変り種ThinkPad列伝 [第1回]

〜 ギミックが面白い製品たち(その1) 〜

 初めてThinkPadの名を冠したThinkPad 700C(国内ではPS/55note C52 486SLCとのダブルブランド)が登場したのは、今からちょうど10年前の'92年10月のことである。ThinkPadというと質実剛健なイメージが強いが、バタフライキーボードの搭載や、プリンタ内蔵マシンなど、一風変わった製品も多数存在する。ここでは、そうした変わり種ThinkPadにスポットを当てていくことにしたい(厳密にいうとThinkPadシリーズではない製品についても、関連が深いものは取り上げる)。
 第1回目の今回は、ギミック(仕掛け)が面白い製品を紹介していく。 [Text by 石井英男]
 
 
ThinkPad 701C('95年3月発表) 〜バタフライの名で親しまれた分割式キーボード採用サブノート

 CPU:Intel DX4/75MHz
 メモリ:8MB(最大24MB)
 HDD:540MB
 液晶:10.4型TFTカラー(VGA)
 バッテリ駆動時間:約2.5〜7時間
 サイズ:247×201×44mm
 重量:2.0kg
 搭載OS:PC-DOS J6.3V、Windows 3.1(2630-5TJ)
 標準価格:750,000円(2630-5TJ)
ThinkPad 701C


 ギミックが面白いThinkPadとして、まず紹介したいのが通称「バタフライキーボード」を搭載したThinkPad 701Cだ。バタフライキーボードは、正式には「TrackWrite」と呼ばれているが、液晶パネルの開閉に連動して、キーボードが分割収納されるという画期的なアイデアである。液晶パネルを開くと、中央で2つに分割されて収納されているキーボードが広がる仕組みであり、まるで蝶の羽のように見えるので、「バタフライ」(開発コードネーム)と呼ばれるようになった。

 ThinkPad 701Cは、10.4型の液晶パネルを搭載したサブノートPCだが、TrackWriteの採用によって、デスクトップのフルサイズキーボードと同じ19mmのキーピッチを実現している。ThinkPadシリーズはキーボードの使い勝手の良さで定評があるが、そのキーボードへのこだわりが最もよく体現されているのが、ThinkPad 701Cなのだ。ThinkPad 701Cは、MOMA(ニューヨーク近代美術館)の永久コレクションとして展示されていることからも、そのデザインの先進性と素晴らしさが理解できるだろう。ThinkPad 701Cは、アメリカのワトソン研究所で開発されたマシンであり、TrackWriteの生みの親であるジョン・カリダス氏は、その後もユニークなマシンを開発している。

 また、ThinkPad 701Cは、本体のサイズが限られているため、本体には最低限のポートのみを装備しており、それ以外のポートは標準添付のポートリプリケータ「マルチポートII」を装着することで利用できるようになっていた。

 ThinkPad 701Cは、非常に斬新なマシンであったが、いかんせん価格が高すぎた。発表当時の標準価格は75万円であり、CPU性能がやや非力であったことも災いして、あまり販売台数が伸びなかった(一部のショップでは、'95年の年末から'96年にかけて標準価格の3分の1程度で販売され、人気を集めたが)。'95年11月には、DSTN液晶を搭載したThinkPad 701CSやHDDを増強したモデルが登場したが、その後、後継機種が登場せずに消えていってしまった。実に惜しい製品である。

 しかし、サブノートクラスの本体にフルサイズキーボードを搭載するというThinkPad 701Cのコンセプトは、2001年5月に登場したThinkPad i Series s30/ThinkPad s30にも受け継がれている。

ThinkPad 760CD('95年10月発表) 〜チルトアップ式キーボードを採用したフラッグシップモデル

 CPU:Pentium/90MHz
 メモリ:8MB(最大40MB)
 HDD:1.2GB
 液晶:12.1型TFTカラー(SVGA)
 バッテリ駆動時間:約3.1〜9時間
 サイズ:297×210×54.3mm
 重量:3.4kg
 搭載OS:PC DOS J7.0/V、Windows 3.1、OS/2 Warp V3(9546-J11)
 標準価格:1,240,000円(9546-J11)
ThinkPad 760CD


