CeBIT asia 2002レポート:番外編

上海電脳市場事情

上海の繁華街、徐家匯

 CeBIT asia(アジア国際事務・情報・通信技術見本市)が開かれている上海は、人口約1,600万人の中国最大の都市(ちなみに東京の人口は約1,100万人)で、家庭におけるPCの普及率は40%弱といわれている。この大都市のPCユーザーを支える電脳街がどのようなものか、覗いてみよう。

 もっとも、上海には「電脳街」にあたるものがないようだ。ホテルのコンシェルジェや街を行く人に「PCショップがたくさんあるところはどこですか?」と聞いてみると、繁華街のとあるビルを教えてくれる。そのビルの中にたくさんのPCショップがあると言う。秋葉原や大須、日本橋のように、PC関連ショップが集まって形作られた街はないのだ。そこで、いくつか教えてもらった場所に行ってみた。

 なお、「聞いた」とか「言う」などと、さも流暢な会話をしているようなことを書いているが、筆者は中国語を話せるわけではない。大学の第2外国語に中国語を選択していたので、多少の単語と、中国の漢字(簡体字)が日本の漢字と若干違う、ということは知っているが、複雑な会話はできない。知らない単語は、それっぽい漢字を並べて筆談が可能だ。漢字の国に生まれてよかった、とつくづく思う取材であった。

■おしゃれストリートの“賽博”なモール

 まず、ホテルの人が教えてくれた電脳市場に行ってみた。「タクシーのドライバーにこれを見せろ」と書いてくれたカードには、行き先として「賽博」と書かれている。いったいどんな意味か首をひねっていると、タクシーは上海の繁華街のひとつ、淮海路の「香港広場」というショッピングモールに着いた。

 いくつかのガイドブックによれば、淮海路は東京でいえば銀座にあたる、おしゃれなショッピングストリートとされている。いかにも電脳街という風情からは程遠い場所なのだが、タクシーから降りてみると「賽博数碼広場( http://www.cybermart.com.cn/ )」と入り口にネオンがかかったビルがあり、その周囲にはIntelやSamsungなどの大きな広告が掲示されている。どうやらここが「賽博」らしい。「数碼」には「Digital」という意味があるから、「賽博」は「Cyber」に対する当て字のようだ。

 店の中は3階までが賽博数碼広場で、中央に1階から3階まで貫く吹き抜けを配している。各フロアには大小20以上のPC関連店舗がある。1つ3畳の小さな店舗から15畳程度の比較的大きなもの、広場や通路にガラスケースを並べただけの店もある。

賽博数碼広場。淮海路の離れた場所には、このほかにもいくつかの電脳モールがある 大きな吹き抜けで内部は明るいが…… 吹き抜けの周りは秋葉原のガード下のようにごっちゃりと店が並ぶ

 1階にはノートPCやデジタルカメラなど、新しくやや高価なものを扱う店が集まる。2、3階は一般的なPCショップやソフトショップが入る。中にはネットワーク機器専門の店や、CD-Rなどのメディア専門店、CDケースなどの雑貨類の店もある。また、2階の一角には携帯電話ショップが集まっている。

 このように、上海では店が街に広がらず、ひとつの大きな建物にたくさんの店が入った、いわば「電脳モール」が一般的なようだ。

■上海のPCショップはコンサルティングを基本に

 中国では6,000元程度の、ショップメイドのデスクトップPCが主流だ(1元=約15円)。メーカー製のPCはまだまだ高値の花で、1階のショップでしか販売されていない(ちなみにThinkPad R32が16,000元だった)。2階以上にはそんなショップメイドPCを扱う店が多数入居している。

 こうした店ではどこも、店内にテーブルと椅子が置かれており、客はそこで店員とパーツの価格表を見ながら相談し、どんなマシンを作ってもらうか決める。コンサルティングによる販売が基本なのである。PCに特にくわしくない一般の人にもカスタムメイドマシンを販売する必要があるために、このような手法が一般的になったのだろう。携帯電話のショップなどでも、ショウケースをはさんで店員と客が座り、じっくり話し合いながら買い物をしている様子がよく見られる。

 また、店によってはお奨め構成を5~8つほど用意し、店頭に掲示している。お奨め構成は3,000元弱から8,000元以上までの価格で用意され、「学習入門型」「家庭娯楽型」「豪華型」などの名前が付いており、予算と用途によって選べるようになっている。

 こうして構成が決められたマシンが店の奥で組み立てられ、客に引き渡される。

PCショップの内部。テーブルをはさんでコンサルティング中 とある店の価格表。店によってカラーだったり白黒だったりし、デザインも違っているが、みなB4に各種パーツの価格が印刷されている。この価格表は右にお奨め構成も載っている 店頭に掲示されたお奨め構成

