電子的に筆跡を記録するペンデバイスは、CrossPadに始まり、SmartPad、InkLinkといくつか発売されてきた。新製品が登場するたびに小型化はしていくものの、その基本原理はタブレット(デジタイザ)であって、ペンの位置をセンサーで測定し、これを記録していくということに変わりはない。 CrossPadやSmartPadには、筆跡を検知するためのセンサーとして、下敷きのような専用のタブレット部分が必要だった。このため、どうしても持ち歩きに不便という欠点があった。InkLinkでようやくセンサー部分が小型化し、メモパッドの下に下敷きのようにセンサーを敷く必要はなくなったのだが、実際に利用するにはPDAが必要で、とっさに取り出してメモ、というところまでは到達していない。 ところがついに、Logitechのio Personal Digital Pen(以下ioと略す)が、ペンだけでの記録を可能にしたのである。なお、ここでとりあげた製品は米国で購入した英語版。現時点では、Logitechの日本法人である株式会社ロジクールからは発売もアナウンスもされていない。
米国での価格は199.95ドル。購入したのは、ニューヨークのAV&コンピュータショップ「J&R」である。Logitechのホームページによれば、OfficeDepoやCompUSAでも扱っているらしいが、少なくともマンハッタンでは、J&Rでしか見つけることができなかった。 ●原理はAnoto ioに使われている技術は、2001年に国内でもニュースになったスウェーデンのAnotoのもの。ペンの先にあるセンサーで専用用紙上に印刷された細かい点を読みとって、ペンの位置を測定し、筆跡を記録する。さらに点のパターンがメモ帳のページごとに違っており、個々のページを区別できるようになっている。 記録したデータはペン内のデータに溜め込んでおき、後でPCに転送する。専用用紙が必要なものの、ペンだけで筆跡を記録できるようになっているのである。
ペンは充電式。ペン内のメモリ容量は不明だが、カタログによれば40ページぐらいの記録が可能だそうだ。記録されたデータは、専用ソフトウェアでPC上に表示する。 専用用紙は、Mead(At-A-Glanceに買収されたために現在では同社の1ブランド)のCambridgeシリーズのDigital Notebook、3MのPost-It Notes for Digital Pens from 3Mのほか、Franklin Corbeyが同社の手帳システム用のリフィルを発売している。 ●日本語版Windows XPへのインストールは可能だが…… パッケージには、ペン、USB接続クレードル、ACアダプタ、専用ノート、Post-itなどが含まれている。基本的には、付属のCDでソフトウェアをインストールすれば、後は、専用ノートなどにペンで書くだけ。書き終わったら、クレードルに挿せば、ペンの中に蓄積されたデータが自動的にPCにダウンロードされる。 ただし、日本語環境で使うにはちょっと問題がある。この付属ソフトウェアが.NET Frameworkを必要としているのだが、日本語版の.NET Frameworkではインストールに失敗する。ページの表示は可能なのだが、ペンからのダウンロードができなくなる。解決方法としては、英語版の.NET Framework(ioのインストールCDにも含まれている)をインストールして、それからioのソフトウェアをインストールする。一度ioのソフトウェアをインストールした後なら、日本語版.NET Frameworkに差し替えてもちゃんと動く。ただし、Windows XP Professionalでしか試していない。 ●太いが意外と持ちやすいデジタルペン ioのデジタルペンは、かなり太目。本体サイドには、メモリ容量とバッテリ容量を示す2つのLEDがあり、またバイブレーターを内蔵している。内部には充電池があり、ペンの側面に、接続/充電用の端子がある。 ペン先の部分は、斜めに切り落としたようになっており、ボールペンとセンサー部分からなる。ほとんど真っ暗な状態で書いてみたが、ちゃんと記録されている。おそらく赤外線照射などが行なわれていると思われる。
