会期:10月14日~17日(現地時間) 会場:米サンノゼ Fairmont Hotel
MPFの会場において、IntelはBaniasの情報をより詳しく発表した。それでも、いくつかまだ発表していないこともある。1つはブランド名であり、もう1つはいつBaniasを発表するのかということだ。本レポートでは、それらのまだまだBaniasに覆われているベールを情報筋より得られた情報を元にまとめていきたい。 ●BaniasとOdemは3月に発表、Montara-GMのみ4月に発表 エンドユーザーとして最も気になるリリース時期だが、Intelは正式には2003年前半とのみ説明している。情報筋によればIntelはすでにBaniasのリリース時期を2003年3月に決定したとOEMメーカーに対して通知しているという。 3月にリリースされるのは、Baniasの通常版、低電圧(Low Voltage:LV)版、超低電圧版(Ultra Low Voltage:ULV)版の3種類で、通常版が1.60GHz、1.50GHz、1.40GHz、1.30GHzの4製品、LV版が1.10GHz、ULV版が900MHzとなっている。なお、同時にチップセットのOdem(グラフィックスコアなしの単体版)がリリースされるが、グラフィックス統合版のMontara-GMは4月に別途リリースされることになるという。 Banias自体の開発は非常に順調であると伝えられており、Baniasの通常版は現在開発の最終段階を迎えている。まもなく出荷版となるB1ステップのエンジニアリングサンプルがOEMメーカーに配布され、11月中にはQS品(製品出荷版)がOEMメーカーに対して提供されるという。このほか、チップセットのOdem、IEEE 802.11aと11bのデュアルバンド無線LANカードのCalexico(キャレクシコ)の開発も最終段階を迎えており、やはり11月にはQS品の提供が行なわれる予定になっているという。 ●Baniasプラットフォームに全く新しいブランド名をつける新戦略、BaniasはPentiumベースのブランドに 以前、TECHXNY/PC EXPOのレポートで、Baniasの新しいブランドネームはBaniasそのものと、チップセットと無線LANカード(Calexico)を含めたBaniasプラットフォームに関してもブランド名がつけられると説明した。例えば、Baniasのブランド名がMobironだとすると、BaniasプラットフォームはMobiron Plusになり、新しいブランド名は9月にも発表されるだろうとレポートした。 その後、この戦略が大きく変更された。ただ、基本線は変わっていない。実際、Microprocessor Forumのプレスブリーフィングにおいて、Intel イスラエルモバイルプラットフォームグループ ジェネラルマネージャのモリー・イーデン氏は「Baniasは単なるCPUではない。Baniasはプラットフォームも含めたBaniasプラットフォームとして真価を発揮する」と述べるなど、IntelはBaniasそのものよりもBaniasプラットフォームが最も価値があるものであるという姿勢を強調する。 それでは、何が変わったのかと言えば、実はデスクトップPCも含めたIntelのブランド戦略が大きく変更されることになる模様だ。情報筋によれば、Intelは2003年にBaniasプラットフォームのみならず、デスクトップPCのIntelプラットフォームに対しても新しいブランド名を付加する計画を立てているという。 これまで、IntelはCPUのみにブランド名を付加して、そのブランド名を高めるマーケティングを行なってきた。だが、今後はCPUだけでなく、チップセットや周辺環境を含めたプラットフォームとしてブランド名を付与し、そのブランド価値を高めるマーケティングプログラムが展開されていくという。 つまり、Pentium 4であれば、これまではPentium 4だけに対してブランド名を高めるプログラムが展開されたが、今後はPentium 4にチップセット(例えばIntel 845GE)、ギガビットイーサネットチップなど周辺部分も含めた全く新しいブランド名がつけられ、エンドユーザーに対してIntelプラットフォームとしてのプロモーションなどが行なわれることとなる。 これは、Intelのブランド戦略の大きな転換点であるといえる。IntelがCPU、チップセット、LANコントローラなどを含めてすべてを持っているのに対して、ライバルとなるAMDはチップセットに関して他社に依存している状況だ。したがって、Intelがこうした戦略をとれば、何らかの対抗策を考える必要がでてくるだろう。 なお、CPU自体のブランド戦略に関しては、これまで通りプレミアムがある製品に関しては“Pentium”をベースにしたもの、バリュー向けに関しては“Celeron”をベースにしたものになるという。このため、Baniasも“Pentium XX”というものになる模様だ。情報筋によれば、新しいブランドネームは12月にも明らかにされる見通しになっており、まもなくその全貌が明らかになるだろう。 ●2003年中にモバイルPentium 4-MからBaniasへの移行を急速に終える 9月以降、IntelはモバイルPentium 4とBaniasの棲み分けをどうするのかと質問されるたびに次のような回答を繰り返している。