 ThinkPad 760CDは、ThinkPad 755シリーズの後継として誕生したフラッグシップモデルである。当時のThinkPadシリーズはその型番によって、7xx番台/5xx番台/3xx番台という3つに分類されており、7xx番台は最もハイエンドなマシンとして位置づけられていた。

 ThinkPad 760CDは、筐体のデザインが一新され、キーボード手前に初めてパームレストを採用したほか、液晶パネルを開くと、それに連動してキーボードの奥側が上にチルトアップする、オート・チルトアップ・キーボードを採用したことが特徴だ。キーボードがチルトアップすることで、キーボードに傾斜が付いて入力しやすくなるのだが、その代わりキーボードの剛性感がやや失われたようだ。

 ThinkPad 760CDは、着脱式の4倍速CD-ROMドライブを内蔵しているが、CD-ROMドライブが省略された姉妹機のThinkPad 760Cも同時に発表された。ThinkPad 760C/CDは、ウルトラベイと呼ばれる拡張ベイを採用したことも特徴だ。ウルトラベイには、標準でCD-ROMドライブ(ThinkPad 760CDの場合)またはフロッピーディスクドライブ(ThinkPad 760Cの場合)が装着されていたが、代わりにオプションのハードディスクパックやバッテリパックを装着できるようになっていた。

 なお、'95年11月には、Windows 95がプリインストールされたモデルも追加され、'96年2月には廉価版のThinkPad 760L/LDが登場した。さらに、'96年4月には後継機種のThinkPad 760EL/EDが、'96年10月にはその後継のThinkPad 760Eが登場した。ThinkPad 760Eは、ThinkPadシリーズで初めて、XGA対応の液晶パネルを採用したフラッグシップモデルである。ThinkPad 760シリーズは、高価なマシンであったが、それだけの価値のあるマシンとして、企業ユーザーを中心に支持を集め、比較的息の長いシリーズとなった。'97年4月にはThinkPad 760XD/XLが、'97年6月にはThinkPad 760シリーズの直系マシンとしては、最後の製品となるThinkPad 765Dが登場した。'97年9月には、新たなフラッグシップモデルとしてThinkPad 770が登場したが、ThinkPad 770では、ThinkPad 760シリーズの特徴であったキーボードのチルトアップ機構は廃止された。

CrossPad('98年11月発表) 〜手書きメモをデジタルデータとして活用できるデジタルノートパッド

 メモリ:フラッシュメモリ1MB
      (A4サイズで約50ページ分記憶可能)
 サイズ:250×360×19mm
 重量:約1kg
 標準価格:62,800円
CrossPad


 '98年11月に発表されたCrossPadは、PCと組み合わせて使うPC Companionの1つであり、ThinkPadシリーズではないが、次に取り上げるマシンと密接な関係があるので紹介することにする。

 CrossPadは、筆記具で有名なCrossとIBMが共同で開発した製品であり、CrossPadという製品名もそこから名付けられている。CrossPadは、黒くて平らな板の上にアメリカで一般に用いられているレターサイズの黄色いノートパッド(日本でいうレポート用紙のようなもの)が載った構造の製品である。このノートパッドに、付属の専用ボールペン(CrossWriterペンと呼ばれる)を使って書き込むと、そのデータがベクトルデータとして、CrossPadに内蔵されているフラッシュメモリに自動的に記録される。そのページが一杯になったら、ページをめくるか破り取るかして、新しいページに書き込めばよい。ページがめくられたことは、自動的に検出されないので、ページが新しくなったら、CrossPad本体にあるページ送りボタンをペンで押せば、次のページとして認識される。フラッシュメモリの容量は1MBで、約50ページ分のデータを記憶可能である。CrossPad本体の下部には、6つのボタンと液晶インジケータが用意されており、ページ送りやページ戻し、メニュー呼び出し、キーワード指定などの操作を行なうことができる。

