変り種ThinkPad列伝 [最終回]

〜 業務ツールとしてのThinkPad〜

 今まで3回にわたってお届けしてきた変わり種ThinkPad列伝も今回が最終回となる。最終回のテーマは「業務向けThinkPad」である。プロフェッショナルのためのツールとして誕生したThinkPadは、高い信頼性と耐久性が評価され、業務分野でも幅広く利用されている。業務向けThinkPadは、店頭で販売されなかった製品も多いが、ここでは、そうした個人ユーザーにはあまり知られていないマシンを中心に紹介することにしたい。 [Text by 石井英男]
 
 
PS/55 T22sx('92年10月発表) 〜初代ThinkPadと同時に登場した日本IBM初のタブレット型PC

 CPU:i386SX/16MHz
 メモリ:2MB(最大6MB)
 フラッシュROM:3MB
 液晶:7.6型タッチパネル付きSTNモノクロ(VGA)
 バッテリ駆動時間:2〜4時間(標準バッテリパック使用時)
 サイズ:257×182×27mm
 重量:1.2kg
 搭載OS:IBM DOS J5.0/V(5522-SV2)
 標準価格:398,000円(5522-SV2)
PS/55 T22sx


 今から10年前の'92年10月、PS/55note C52 486SLCおよびPS/55note C23Vと同時に発表されたPS/55 T22sxは、日本IBM初のタブレット型PCである。PS/55note C52 486SLCは、海外ではThinkPad 700Cと呼ばれたマシンであり、日本ではPS/55noteとのダブルブランドで販売されていたが、同様にPS/55 T22sxもPS/55とThinkPadのダブルブランドがつけられている。

 PS/55 T22sxは、7.6型のタッチパネル付きモノクロ半透過型液晶の右側に、テンキーとカーソルキーなどを備えたタブレット型PCであり、液晶をペンや指でタッチすることで入力することができた。PS/55 T22sxは、バーチカル市場向けの製品であり、特定アプリケーションを導入して使うことが想定されていた。

 PS/55 T22sxは、HDDを内蔵しておらず、システムは内蔵のフラッシュROM(モデル5522-SV2)または、オプションのThinkPad File(TPF)カードから起動するようになっていた。TPFカードは、今でいうPCカードスロットに装着するフラッシュメモリカードで、2.5MB/5MB/10MBの3種類が用意されていた。TPFカードの当時の標準価格は、2.5MB(DOS J5.0/V初期導入済み)が105,000円、5MB(DOS J5.0/V初期導入済み)が140,000円、10MB(DOS J5.0/V初期導入済み)が205,000円とかなり高価なものであった。

 PS/55 T22sxは、オプションの拡張ボックス(FDD内蔵、キーボード、マウス、パラレル、シリアルポートを装備)とキーボードを装着することで、通常のキーボード付きPCとして利用することも可能であった。このあたりは、今のピュアタブレットタイプのTablet PCともよく似た設計である。また、オプションとして専用のシートタイプ・キーボードも用意されていた。筐体の材質にはThinkPad 220と同じマグネシウム合金が採用されており、軽さと強度を両立させていた。重量も1.2kgと軽く、10年前のマシンとは思えないほど完成度の高いマシンであった。

ThinkPad 710T('93年1月発表) 〜着脱式のハンドルが付属する2代目タブレット型PC

 CPU:IBM486SLC/25MHz
 メモリ:4MB(最大12MB)
 HDD:60MB
 液晶:9.5型STNモノクロ(VGA)
 バッテリ駆動時間:3.3時間(バックライトオン)、4.3時間(バックライトオフ)
 サイズ:297×244×36mm
 重量:2.6kg
 搭載OS:IBM DOS J5.0/V、PenDOS J2.0(2523-J02)
 標準価格:498,000円(2523-J02)
ThinkPad 710T


