大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

シェア急増〜富士通がいち早く春モデルを投入する理由



■富士通が早くも春モデルを投入

 昨年10月の冬モデルも例年より約1週間早めに投入し、出足の良さを見せた富士通。春モデルでも同様の施策をとって、市場を先行する考えだ。

 果たして、春モデルで富士通のパソコン事業はどうなるのか。昨年12月にパソコン事業を統括するパーソナルビジネス本部長に就任した伊藤公久氏に、コンシューマ向けパソコン事業の話を中心に、富士通パソコン事業の今年の抱負などを聞いた。

■2強1弱から脱皮した富士通

富士通パーソナルビジネス本部長 伊藤公久氏

 昨年の冬モデルから、富士通のシェアが上昇し始めている。

 それまで、ソニーが独占的ともいえたコンシューマパソコン市場において、ソニーのシェアが減少、富士通、NECの3社がコンマ数ポイントでしのぎを削るというシェア争いを演じているのだ。

 先週の3連休中も、ある調査会社の調べによると、1位NEC、2位富士通、3位ソニーという、ここ数年では考えられない状況となっている。ソニーの低迷ぶりも気になるところだが、一昨年までは「2強1弱」とまで比喩され、低迷していた富士通の躍進がとくに目立つ。コンシューマ分野でのシェア拡大が課題となっていた富士通にとって、社内的にもこの躍進ぶりは高い評価を得ているようだ。

 では、なぜ富士通がここまで順位を引き上げてきたのだろうか。伊藤本部長は、冗談混じりに「心を入れ変えた成果」だと話す。

 「昨年の段階から、販売会社の富士通パーソナルズを中心に店頭で顧客の声や、販売店の声を早い段階から聞き、これを製品化に反映させた。また、社内的に若い人材の意見をドンドン採用する体制を作った。これが成功につながっている」と自己分析する。

 伊藤本部長は、冬モデルでの成功要因のひとつとしてスーパーファイン液晶の積極的な採用をあげる。

 「社内での評価を見ても、スーパーファイン液晶は、正直なところ年齢の高い層には受けが悪い。だが、若手社員の間では、これを推す動きが見られた。冬モデルでは30歳前後の社員の意見を積極的に取り入れた結果、スーパーファイン液晶の採用機種の比率が高まった。これまでの体制では、とても実現しなかったものだろう」と話す。

 冬モデルの実績を見ると、ノートパソコンでは実に50%以上がスーパーファイン液晶搭載モデルである。

 業界団体の会合などで、伊藤本部長は競合メーカー幹部から「よくあれだけ積極的にスーパーファイン液晶を採用しましたね」と声をかけられるという。それに対して、伊藤本部長は、「私の権限がないことの表れですよ」とジョークで応えるが、その言葉に裏には、伊藤本部長をはじめとする幹部の意見よりも、むしろ若手の意見を積極的に採用できる仕組みを構築し、これを成功につなげることができたことへの自信がある。

スーパーファイン液晶を搭載したモバイルノートMGシリーズ Smart Display付属モデルも選択可能な液晶一体型デスクトップのLシリーズ

 そして、今年の春モデルでも、引き続きスーパーファイン液晶を積極採用したことからも、若手の声を反映させるという仕組みが維持されていることがわかるだろう。

 もうひとつ、伊藤本部長が「心を入れ替えた」成果としてあげているのが、顧客や販売店の声を聞くという体制だ。

 これは昨年12月までパーソナルビジネス本部長を務めた伊東千秋執行役(現・プラットフォームビジネス企画本部長)が社内に浸透させたものだ。

 伊東執行役の指示は、「とにかく売り場に行き、店員から情報を引き出すこと、来店客と店員の会話をよく聞くこと」。それに加えて、「決して、これからなにが売れるでしょうね、ということは聞くな。いま、なにが売れているのか、その理由は何か。そして、どんなことにユーザーは困っているのかを聞いてくること」というものだ。

 それが冬モデルで反映された。

 デスクトップパソコンでは、DVD書き込みが可能なマルチドライブ搭載モデルのラインアップ拡充を図り、ノートパソコンでは、ほとんどのモデルにUSB端子を4個付属させた。これらも顧客の声を反映させた結果だといえる。とくに、低迷していたデスクトップパソコンのシェア上昇は、冬モデルでの新たな成果だろう。

 昨年夏の段階で、伊東執行役は、同社パソコンの出荷比率の65%を誇っていたノートパソコンの開発・設計部門から、数人をデスクトップの開発部門へと異動させた。

 「デスクトップパソコンは、差別化を打ち出した製品が登場しにくいといわれるが、ソニーのバイオWのようにやり方次第では、成長する分野。デスクトップ市場を開拓する可能性をもった製品を開発してほしい」というのが伊東執行役の命令。その結果、登場したのが、液晶ディスプレイ一体型のLシリーズだったというわけだ。

 また、先に触れたようにデスクトップで力を注いだDVDマルチドライブ搭載モデルの台数比率は、なんと4割に達したという。

 シェアが低迷していたデスクトップのシェア上昇は、そのまま富士通ののシェア上昇へとつながったわけだ。

■今年の重点課題はモバイルパソコンか?