 CrossPadに記録された手書きメモのデータは、付属のソフトウェア「Ink Manager」を利用することで、PCにシリアル経由で転送することが可能だ。Ink Managerでは、転送された手書きメモにキーワードをつけて管理したり、JPEGファイルやBMPファイルとして出力することなどができる。なお、CrossPadは、もともとアメリカで先に発表された製品であり、アメリカではサイズが一回り小さなCrossPad XPも登場しているが、国内で投入されたのは、CrossPadのみである。

 CrossPadは、手書きメモというアナログの世界とPCというデジタルの世界の橋渡しとなる製品であり、うまく活用すれば非常に便利なのだが、サイズと重量が大きかったことや価格がやや高かったこと(アメリカでは399ドルで売られていた)、インターフェイスがシリアルのみ対応であるといった不満点もあって、国内での売れ行きはあまり芳しくなかったようだ。しかし、最近CrossPadとよく似たコンセプトの製品がいくつか登場して話題を集めていることからも、CrossPadの先進性が理解できるだろう。

ThinkPad TransNote(2001年5月発表) 〜手書きノートパッドとノートPCを一体化した新コンセプト「ノート」PC

 CPU:低電圧版モバイルPentium III/600MHz
 メモリ:64MB(最大320MB)
 HDD:10GB
 液晶:10.4型TFTカラー(SVGA)
 バッテリ駆動時間:2.5時間
 サイズ:283×320×24.9〜36.0mm
 重量:2.49kg
 搭載OS:Windows 2000 Professional
 標準価格:オープンプライス(IBMダイレクト価格319,000円)
TransNote


 変わり種ThinkPadシリーズの中でも、2001年5月に登場したThinkPad TransNote(以下TransNote)は、特に異彩を放つマシンである。TransNoteは、10.4型TFT液晶を装備したノートPC部分と、手書き入力部「ThinkScribeデジタル・ノートパッド」(以下ThinkScribe)から構成されている。

 ノートPC部分の液晶パネルはタッチパネル付きなので、ペンによる操作も可能だ。液晶パネルは、背面側に180度倒して相手に見せることや、後述のThinkPad 360P/PEのように、キーボードの真上に液晶パネル表面を上側にして折りたたむこともできるようになっている(液晶パネルは、FlipTouchディスプレイと名付けられている)。また、液晶パネルの右側にはいくつかのボタン(FlipTouchコントロール)が用意されており、画面の180度反転やコントラストの調整などを行なうことができる。また、ソフトウェアキーボード(TouchBoardソフト・キーボード)を液晶パネル上に表示させる機能も用意されているので、キーボードの真上に液晶パネルを重ねた場合でも、ペンでソフトウェアキーボードをタップすることで、仮想的なキーボード入力が可能である。

 ThinkScribeは、一見普通のノートパッドのように見えるが、専用ボールペン(ThinkPad TransNoteデジタル・ペン)で書き込むことで、手書きメモのデータがベクトルデータとして内蔵フラッシュメモリに記録される。記録されたデータは、そのままノートPC部分に転送して、専用アプリケーション「Ink Manager Pro」を使って管理できる。読者のご想像通り、ThinkScribeにはCrossPadの技術が応用されている。つまり、TransNoteとは、ThinkPadとCrossPadを1つにまとめた製品なのだ。

TransNoteのFlexFoldデザイン

 TransNoteでは、FlexFoldデザインと呼ばれるユニークなデザインが採用されており、ThinkScribe部分をノートPC部分の上に重ねて、デジタルノートパッド部分だけを使うことや、逆にThinkScribe部分をノートPC部分の下に重ねて、普通のノートPCとして使うこともできる。もちろん、ノートPC部分の横にTransScribe部分を並べて利用することも可能だ。このデザインの斬新さとギミックの素晴らしさは、「バタフライ」ThinkPad 701Cを彷彿とさせるが、それもそのはず、このTransNoteのデザインコンセプトは、バタフライキーボードを考案したジョン・カリダスの手によるものなのだ。