 ThinkPad 710Tは、PS/55 T22sxの後継の2代目タブレット型PCとして登場したマシンだ。PS/55 T22sxの登場からわずか3カ月後に発表されたマシンだが、デザインは大きく異なっている。液晶が9.5型に大型化されたため、筐体も二回りほど大きくなっている。CPUやPCカードスロットなどの仕様が強化されているが、重量は2.6kgと重くなり、携帯性は犠牲になってしまった。PS/55 T22sxでは、HDDを内蔵していなかったが、ThinkPad 710Tの上位モデルでは、60MBのHDDを内蔵していた。このHDDには、IBM DOS J5.0VとPenDOS J2.0が導入されており、日本語を含む手書き文字認識を実現したことも本製品のウリだ。

中央がハンドルをつけた710T。左はオプションのキーボードを付けたPS/55 T22sx。右は220

 PS/55 T22sxでは、テンキーやカーソルキーを装備していたが、ThinkPad 710Tでは、それらのキーは省略され、バックライトのオン/オフスイッチやコントラスト調整などのボタンのみ装備している。インターフェイス類も大幅に強化され、本体にディスプレイ出力やキーボード、マウス、シリアル、パラレル、FDDの各ポートが実装されていた。そのため、拡張ボックスは廃止されている。

 ThinkPad 710Tは、着脱式のハンドルが付属していたこともユニークな点だ。本体を直接片手で抱えて持ち歩くにはやや重いが、ハンドルを装着すればアタッシュケースのように持ち運べるので、手から滑って落としてしまう心配もない。また、大型バッテリを搭載していたため、バックライトオフの状態で4.3時間という長時間駆動を実現していたが、駆動時間を半分にしてもいいから、軽くしたいという要望に応えるために、オプションとして通常のバッテリー・パックの半分の容量を持つハーフバッテリー・パックが用意されていた。

IBM 2435 ペン・コンピューター('96年10月発表) 〜重さ1kgでコンパクトなタブレット型PC

 CPU:Am5x86/133MHz
 メモリ:24MB(固定)
 HDD:810MB
 液晶:7.8型DSTNカラー65,536色(VGA)
 バッテリ駆動時間:1.7〜3.4時間(標準バッテリパック使用時)
 サイズ:210×148×32mm
 重量:1.0kg
 搭載OS:Windows 95、Pen Service for Windows 95 v2.0(2435-001)
 標準価格:449,000円(2435-001)
IBM 2435 ペン・コンピューター


 ThinkPad 710Tの後継としては、'94年12月にThinkPad 730Tが登場し、'95年10月には、そのマイナーチェンジモデルのThinkPad 730TEが登場した。さらにその1年後の'96年10月に登場したタブレット型PCがIBM 2435 ペン・コンピューターである。ただし、名称からわかるように、IBM 2435 ペン・コンピューターはThinkPadブランドの製品ではない。

 IBM 2453 ペン・コンピューターは、7.8型DSTNカラー液晶を搭載しながら、重さ1kgという軽量ボディを実現し、ボディも歴代の日本IBMのタブレット型PCで、最もコンパクトにまとまっていた。背面に片手を差し入れて本体を保持するためのストラップを装着できるのも、立ったまま片手で持って使うというシチュエーションを想定したためであろう。810MBのHDDを搭載しており、OSとして、Windows 95とPen Service for Windows 95 V2.0が採用されていた(モデル2435-001)。ただし、メモリは24MB固定(モデル2435-001)で、増設することはできなかった。

ドッキングステーションに取り付けた2435ペン・コンピュータ

 IBM 2435 ペン・コンピューターは、本体のサイズが小さいため、インターフェイスは、PCカードスロットとIrDAのほか、シリアルとキーボードしか装備していなかった。そのため、ThinkPad 710T/730T/730TEでは廃止されていたドッキングステーションが再び復活した。ドッキングステーションには、FDDやPCカードスロットを装備しているほか、ディスプレイ出力、キーボード、マウス、シリアル、パラレルの各ポートが用意されていた。ただし、ドッキングステーションの形状は、PS/55 T22sxのそれとは異なり、ドッキングステーションの本体部分が土台になり、その上にIBM 2435 ペン・コンピューターを斜めに装着するようになっている。

 IBM 2435 ペン・コンピューターは、企業向けの受注生産品であり、個人ユーザーにはあまり縁のないマシンだが、そのコンパクトで軽いボディは、今でも十分魅力的であろう。