特に電源スイッチなどはなく、付属のキャップを外すと電源オン、はめると電源オフとなる。また電源オン後、ペンが起動すると、バイブレーターでペンが軽く振動する。 後は、このまま書けば記録されていく。状態は、側面のLEDの色や点滅で示されるが、メモリやバッテリが少なくなってくるとバイブレーターでも通知される。手に持ったまま利用することを考えると、バイブレーターはいいインターフェースかもしれない。 また、ページ上の重要なチェックボックスなどに印を付けると、確認としてやはりペンが振動する。 最初に見るとペンが異様に太いような感じだが、実際に使ってみると太さはあまり気にならない。持つ部分は、断面が楕円になっているし、親指と人差し指の間に当たる部分は緩いカーブでへこんでいるなど、形状に多少工夫があるようだ。 問題は外したキャップの処置。いちおうペンの反対側に挿すことができるが、固定されないのでかえって不便だ。なくすと電源オフできないので、このあたりもう少し工夫が欲しかった。 ●ただのノートではないDigital Notebook ノートの中には、3種類のページが綴じ込まれている。最初には、チュートリアルと文字認識用のトレーニングページがあり、真ん中の部分はいわゆるノート、後ろには、予定/ToDo用のページがある。 このMeadのノートは、単純に筆跡を記録する部分と、記入すると文字認識されタイトルなどになるマス目、チェックすることでダウンロード後の処理を行なうチェックボックスなどがある。 ノートの部分は、ダウンロード後に単純なメモ、電子メール、Post-itソフトウェアへの転送などの処理が可能で、予定/ToDoのページへ記入すると、Outlookなどへ転送が可能になる。また、ルールを定義しておくことで、特定のタイトルを持つノートページを特定のフォルダへファイルしたり、メタファイルやMicrosoft Wordのフォーマットで保存させるといったことも可能。 Post-it型の用紙に記録したものは、自動的にPost-itソフトウェア(ioにLite版が付属)に転送される(普通のノートを後から転送させることも可能)。 電子メールは、Subject欄がメールのタイトルに、TO欄がメールの宛先となる。なお、ページは、JPEGのイメージとして転送される。 ●データはioReaderで見る ダウンロードしたページのデータを見るには、ioReaderを使う。ペンに記録したデータは、ページごとに管理される。このため、ダウンロードした後からノートのページに追記すると、ソフトウェア上でもちゃんと正しいページに追記される。 ただし、ページにあるDone欄をチェックすると、そのページへの記録は終わったものとみなされ、新しいページデータが作られる。おそらく1冊のノート内では個々のページが区別されるものの、違うノートの同じページは同じIDを持っているため、と想像される。違うノートに書いたデータが、それが以前に書いたノートに追記したものとして認識されないように、こうなっているのだろう。 ioReaderでは、ページを分割したり、他のページと合わせて1ページにまとめることなども可能だ。また、記録順に筆跡データを見ることもできる。さらに、一度作成されたノートを、Post-itやOutlookスケジュール、電子メールにすることも可能だ。
●下敷きやPDA不要の手軽さ 専用ノートを使うものの、やはりペンだけで記録ができるというは、従来のペンデバイスに比べると圧倒的に使い勝手が違う。使い勝手はCrossPadに近いが、ページ切り替えの必要がないこと、専用パッドが不要という点で手軽さが違う。また、PalmなどのPDAを併用するSmartPadやInkLinkに比べて、利用前にPDAを繋いだりといった作業が不要で、PDAにまつわるトラブル(赤外線で接続できないとか、途中でPDAがオートパワーオフしちゃうとか)もなく、安心してメモに専念できる。 なお、韓国のFinger Systemが、オプティカルマウスと同じ技術を使って、USBやRF、Bluetoothで接続できるペン(どうもWindowsのポインティングデバイスになるようだ。結局のところはマウスと同じ?)を発表している。現在、筆跡を記録できるペンを開発中とのこと。これが出ると、今度は専用ノートさえ要らなくなるのだが……。 □Logitechのホームページ (2003年2月3日)
[Text by 塩田紳二]
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