 ThinkScribeがノートPC部分の右側に配置されている右利き用と、逆に左側に配置されている左利き用の2種類の製品が用意されていることも面白い。TransNoteは、ThinkPad 701Cにもましてユニークなマシンなのだが、合計重量が2.49kgと常に携帯するにはやや重かったことや(ノートPC部分とThinkScribeが一体化されているからこそTransNoteなのであり、ノートPC部分とThinkScribeを切り離すことはできないようになっていた)、液晶の解像度がSVGA止まりであるといった不満もあって、販売的にはあまり成功しなかったようである。結局、TransNoteはこの1機種だけで後継機種も出ずに、生産が完了してしまった。

ThinkPad 360P('94年9月発表) 〜キーボードでもペンでも操作できるコンバーチブルノートPC

 CPU:Intel 486SX/33MHz
 メモリ:4MB(最大20MB)
 HDD:340MB
 液晶:9.5型DSTNカラー(VGA)
 バッテリ駆動時間:約3.3〜7時間
 サイズ:297×210×53mm
 重量:3.1kg
 搭載OS:PC DOS J6.3/V、Windows 3.1、Windows for Pen Computing
 標準価格:548,000円(2620-5JF)
ThinkPad 360P


 '94年9月に発表されたThinkPad 360Pは、キーボードでもペンでもオペレーションが可能なコンバーチブルノートPCである。ThinkPadシリーズでペンによる操作が可能なマシンは、ThinkPad 360Pが初めてというわけではなく、ThinkPad360以前にもThinkPadとのダブルブランドであったPS/55 T22sxやThinkPad 710Tが登場していたが、それらのマシンはキーボードを装備してないタブレット型のペン専用マシンであった。それに対してThinkPad 360Pは、キーボードを備えた一見普通のノートPCでありながら、タッチパネル付き液晶パネルを採用し、ペンでも操作できることが特徴だ。

PS/55 T22sx ThinkPad 710T

 ThinkPad 360Pが、キーボードでもペンでも操作しやすいように、液晶パネルを支持する仕組みに工夫が凝らされている。通常のノートPCでは液晶パネルの下部と本体が1組のヒンジで支持されているが、ThinkPad 360Pでは、液晶パネルの背面中央と支柱がヒンジで繋がっており、その支柱が本体とヒンジで繋がるという構造になっているため、液晶パネルの表面を上にして、キーボードの上に折り畳むことが可能なのだ。そのため、キーボードで操作する場合は通常のノートPCのような形で利用し、ペンで操作する場合は液晶パネルを折り畳むことで、タブレット型PCと同じような感覚で利用できる。

 ペンで操作するためには、ペンをサポートするソフトウェアが必要になるが、ThinkPad 360Pでは、Windows 3.1にペン・オペレーション機能を追加したMicrosoftのWindows for Pen Computingと、日本IBMが開発したIBM日本語ThinkWriteが搭載されていた。IBM日本語ThinkWirteは、Windows for Pen Computing上で動作する手書き認識エンジンで、漢字やひらがな、カタカナなど、3,885字種の認識が可能であり、1文字あたり0.3〜0.5秒という高速認識と業界最高水準の高認識率を誇っていた。

 ThinkPad 360Pの後継としては、'95年5月にCPUがIntel 486DX2/50MHzに強化されたThinkPad 360PEが登場したのみであり、その後同コンセプトのモデルは登場していない。しかし、登場から8年が経過した現在、キーボードでもペンでも操作しやすいというThinkPad 360Pのコンセプトが再評価されるときがやってきた。2002年11月7日に登場予定のWindows XP Tablet PC Edition搭載機では、液晶部分を取り外して単独で使えるピュアタブレットタイプとノートPCの液晶部分を反転して折り畳めるコンバーチブルタイプの2種類の形状のマシンが用意される。コンバーチブルタイプのTablet PC搭載機のコンセプトは、まさにThinkPad 360P/PEとそっくりなのだ。ただし、今のところIBMは、Tablet PC搭載機への参入を表明していない。

(2002年10月3日)

[Text by 石井英男]


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