったが、本機ではISO1600までになり、カスタム設定でISO3200相当の超高感度撮影にも対応している。実際に撮影してみても、ISO100から400までは、ダイナミックレンジが狭くなったり、ノイズが増加するようなことはほとんどない。そのため、ズームレンズを常用する場合や曇天・屋内での撮影では、ISO400に設定しても、安心して常用できる実力を備えている。

●高品位なマグネシウム外装

 外観デザインは比較的「D60」に近いもので、いわゆる35mm一眼レフ的なオーソドックスなものに仕上がっている。

 「D60」との一番の違いは、外装が多くにマグネシウム合金を採用している点で、安心感や信頼感もあるが、なによりも手にしたときに金属外装独特のヒンヤリとした感触が得られる点は大きな魅力。「D60」で感じられたようなボディーの安っぽさが感じられなくなった点がなによりも好ましく感じられた。

 ボディーの重さは、従来機とさほど変わっていないが、重心がやや高くなったせいか、手にしたときにズッシリとした重さを感じるようになった点は少々気になった。

●EOS 7譲りの便利な7点測距AF

 「EOS 10D」の最大の魅力は、一眼レフとしての基本機能がワンランクアップした点。

 先代の「EOS D60」はもともと「EOS D30」をベースとしたモデルであり、基本設計が古いこともあって、一眼レフカメラとしてのポテンシャルの面で、やや力不足の感があった。

 だが、今回はカメラとしての基本機能を大幅にアップ。銀塩一眼レフの中堅機「EOS 7」とほぼ同等の基本機能を実現している。

 なかでもAF測距が十字配列の7点測距方式になった点は大きなポイント。さらに、AF測距速度や精度も向上しており、苦手なシーンも減少している。残念ながら、測距点の選択はマニュアル選択か自動選択しか選べず、視線の移動で測距点を選択できる「視線入力」機能は搭載されていない。

●より軽快になった撮影感覚

 撮影感覚は実に軽快なもの。この軽快感はいわゆるコンシューマー機が高機能になっても、やはり一眼レフタイプでなければ感じられない、独特なものがある。

 シャッターの切れ味もシャープで、なかなか心地いいもの。さすがに最高級機の「EOS-1D」シリーズのような切れ味の鋭さはないが、このクラスのモデルにそこまで求めるのは酷というものだろう。

 また、AF測距が高速化されたことも相まって、「D60」よりもさらに軽快な撮影感覚を実現している。

 ただ、カメラの起動時間や撮影中にカメラが自動的にスリープしてからの復帰時間は、相変わらず長めで、とっさの撮影では起動が遅いためにシャッターチャンスを逃すこともあった。このあたりは「EOS-1D」系のハイエンドモデルと大きく異なる点といえる。

●リーズナブルな実力派モデル

 本機はオープンプライスだが、店頭想定価格は20万円を切るレベルという。もちろん、そう簡単に買える価格帯とはいえないが、いつかはデジタル一眼レフを、と思っている人にとってこの価格は、きわめて魅力的なものといえる。

 実際に使ってみても、通常の撮影で機能面での不満を感じることはなく、外装や撮影時の感触に安っぽさを感じることもない。もちろん、実販30万円の「D60」と比べても、なんら劣るようなところはない。

 また、画素数は600万画素だが、掲載した画像を見ていただければわかるように、コンシューマー機の2/3型500万画素機よりも明らかにワンランク上の描写力を備えている。特に階調の美しさという点では、小型CCD搭載機とは比較にならないほどのポテンシャルを備えている。

 これだけの基本機能と画質を備えていながらも、実販20万円という価格を実現した点は大いに魅力的であり、すでにEOS用交換レンズを持っているユーザーで、デジタル一眼レフに興味のある人なら、購入を本格的に検討するだけの価値は十分にある。

 ただ、新規にデジタル一眼レフをシステムとして揃えようと考えている人は、ちょっとだけ待ってもいいのでは、と思う。というのも、昨日、ペンタックスから「*ist D」という同価格帯のモデルが発表されており、同じ価格帯ではフォビオンX3という独自のCMOSセンサーを搭載した「シグマ SD9」という選択肢もある。また、「ニコン D100」との価格差も5万円程度と比較的小さいなど、本機のライバルとなるモデルが目白押しだ。

 このように同価格帯で本機のライバル機となるモデルは数多く、画質(絵づくり)という面では、それぞれそのメーカーの個性があり、なかなか優劣が付けがたいのも事実だ。だが、基本機能の充実度という点で「EOS 10D」はピカイチの存在であり、EOSユーザーにとって、とても気になる新製品といえそうだ。

※共通撮影データ
レンズ:EF16-35mmF2.8L
露出モード:プログラムAE
ホワイトバランス:AUTO
感度:ISO 100

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最近のキヤノン製デジタルカメラに共通した、安定した絵づくり。色調・階調ともにきれいでバランスよく、どんなシーンでも安心して撮影できる。撮像素子は「D60」と同じAPSサイズの630万画素CMOSを搭載。APSサイズなので35mmカメラ換算では約1.6倍相当となるため、やはり超広角撮影はやや苦手。今回は16-35mmF2.8Lという高価な超広角ズームで撮影したが、同クラスの焦点距離で、手頃な価格帯のレンズが欲しいところ。
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ファインダー視野率は95%と実用レベル。液晶モニターでの再生時は全画面が100%表示される。ファインダーの倍率も0.88倍と適度で、眼鏡をかけている人でも全視野が容易に確認できる。再現が難しい朱色系の微妙な違いも的確に再現されている。
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「D60」と同じ画素数のCMOSセンサーだが、実写した際の解像度は本機の方が高く、ノイズも少な目。建物の壁面の質感もよく再現されている。ただし、描写力が高まった分、ごくわずかなカメラブレでも画質が大幅に低下してしまうので、撮影には細心の注意が必要だ。
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露出やホワイトバランスの制御が難しいシーンだが、フルオートのままでも的確な写りを実現している。一眼レフカメラとしてポテンシャルが高いため、誰が撮ってもオートのままで大半のシーンに対応できる。これなら一眼レフに多少不慣れな人でも大丈夫だろう。
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大型の撮像素子を搭載していることもあって、実に再現域が広く、明暗比が高いシーンでも安心。このカットでは真っ白な柱の微妙なグラデーションから、影になっている細部まで見事に再現されている。
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太陽が支柱の陰に隠れるようにして撮影したカット。太陽周辺の輝度の高い部分でも階調が破綻しておらず、空のグラデーションも滑らかだ。夕暮れの空の階調を活かすため、露出補正機能でマイナス1段補正しているため、シャドー部は潰れ気味だが、明暗比がきわめて高いためそれは仕方ないところ。また、AF測距が7点式のため、こんなシーンでも特にAFロックをしなくても、そのまま撮影できるところも実に便利だ。
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フルオートでの撮影だが、夕暮れ時の微妙なグラデーションが実に滑らかに再現されており、とても立体感のある写りを実現している。このような懐の深い描写力は、やはり大型素子搭載のデジタル一眼レフならではのものといえる。

□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2003-02/pr_eos10d.html
□製品情報
http://cweb.canon.jp/camera/10d/index.html
□関連記事
【2月28日】キヤノン、D60後継デジタル一眼レフ「EOS 10D」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0228/canon1.htm

(2003年3月1日)

[Reported by 山田久美夫]


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