Windowsプラットフォームを採用した車載PC
クラリオン「Auto PC CADIAS」を試す



 クラリオンが12月1日に発売するWindows CE for Automotiveベースの車載コンピュータ「Auto PC CADIAS」の記者説明会に参加することができた。“車載コンピュータ”というと、近年大きく実用性が向上したカーナビゲーションシステムを思い浮かべる人も多いだろうが、“カーナビ”ではなく、“車載コンピュータ”とわざわざ記すのには理由がある。

 CADIASにはカーナビと同様の機能もあるが、もっと広範なドライバー向けのインフォメーション端末になることを目指した、汎用性の高いコンピュータシステムだからだ。日産CARWINGS、トヨタG-BOOK、ホンダインターナビなどの、通信技術によるライブ情報の配信とコンピュータ技術の融合を目指したテレマティクスというカテゴリに含まれる製品なのだ。

 といっても、いきなりテレマティクスと言われても、どんな製品なのか想像がつきにくい。まずはCADIASが持つ機能性について、PCユーザー的な視点から説明してみることにしよう。

●車にパソコンを組み込む? CADIAS

 CADIASのハードウェアスペックを見ると、とても車載機器とは思えない項目が並ぶ。プロセッサは日立SH-4/166MHzを搭載し、64MB RAMを搭載、8MBのビデオメモリにアクセラレータチップ、音声処理用DSPチップにUSBポートを装備。DVD-ROMドライブ1基とType 2 PCカードスロット1基、携帯電話用通信端子1基を装備する。

 と同時にTV/FM/AMチューナや4チャンネルアンプ、インダッシュタイプの7型ディスプレイを備えるなど、カーAVコントロールセンターとしての機能も持っている。まるでAVパソコンの機能をWindows CEベースで作り、それを車に組み込んだような、そんなハードウェアである。

 これらの組み合わせにより、DVDプレーヤやカーナビ機能、MP3/WMAプレーヤ、Webブラウザ、メール端末、スケジュール端末など、多彩な機能を実現しているのがCADIASである。特に通信機能には力が入れられており、後述するようにWebブラウザと連携して行き先を決定するなどの機能が提供される。操作性もタッチパネルとジョグダイヤルなどを使ったコントロールスイッチ、音声認識を併用するシンプルなもので、直感的な操作が可能。

試乗車(トヨタ ist)に取り付けられたCADIAS 7型ディスプレイはインダッシュタイプなので、ダッシュボード内に格納することもできる。写真ではWebブラウザでCADIASのサイトにアクセスしている ディスプレイの下にメインスロット(DVD-ROMドライブ)が、本体下部に左から携帯電話用端子、USBポート、PCカードスロットが並ぶ。写真では携帯電話用端子に携帯電話用ケーブルが、PCカードスロットにPHSカードが、それぞれ取り付けられている
操作は本体のスイッチ類のほか、タッチパネル(写真左)、リモコン(写真中)、音声認識(写真右、本体に付属するマイク)で行なう

 クラリオンはこのCADIASのハードウェアをベースにOSのバージョンアップを行ない、それと共にネットワークを通じて様々なサービスと連携させようとしている。中でもカーナビ機能のネット志向は顕著なものだ。

●ネットからダウンロードした地図でナビゲート

 カーナビと言えば地図データの保管方法。カーナビ専用機ではDVDもしくはHDDが用いられるが、本機は基本的にDVDやHDDには地図データを持たない。その代わり、メインスロット(DVD-ROMドライブ)に挿入されたCD-Rもしくはサブスロット(PCカードスロット)に挿入されたメモリデバイスに記録した地図データを利用する。ではその地図はどこから引っ張り出すのか?

 CADIASにはPCと連携するための専用ソフト「CADIAS Editor」が付属しており、これを通じてAccessNAVIと名付けられたナビゲーションネットサービスに接続し、地図データをダウンロードしておく必要がある。もしくはPCカードスロットや携帯電話通信端子、あるいはUSB端子に携帯電話やPHSカードなどを接続し、CADIAS内に地図データをダウンロードすることになる。地図データはパイオニア製カーナビ用ソフトやPC用地図ソフトの開発元として知られるインクリメントPが提供する模様だ。

 クラリオンの説明では、カーナビのデータをネット配信にすることで、年次更新のコストと手間の削減、最新地図データの提供などが行なえることがメリットとしている。100mスケールまでの全国の地図データをすべてダウンロードしても、サイズは500MB程度とのことなので、ブロードバンド環境を持っているユーザーならば、必要な地図データを入手するのはそれほど面倒なことではない(なお、1.5km以上のスケールは本体内のメモリに内蔵しているようだ)。また、CADIAS Editor上でルート検索をあらかじめ行なっておき、メモリカードにルート情報を記録しておくことも可能だ。

PC上のCADIAS Editor。音楽のエンコードやプレイリストの編集、アドレスブックやスケジューラの編集などの機能を備える CADIAS Editorでルート情報を設定しているところ ナビゲーション中のCADIAS

 ただし、AccessNAVIを利用するためには毎月1,480円の情報サービス料が必要になる。地図データをあらかじめダウンロードしている場合でも、車からのルート検索やリルート検索はCADIAS側ではなくAccessNAVIのサーバー側で行ない、検索結果をネット経由で受け取る仕様になっているため、カーナビ機能を利用するためには継続的にサービス料を支払う必要がある(年次更新ディスクは数万円するため、その分が月次のサービス料になったとも言える)。