IBM 9103-A25 タブレットPC('98年1月発表) 〜大型TFT液晶を搭載したタブレット型PC

 CPU:Am5x86/133MHz
 メモリ:32MB(固定)
 HDD:1GB
 液晶:10.4型TFTカラー(VGA)
 バッテリ駆動時間:不明
 サイズ:不明
 重量:1.0kg
 搭載OS:OS/2 WarpまたはWindows 95
 標準価格:不明
IBM 9103-A25 タブレットPC


 IBM 9103-A25タブレットPCは、'98年1月に発表されたタブレット型PCであり、IBM 2435 ペン・コンピューターの後継機として位置づけられる製品だ。IBM 9103 タブレットPCには、9103-A25以外にも9103-001や9103-015、9103-A12、9103-A22など、仕様の異なるいくつかのモデルが存在する。9103-A25は、液晶ディスプレイとして10.4型TFT液晶を装備しているが、9103-015や9103-A12、9103-A22では10.4型DSTN液晶が採用されていた。

 IBM 9103 タブレットPCは、IBM 2435 ペン・コンピューターと同様に受注生産品であり、生命保険会社などで営業ツールとして大量導入されたようだ。IBMのWebサイトには、千代田生命保険相互会社が12,000台のIBM 9103 タブレットPCを導入した事例などが紹介されている。導入先によって仕様がカスタマイズされていたようで、詳細な仕様についてはあまり明らかにされていないのだが、液晶のサイズが10.4型に大きくなったことを除けば、基本的なハードウェア仕様はIBM 2435 ペン・コンピューターとそれほど変わっていない。ただし、サイズは一回り以上大きくなり、外部ディスプレイやパラレル、外部FDDなどのポートが標準装備されていた。OSとしては、OS/2 WarpまたはWindows 95が搭載されていたが、Am5x86/133MHz+メモリ32MBの組み合わせでは、やや動作が重かったようだ。

 IBM 9103 タブレットPCは、すでに全モデルが販売・営業活動を終了している。また、保守活動も9103-0xxモデルについては2003年1月31日付けで、9103-Axxモデルについては2004年1月31日付けで終了することがアナウンスされている。

IBM 5499オンライン・ノート('89年秋発表) 〜PS/55noteに先駆けて登場した携帯オンライン端末

 CPU:80C186/8MHz
 メモリ:640KB
 RAMディスク:256KB
 液晶:640×400ドットモノクロ
 バッテリ駆動時間:3.5時間
 サイズ:297×210×45mm
 重量:2.0kg
 搭載OS:MS-DOSバージョン3.2
 標準価格:不明


 最後に、ThinkPadの前身であるPS/55note(初代機は'91年3月発表)よりも、さらに1年半くらい前に登場したIBM 5499オンライン・ノートを紹介する。IBM 5499オンライン・ノートは、いわゆるPCではなく、AS/400というIBMの汎用機のオンライン端末として使うことを想定した製品である。

 IBM 5499オンライン・ノートは、CPUとして、80C186/8MHzを搭載し、MS-DOS V3.2やかな漢字変換辞書、フォントを内蔵ROMとして標準搭載していた。HDDの代わりとして、RAMディスクを128KB(モデル5499-001)または256KB(モデル5499-002)を装備していた。ICメモリー・カード用スロットを2基装備しており、IC-ROMカード(容量は128KB〜2MB)またはIC-RAMカード(容量は128〜512KB)を利用することができた。また、1200bps(モデル5499-001)または2400bps(モデル5499-002)対応モデムを内蔵しており、ターミナルソフトの5250エミュレーターを利用して、公衆電話回線経由で、AS/400のオンライン端末として使うことができた。また、簡易ワープロソフトや表計算ソフト、エディターなどのビジネス用ソフトもいくつか用意されており、単独でPC的な使い方をすることも可能であった。

 IBM 5499オンライン・ノートは、業務向け製品の最たるものであり、業務向けThinkPadのルーツがここにあるといってもよいだろう。

(2002年11月29日)

[Text by 石井英男]


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