「モバイルPentium 4はトランスポータブルの市場に今後も採用されている、Baniasはモビリティの市場で採用されることになるだろう」(Intel モバイルプラットフォームグループ マーケティングディレクター ドン・マクドナルド氏)。 つまり、部屋から部屋へと持ち運べる程度の大きさ、例えば16型の液晶を搭載したデスクトップ置き換えタイプの市場では、モバイルPentium 4が今後も利用され、常に持ち歩くフルサイズ~サブノートのセグメントではBaniasが使われることになるというのだ(日本人にはフルサイズノートPCを持ち歩くというと奇異に聞こえるかもしれないが、米国ではフルサイズは十分常に持ち歩けるジャンルに分類されている)。 この背景には、Intelのモバイルロードマップのセグメントが9月に定義され直されたということがある。9月以前のIntelのロードマップではノートPCのフォームファクタによるセグメントは、フルサイズ、シン&ライト、ミニノート(日本ではサブノートに相当、以下同)、サブノート(日本ではミニノートに相当、以下同)という4つのセグメントに分類されていた(実はこれとは別にバリューというセグメントがあるのだが、フォームファクタという意味では別の扱いなので、今回は省略する)。 だが、9月以降のロードマップでは、フルサイズの上にトランスポータブルというセグメントが新たに創設された。このトランスポータブルというセグメントが作られた背景には、デスクトップPC用のPentium 4を利用した、いわゆる“デスクノート”の伸張がある。 すでに多くのノートPCベンダは、デスクノートに取り組んでおり、デスクトップの代わりとして利用されるデスクトップリプレースメントとして人気を博しつつある状況だ。Intelとしても、この市場に何らかの答えをだす必要があり、9月のロードマップより、新たに-MがとれたモバイルPentium 4 3.06GHzという製品を2003年の後半にリリースするという方針が付け加えられた。 モバイルPentium 4はTDPを70Wと高めに設定することで、ほぼそのままデスクトップPCのPentium 4をノートPCに搭載するというものだ。従来のデスクノートと異なるのは、このモバイルPentium 4がエンハンストSpeedStepテクノロジをサポートし、バッテリー駆動時にも一応の配慮がされていることだろう。モバイルPentium 4のラインはこちらに置き換えられていき、おそらく将来的にはPrescottへと切り換えられていくことになるだろう。 こうした、トランスポータブルというセグメントが創設されたことで、Intelは、残りの“モビリティ”(フルサイズ~サブノート)の市場において、急速にモバイルPentium 4からBaniasへの移行を促していく。 以前、IntelはフルサイズのセグメントはモバイルPentium 4が残るというやや弱気なロードマップをOEMメーカーに説明していたのだが、現在は2003年の終わりまでにフルサイズでも完全にBaniasへ移行するという強気なものへと変更されている。そこに、Intelの“モビリティ”市場においてはBaniasを急激に普及させていくという意志が込められている。 ●BaniasはIntelにとっても壮大なチャレンジ 確かにBaniasは2003年の1月には2.40GHzが発表される予定のモバイルPentium 4-Mに比べると、リリース時に1.60GHzとクロックでは劣っている。だが、デュアルバンドに対応した無線LANが安価にバンドルされること、以前の記事でも指摘したように実際のパフォーマンスではモバイルPentium 4-Mを上回る可能性が高いこと、それでいて消費電力が低いため、より小型薄型の筐体で利用可能なことなどメリットは決して小さくない。そして、それらを補完する強力なマーケティングプログラムの存在など、IntelのBaniasに対する“本気”度を占う要素はいくらでもある。 BaniasはIntelにとっても壮大なチャレンジだ。これまでIntelはモバイル向けのCPUを、デスクトップPC用のCPUがでて、プロセスルールが1世代シュリンクしたところでモバイル用を提供してきた(モバイルPentium 4-MがWillametteではリリースされず、Northwoodでリリースされたのが一番最近の例だ)。これは、IntelのみならずAMDもそうした戦略をとってきた。 だが、トランスメタの登場により、そうした戦略が正しいのか、モバイル専用のCPUが必要なのではないかというテーマが提起された。Intelとしてもそれに対する答えを出さなければいけなかったわけで、それがIntel初のモバイル専用として設計されたBaniasだ。 だが、もしモバイルPentium 4からBaniasへの移行に失敗すれば、そこを従来のモバイル戦略で挑もうと考えているAMDが待ちかまえている。そういう意味でも、IntelはBaniasに向けてかなり大きく、そして重たい舵を切ったと言ってよいだろう。 □Microprocessor Forumのホームページ (2002年10月18日) [Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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