●CADIAS Editorを使ったPC連携

 CADIAS Editorはカーナビ機能以外でも重要な役割を果たす。たとえばMP3/WMAのデータのプレイリスト作成やアドレスブック(住所録)のデータ、イメージエディタ(地点やアドレスブック、音楽に付随して表示する写真を作成する)の登録は、すべてCADIAS Editorから行なう。プレイリストやアドレスブックのデータは、音声検索用のふりがなが必要などの理由からCADIAS独自形式となっており、他のアプリケーションは利用できない。

 その代わりと言ってはなんだが、アドレスブックのエディタには、Outlookのデータをインポートする機能が付属している。スケジュールデータもOutlookからインポートできるが、音楽やTV番組の予約機能とも連動するため、こちらもやはり独自形式のデータとなっている。

CADIASのアドレスブック。Webブラウザのブックマーク情報なども統合されている CADIASのスケジューラ。個人のスケジュールを入力できるほか、ラジオやTV番組の予約機能と連動する

 ただ、CADIAS EditorはPC上でWindowsのユーザーインターフェイスを用いて動作するものの、残念ながら既存PCデータとの連携は決して良好とは言えない。またMP3/WMAデータの作成機能は内蔵しているが、曲名データはCD-TEXTにしか対応しておらず、CDDBなどのオンライン曲名サービスを利用できない。Outlookとの連携もインポートだけで同期などのアプローチはサポートしていないなどの問題がある。

●あちらを立てると、こちらが……

 CADIASのコンセプト自身は、とても野心的なものだが、コンセプトが先行しす ぎ、実が伴っていない印象を強く受ける。CADIASは将来的に、周辺の施設やプレ イスポットの検索をネットサービスで提供し、そこで見つけた情報を元に行き先 を決めるといった使い方を提供するなど、様々なネットワークサービスを展開す るそうだ。しかし(あまりネガティブな感想を述べるのは本意ではないが)、ネットワークサービス依存型でありながら、現行の製品はネットワークサービス を100%生かし切れていない印象を受ける。

 たとえば、クラリオン担当者はCADIASを使う上でもっともコスト効率の良い通信手段はAirH"を用いることだと話している。ところがAirH"の通信カードをPCカードスロットに差し込むと、PC連携で使うべきメモリスロットが埋まってしまう。ならばメモリカードにダウンロードしておく情報をCD-Rに入れておけば良い、ということになるが、CADIAS EditorにはCD-R書き込み機能が用意されていないため、自分でCD-R書き込みアプリケーションを用いてデータをCD-Rに焼き込まなければならない。

 またあらかじめルート検索を行なっておく場合を除き、ルート検索は基本的にネットサービスとして提供される。これはリルート(走行中にルートを外れたときに、再度ルートを検索し設定しなおすこと)が発生した場合も同様で、リルート時に通信が切れていると、再度ネゴシエーションを行ない、ログインし、サービスのリクエストをしてサーバーからの返答を待つ必要がある。通信状態が維持されていれば、さほど時間のかからない処理だが、再接続を何度もリトライしなければならないケースも考えられ、また地域によって通信できないケースも考慮すると、至便であるとは言い難い。

 さらに地図データをCD-Rに焼いてメインスロットに挿入しておくと、音楽CDを聴くことができない。MP3/WMAをメモリカードに入れ、PCカードスロットから再生させることは可能だが、その場合は通信手段としてUSB経由のFOMA端末か、携帯電話端子に接続するPDC、cdmaOne端末が必要になる。せめてType 2 CFスロットが別に1スロットあれば、ある程度運用性は上がるのだが……。

 毎月の通信料金とAccessNAVIのサービス料金が毎月、しかもそれなりの金額になってしまうのも難点だ。トヨタのG-BOOKのように通信機能を内蔵し、月々のサービス料金(G-BOOKの場合はリース料金)にパケット通信料を組み込むという手だてなど、自動車業界の事情に合わせた工夫が必要だだろう。

 あるいはHDDを内蔵していれば、これらの不満もある程度解決できるはず。クラリオンによると、USB端子にHDDを接続できるようにする計画があるようだが、USB端子は前面にしか存在しないため、車内のケーブルの取り回しが悪くなるだろう。なお、USB端子は背面には用意されていない。

 将来的にはHDDを内蔵したCADIASも検討しているとのことなので、自分なりのユーゼージに合わないと思うならば、既存のカーナビ専用機を選択するか、あるいは次世代製品を待つ方がいいだろう。

 テレマティクス分野はカーナビ、カーAV、ドライバ向け情報サービスなど、様々な側面を持っており、自動車メーカーは車とエレクトロニクス、通信技術の統合を行なおうとしている。こうした分野に、アフターマーケット市場向けのCADIASがどのように挑戦するかが、今回の試乗会で一番気になるところだったが、まだまだこなれていないというのが正直な感想だ。

 クラリオンはOSやソフトウェアのアップグレードなどで、将来もサポートを行なうと話しているが、不足しているハードウェアの要素を補うには限界がある。テレマティクスプラットフォームとしてのCADIASは可能性こそ示してはいるが、ユーザーに満足を届けるためにはもう一段、機能やサービスの面でこなれる必要があるだろう。


□クラリオンのホームページ
http://www.clarion.co.jp/
□製品情報
http://www.addzest.com/cadias/index.html
□関連記事
【10月16日】クラリオン、Windows CE搭載の車載PC「CADIAS」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1016/wpc02.htm

(2002年11月28日)

[Text by 本田雅一]


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