変り種ThinkPad列伝 [第2回]

~ ギミックが面白い製品たち(その2) ~

 初めてThinkPadの名を冠したThinkPad 700C(国内ではPS/55note C52 486SLCとのダブルブランド)が登場したのは、今からちょうど10年前の'92年10月のことである。ThinkPadというと質実剛健なイメージが強いが、バタフライキーボードの搭載や、プリンタ内蔵マシンなど、一風変わった製品も多数存在する。ここでは、そうした変わり種ThinkPadにスポットを当てていくことにしたい(厳密にいうとThinkPadシリーズではない製品についても、関連が深いものは取り上げる)。
 第2回目も、前回に引き続いて、ギミック(仕掛け)が面白い製品を紹介していく。 [Text by 石井英男]
 
 
ThinkPad 550BJ('93年1月発表) ~世界初のプリンタ内蔵オールインワンノートPC

 CPU:IBM 486SLC 25MHz
 メモリ:6MB(最大10MB)
 HDD:120MB
 液晶:9.5インチSTNモノクロ16階調(VGA)
 バッテリ駆動時間:約2.7時間(印刷なし)、約2.3時間(印刷あり)
 サイズ:310×254×56mm
 重量:3.0kg
 搭載OS:IBM DOS J5/0/V、Windows 3.0(2437-YWB)
 標準価格:534,000円(2437-YWB)
ThinkPad 550BJ


 ThinkPad 550BJは、世界で初めてプリンタを内蔵したノートPCである。ThinkPad 550BJは、日本IBMとキヤノンの共同開発によって誕生した製品で、PC本体の開発を日本IBMが、プリンタ部分の開発をキヤノンが担当した。そのため、本体の上面には両者のロゴが左右に刻まれているという、珍しいマシンでもある。ThinkPad 550BJのBJという文字は、キヤノン製プリンタが採用しているバブルジェット方式を意味する。

 内蔵されているマイクロBJプリンターの解像度は360dpiで、漢字を48×48ドットで美しく印刷することが可能であった。印刷速度も87字/secと高速で、当時、単体で発売されていたプリンターと比較しても、性能的には遜色のないものであった。

 印刷用紙をどうやって入れるのか興味のあるところだが、ThinkPad 550BJでは、キーボードを本体手前側から持ち上げて用紙を差し込むと、そのまま水平に紙送りが行なわれ、印刷後の用紙は本体後部に排出されるという構造を採用していた。オートシートフィーダも搭載していたので、1枚1枚用紙を手差しせずに、最大10枚までの用紙を一度にセットして給紙することが可能だ。また、インク・カートリッジとプリント・ヘッドはセパレート式になっており、プリンタカバーをあけてワンタッチで交換できるので、使い勝手もよかった。ちなみに、ThinkPadシリーズというとポインティングデバイスのTrackPointが有名だが、ThinkPad 550BJにはTrackPointは採用されておらず、Windows 3.0プリインストールモデル(2437-YWB)では、小型マウス「ミニーマウスII-B」が付属していた。

 ThinkPad 550BJはプリンタを内蔵しながら、重さ3.0kgという持ち運び可能な重さを実現しており、省スペース性も高いことから、初心者や学生などを中心に人気を集めた。'93年9月にHDD容量が170MBに強化され、Lotus OfficeやMicrosoft Officeがプリインストールされたモデルが追加された。また、'94年3月には、後継機種のThinkPad 555BJが発表された。ThinkPad 555BJでは、CPUがIBM 486SLC2/50MHzになり、メモリ容量が最大12MBに拡張されたほか、液晶パネルが9.5インチSTNモノクロ液晶から10.3インチDSTNカラー液晶(4096色中256色表示)に変更されるなど、基本スペックが大きく向上していた。また、ポインティングデバイスとして、TrackPoint IIを搭載したことも特徴である。しかし、内蔵プリンタのスペックは、ThinkPad 550BJと同じであった。