 だが、富士通のパソコンラインアップを見ると、残念ながらフラッグシップになりうる製品が存在しない点が気になる。

 冬モデル、春モデルを通じてもそれは感じざるを得ない。極論すれば、他社の人気製品のいいところを集めた商品ばかりという言い方もできなくもない。富士通ならではの独自性が欲しいと思うのは筆者だけではないだろう。

 伊藤本部長も、その点は感じているようだ。

 「これまでにも様々な可能性を追求してきたが、売れる商品づくりを目指すと、どうしても最大公約数的な製品になりがちだ。だが、富士通のパソコン事業のイメージリーダーのような製品が必要だと考えている」

 そのひとつの答えがモバイルパソコンにありそうだ。

 「かつては、LOOXで新たな潮流を作ったものの、その勢いを継続できなかった反省がある。LOOXやモバイルノートのMGシリーズにおいて、富士通のモバイルパソコンを今後どうするべきか、という点を真剣に議論しはじめている。1月15日に発表した春モデルでは、MGシリーズでモバイルパソコンとしては初めてスーパーファイン液晶を搭載したが、夏モデルではさらにモバイルパソコンを強化して、モバイル系でのヒット商品を生み出したい」

 伊藤本部長は、次期モバイルパソコンにおいて、「まったく新しいものを考えてほしい」と社員に指示を出している。

 同社のパソコン事業の今年の重要なテーマのひとつがモバイルパソコンであり、そこに富士通のイメージリーダー的製品が生まれる可能性もありそうだ。

■シェアは追求しない姿勢を打ち出す

 コンシューマ分野において、激しいシェア争いを繰り広げる富士通にとって、トップシェア獲得は大きな目標のように見える。

 だが、伊藤本部長は、「シェアを目標にすると、ろくなことにならない」として、社内目標としてのシェアは掲げない方針だ。むしろ、市況に関しては、厳しい見方をしている。

 「冬モデルが成功した隠れた要因のひとつに、昨年夏モデルを残すことなく、冬モデルへとスムーズに切り替えることができた点がある。新旧両モデルを一緒に売る必要がなかったという点では、マーケティング面で見ても、様々な手が打ちやすい」

 事実、冬モデルの出足は好調だった。在庫処分に追われたソニー。そして、発売時期を例年通りとしたことで、事実上、ソニー、富士通に後れをとったNECは、広告展開も後手に回った。その間をついて、富士通のシェアが高まったのである。これにあわせて販売店でも、富士通の製品を売り場の目立つところに展示するようになり、これがまた富士通のシェアを高めるという好循環につながった。

 「結果的に他社よりも市況動向を悲観的に見ていたことが、売り残しを減らし、新製品へのスムーズなスイッチとなり、シェアを高めることにつながった。今後も慎重な見方には変わりはないが、サプライチェーンを活用して売れ行きに応じて臨機応変に対応できる体制を推進したい」と話す。

 製品づくりに関しては、先に触れたモバイルパソコンの強化に加えて、春モデルでは、DVDマルチドライブ搭載モデルをデスクトップで5割以上、ノートパソコンでも3割近くにまで引き上げる考えであり、この比重は、夏モデルではさらに高まるのは明白だ。

 そして、ホームサーバーに関するハード、ソフトなどの充実を図ることも今年の課題としている。Smart Display対応製品をいち早く投入したのもこうした狙いからだ。

 「家庭への普及率が高まり、家庭で複数台のパソコンを使ってもらえるような仕掛けをしたい。また、メインボードの開発、生産および最終アセンブリを国内で行なっているという特徴を生かして、信頼性の高さとともに、BTOによる組み合わせ提案なども積極化させたい」と話す。

 年末から台風の目となっている富士通は、今年、どんな製品を出してくるのだろうか。個人的には、ぜひ、イメージリーダーとなる製品投入を期待したいと思っているのだが。

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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0115/fujitsu1.htm

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(2003年1月16日)

[Text by 大河原克行]


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