■怪しさなら徐家匯、ファミリー向けは浦東地区

 次に徐家匯の電脳モールを訪れた。こちらは比較的新しい繁華街で、どちらかといえば若者に人気のある街だ。電脳モールも訪れた中ではもっとも規模が大きく、淮海路の賽博数碼広場のようなモールが3つある。

 規模が大きく、若者向けでもあるため、怪しい雰囲気は淮海路よりも徐家匯のほうが上だ。こちらにはユーザーが自分でアップグレードできるように、ビデオカードやCPUなどのパーツを単体で売る店もある。淮海路が有楽町の家電量販店、徐家匯が秋葉原のラジオ会館といったところか。もっとも怪しいといっても品揃えは秋葉原に及ばず、中国独特のパーツやグッズがあるわけでもない。

徐家匯のモールの1つ「太平洋数碼広場」。この左右にも同じような規模のモールがある 徐家匯のモール内の風景。広場にガラスケースを並べたパーツショップがたくさんある 迷路のように小さな店舗が並ぶ部分もあり、怪しい雰囲気がただようが、売っているのはまっとう至極なものばかり
浦東の電脳市場の入り口

 また、CeBIT asia会場と同じ浦東地区にある「電脳市場」にも行ってみた。ヤオハンデパートやスーパーマーケット、巨大な家電店が密集する一角にある。浦東地区は'90年代に開発された新しい地区で、新しいオフィスビルやマンションも多い。この一角は周囲のマンションの住人などをターゲットにした商業地域のようだ。

 電脳市場は建物がほかの地区ほどきれいでなく、徐家匯のような怪しい雰囲気も感じられるが、各ショップはお奨め構成のラインナップに力を入れるなど、家族で買い物にきた人々のためのモールになっている。


■海賊ソフトは見当たらず

 各モールでソフトショップも覗いてみた。中国は海賊版天国、といったうわさをよく聞いていたが、当局の取締りが厳しくなったらしく、そうしたものは店頭では見かけなかった。

 ソフトショップにも高価なものを扱うショップと、低価格なショップがあるようで、前者ではグラフィックソフトや50元前後のゲームソフトを扱う。後者では簡易包装の10元程度のソフトのシリーズや、Linuxのパッケージなどを扱う。10元のソフトシリーズには、ツール集やゲーム、教育ソフトなどのほか、世界の名画やアイドルの画像、クラシックや中国の古典音楽、流行歌のMP3を集めたもの、料理のレシピ集、インテリアのアイデア集など、さまざまなものがあり、店頭でラインナップを眺めているだけでも楽しい。

 中国独自のディストリビューション「紅旗Linux」は98元で販売されていた。ちなみに前者のようなショップではWindows XPのパッケージ版も販売されており、Professionalが1,999元。Linuxとの価格差にクラクラとするが、ショップメイドのPCを購入する人たちがOSやアプリケーションソフトをどう調達しているのかは不明だ。

紅旗LinuxとRedhat Linuxのパッケージ 10元ソフトの一例。左上から下に、ツール集、易のお勉強ソフト、右上から下にゲーム、人民日報の2000年の紙面をPDFにしたもの。人民日報だけは18元 上海の人は英語学習に熱心。英語学習ソフトがたくさん並んでいる

■目新しくはないが活気に溢れる

 というわけで、特に目新しいモノは発見できなかったが、上海ならではの電脳事情が垣間見えた上海電脳モールめぐりだった。どの電脳モールも秋葉原以上の活気に溢れ、経済成長とともにPCが普及する様子が伺えた。街中やモール内の携帯電話ショップにも人が溢れ、インターネットカフェもよく見かける。

 その一方で、ホテルの高速インターネット接続サービスから検索サイトのGoogleにアクセスできない、という経験をした。近く始まる党大会に備え、当局が8月末から規制しているのだという。電脳モールには日本や台湾、韓国と同様にモノが溢れ、改革解放の恩恵を享受する様が見てとれるだけに、意外な印象を受けた。

電脳モールの中の携帯電話ショップ。モール内に限らず、街中のショップにも人が溢れている インターネットカフェの看板。回線の速さだけでなく、PCのスペックも強調しているのは、客のほとんどがネットワークゲームを目的としているからだとか

□CeBIT asiaのホームページ(英文)
http://www.cebit-asia.com/
□ドイツ産業見本市日本代表部のCeBIT asia紹介ページ
http://www.hannovermesse.co.jp/CeB-A.htm
□関連記事
【2000年10月5日】韓国電気街レポート ~ 花形CPUクーラーを発見 ~
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001005/korea.htm

(2002年9月4日)

[Reported by tanak-sh@impress.co.jp]


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