ThinkPad Power Series 850('95年6月発表) ~PowerPCを搭載した異色のThinkPad

 CPU:PowerPC 603e 100MHz
 メモリ:32MB(最大96MB)
 HDD:810MB
 液晶:10.4インチTFTカラー(SVGA)
 バッテリ駆動時間:約2~5時間
 サイズ:297×260×61mm
 重量:3.6kg、カメラ付き(3.8kg)
 搭載OS:AIX for クライアントバージョン4.1.3(6042-G7D)
 標準価格:1,217,000円(6042-G7D)
ThinkPad Power Series 850


 '95年6月に発表されたThinkPad Power Series 850は、CPUにPowerPCを搭載した異色の製品である(同時に下位モデルのThinkPad Power Series 820も発表されている)。PowerPCは、IBM、Motorola、Apple Computerの3社が共同で開発したRISC CPUであり、高い演算能力を実現していることがウリであった。PowerPCは、AppleのMacintoshだけでなく、ワークステーションなどでも採用されることを前提に設計されていた。当然、Intelのx86系CPUとはソフトウェア的な互換性はないが、IBMとMotorolaは、PowerPCを普及させるために、'93年11月にPReP(PowerPC Reference Platform)と呼ばれるPowerPCを搭載したPCの共通ハードウェア規格を発表した。ThinkPad Power Series 850は、このPReP規格に準拠した製品である。

 ThinkPad Power Series 850では、CPUとしてPowerPC 603e/100MHzが搭載されていた。PowerPC 603eは低消費電力版のPowerPCであり、'95年8月に登場したAppleのノートPC「PowerBook 5300」でも採用されていた。

 ThinkPad Power Series 850は、当初、IBMのUNIX系OSであるAIX、IBMが開発を進めていたOS/2 Warp Connect(PowerPC Edition)、Windows NT Workstation 3.51(PowerPC Edition)の3種類のOSをサポートすると発表されていた。しかし、実際にはOS/2 Warp Connectの開発が中止されてしまい、Windows NTについても、x86用アプリケーションが動くわけではないので、利用できるアプリケーションが限られていた。Windows NTも、Windows NT 4.0を最後にPowerPC版のサポートが打ち切られたことで、ThinkPad Power Seriesの将来は事実上なくなってしまった。

 ThinkPad Power Series 850は、液晶ディスプレイ上部にCDDビデオ・カメラを装着でき、TV会議システムでの利用も考えられているなど、先進的なマシンであったが、OSやアプリケーションに恵まれずに、1世代で消えていってしまった(ThinkPadシリーズではなく、ワークステーションのRS/6000シリーズとして、RS/6000 Notebook 860というPowerPC搭載製品が登場したが)。当初の計画では、7xx/5xx/3xx番台がx86ベースのThinkPadで、8xx/6xx/4xx番台がPowerPCベースのThinkPadとなる予定だったのだが、もちろんこうした計画も現実のものにはならなかった。ThinkPad Power Series 850は、いわば悲運のThinkPadなのだ。

ThinkPad 755CDV('95年5月発表) ~OHPに直接液晶を乗せて画面を投影可能なマルチメディアノートPC

 CPU:Intel DX4 100MHz
 メモリ:8MB(最大40MB)
 HDD:810MB
 液晶:10.4インチTFTカラー(VGA)
 バッテリ駆動時間:約3~9時間
 サイズ:297×210×57.1mm
 重量:3.4kg
 搭載OS:PC-DOS J6.3V、Windows 3.1、OS/2 Warp V3(9545-AFK)
 標準価格:1,150,000円(9545-AFK)
ThinkPad 755CDV


 ThinkPad 755CDVは、一見普通のオールインワンノートPCのようだが、そのままOHP(オーバー・ヘッド・プロジェクター)に乗せて、画面をスクリーン上に拡大投影できるというユニークなギミックを持った製品だ。ThinkPad 755CDVでは、液晶ディスプレイ裏面のカバーが取り外せるようになっていることが特徴だ。カバーにはバックライトが内蔵されているため、カバーを外すことで、液晶ディスプレイが透けて見えるようになる。カバーを外した液晶ディスプレイをOHPの上に乗せると、ThinkPad 755CDVの液晶ディスプレイに表示されている画像がスクリーン上に拡大投影されるわけだ。

OHPに載せたところ

 ThinkPad 755CDVとOHPを組み合わせれば、大きなスクリーンに画面を拡大表示できるので、大人数相手のプレゼンテーションなどに威力を発揮する。マウスポインタなどを離れた場所から操作できるMind Path赤外線リモート・コントローラが標準で付属しているので、プレゼンテーションの際に役立つ。また、ストラップが付属しており、OHPに乗せたマシンをストラップで固定することで、OHPから本体がずり落ちてしまうことを防げる。また、CD-ROMドライブやステレオスピーカ、ビデオ入力機能を装備するなど、マルチメディア機能が充実していることもThinkPad 755CDVの特徴だ。重量は3.4kgとやや重いが、車などで移動するのなら、十分持ち運べる範囲である。

 プレゼンテーション用ノートPCとしての性格が強いThinkPad 755CDVは、一般ユーザー向けというよりは、広告代理店などで企画や営業を担当する人をターゲットに開発されたややニッチな製品であり、高価でもあった。

 ThinkPad 755CDVは、'95年9月にCPUがPentium 75MHzに強化された後継モデルが発表されたが、その後、後継となる製品は登場しなかった。ちなみに、初代ThinkPad 755CDVでは冷却ファンがオプションであったが、後継モデルでは冷却ファンが標準で添付されるようになった。冷却ファンを装着することで、より強力な光源を持つOHPでも利用できるようになる。

 最近は、PCに直接接続できるプロジェクターが主流になり、OHP自体もあまり使われなくなってきている。ThinkPad 755CDVは、OHPが全盛であった当時でこそ意味のあるマシンであり、その役割も終わったといえるだろう。

NoteBox('91年10月発表) ~PS/55noteでISAカードが使えるようになる拡張ユニット

 適用機種:PS/55note(モデル5523)
 スロット数:2スロット(フルサイズ対応)
 バス仕様:8ビット/16ビットバス対応、PC/ATコンパチブル
 DC電源容量:+5V(最大4.5A、1スロットあたり最大2.25A)、
           -5V(最大0.5A)、+12V(最大1A)、-12V(最大0.3A)
 消費電力:80W
 サイズ:365×124×150mm
 重量:3.2kg
 標準価格:128,000円


 NoteBoxは、ThinkPadシリーズの前身であるPS/55noteシリーズ用に開発された周辺機器だ。'91年3月に発表された初代PS/55noteは、当時、他社のノートPCがA4ファイルサイズであったのに対し、ジャストA4サイズを実現していたことで人気を集めた。

 当時はまだPCカードが普及しておらず、PS/55noteもPCカードスロットを装備していなかった。専用モデムを装着するためのスロットは用意されていたが、デスクトップPCに比べると、拡張性が低いことが欠点であった。そこで登場したのが、NoteBoxである。

 PS/55noteの拡張バス・コネクタとNoteBoxを付属のケーブルで接続することで、PS/55noteで、デスクトップ用のISAカード(16bitバス)やXTカード(8bitバス)が2枚まで利用できるようになる。当時、NoteBoxとほぼコンセプトが同じ拡張ユニットは、NECの98NOTE用にも登場していたが(98NOTE用拡張ユニットでは、PC-9800シリーズのCバス対応カードを利用できる)、PCカードが普及するにつれ、こうした拡張ユニットもあまり使われなくなっていった。

 なお、NoteBoxは、日本IBMからではなく、日本IBMとリコーの合弁会社であるライオス・システムから販売されていた製品である。ライオス・システムは、ThinkPadシリーズとの関わりが深い会社であり、ThinkPad 220用オプションの「専用ニッカドバッテリチャージャキット」もライオス・システムの製品であった。しかし、そのライオス・システムも役目を終え、'99年3月31日をもって解散している。

(2002年10月10日)

[Text by 石井英男]


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