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なぜSiSはハイエンドチップセットやGPUへ向かうのか


●3年前の決定から変わったSiSの基本戦略

SiSのハイエンドチップセット
「SiS 658」

 過去2年間、ひたすら製品ラインナップを拡大してきたSiS(Silicon Integrated Systems)。2年前まではローエンドチップセットしか持っていなかった同社は、今やハイエンドチップセットまで到達しつつある。さらに、今後2年ではサーバーチップセットやハイエンドグラフィックスチップもターゲットにする。例えば、来年第1四半期にはDDR IIをサポートするDirectX 9世代GPU「Xabre II」のサンプルを開始する予定だ。

 ひたすらアグレッシブに突っ走るSiSの目的はどこにあるのだろう。その源は、3年ほど前の、SiSのある決定にさかのぼる。SiSのAlex Wu(アレックス・ウー)氏(Senior Marketing Director)は次のように説明する。

 「我々は'99年後半から戦略を変え始めた。眠っていないで、起きて突き進もうと。そこで、我々はいくつかのキーデシジョン(基本決定)を変えた。その1つは自社の半導体Fab(工場)を作ることだった。

 いったん自社Fabを作ると決定したら、もはや小さな市場にフォーカスすることはできなくなった。トータルソリューションを提供しなくてはならない。だから、第1のステップとして、まず単体チップセットへと移行した。これはほぼ成功したが、ここまでに、すでに研究開発を含めて約2年を費やした。

 次のステップとして、我々はエンジニアに幅広い範囲でどんなアプローチが可能か研究をさせた。その結果、さらにハイエンドへ向かうことにした。次の2年間で、当社はメインストリームPCのテクノロジを使って、ローエンドサーバー市場にも浸透しようと計画している。RDRAMソリューションは最初の一歩で、ステップバイステップで計画を進めている。来年には、DDRを使ったサーバー市場向けソリューションも提供する。長期戦略で、慎重に進めている」

 つまり、SiSは3年前を境に基本戦略を切り替えた。その戦略の要は自社Fabの建設で、それと連鎖して製品戦略も拡張路線へと急激に変わったのだ。ではどうしてFabを持つと製品戦略が変わるのだろう。じつは、これは単純なストーリなのだ。

●SiSの自社Fabの製造能力

 SiSの現在のFabは200mm(8インチ)ウェハFabで、今年1年で約17万ウェハの処理を行なう見込みだ。これは、最新Fabとしてはかなり小振りだ。例えば、AMDのAthlon/Hammer製造拠点である独ドレスデンのFab30は、決して巨大Fabではないが、それでも年間24万ウェハの処理能力を持っている。大手ファウンダリとなると、その数10倍の能力のメガファブを複数持つ。

 ところが、この小さなSiSのFabでさえ、チップセット市場では過剰な生産キャパシティとなる。例えば、SiSのチップのダイサイズ(半導体本体の面積)を、かなり大きめに見積もって70平方mmだとしても、1枚の200mmウェハから約400個のチップが採れる。そうすると、オーバーオールの歩留まりが75%だったとしても、SiSのFabは年間で約5,000万個のチップを製造できることになる。ノースとサウスのセットとしても約2,500万個。つまり、SiSは、PCチップセット市場でかなりのシェアを取らないと、自社Fabのキャパシティは埋め尽くせないことになる。実際、SiSのFabはまだフルキャパシティではなく余裕を持たせている。逆を言えば、そうせざるをえないのだ。

 半導体Fabの場合、こうした場合にも、需要に応じて生産量を減らすといった調整が難しい。まず、Fabでなにも製造していなくても、多大な運用コストがかかってしまう。また、Fab自体への投資が膨大なので、それを回収するためにもFabをフル回転させて稼ぎ出して行かなければならない。

●Fabを持ったことで変わるSiSの戦略

 そのため、SiSの採りうる戦略は、拡張路線に限られてくる。(1)製品ラインナップを広げ多くの市場へ参入する。(2)個々の市場でのシェアをできる限り上げる。(3)低価格品と高付加価値品の両極を伸ばす。

 (1)製品ラインナップを広げ多くの市場へ参入する、これこそSiSが過去2年間やってきたことだ。グラフィックス統合チップセットから単体チップセット、単体チップセットでもハイパフォーマンス品へとラインナップを拡充しつつある。

 そして、(2)個々の市場でのシェアをできる限り上げるため、SiSは製品の機能をアグレッシブに拡張している。SiSが最初は独走したDDR333の例で鮮明になったように、現在のSiSは新機能をなんとしても他社よりも先に取り入れようとしている。機能で先行して、市場シェアを広げようというわけだ。「当社は過去2年に、全てのキーテクノロジに対応しようとしてきた。例えば、RDRAMもIntelを追ってサポートを決めたわけではない。ステップバイステップで、全てのテクノロジを追ってきただけだ」(Wu氏)

 また、SiSはFabを持ったことでコスト構造が変わった。ファブレス(工場を持たない)企業だと、ウェハ1枚毎にコストがかかるため、ある程度以上の付加価値のある製品でないと出しにくい。しかし、SiSはFabを稼働できなければ損をしてしまう。そのため、原理的には、採算ラインぎりぎりの価格設定でも、キャパシティが余っているなら製品を生産して販売する方が得になる。つまり、低価格攻勢をかけやすい。

 「我々は自社Fabを持っているためにコスト構造が非常にフレキシブルだ。今日、顧客は製品については価格にしか関心がない。なぜなら、PC業界の経済状況が非常に悪いからだ。しかし、幸いなことに我々は優れたコスト構造があるため、顧客のニーズに応えることができる。我々が(価格)戦争を望んでいるわけではないが、戦争になるなら対応できる」とWu氏は説明する。

 その一方で、ダイサイズの大きな高付加価値品も作りやすい。一般に、ファウンダリで生産していると、ダイを小さくして1つのウェハからより多くのチップを採れるようにしてウェハの数を減らすのが重要となる。しかし、SiSの場合はFabの生産キャパシティ自体は決まっており、余裕はたっぷりある。そのため、その生産キャパシティをどう使うかが重要となる。つまり、キャパシティに余裕がある限り、大きなダイの製品を作っても見合うことになる。そのため、DirectX 9対応の「Xabre II」のような最先端グラフィックスチップ(GPU)や、メモリチャネルなどの多いサーバー向けチップセットへと伸ばすことは、当然の戦略となる。

 こうして見ると、SiSの現在のアグレッシブな展開は、SiSがFabを持ったことから当然産まれてきた路線だということがよくわかる。

●SiSの次の2年を左右するサーバーチップセットとGPU

 SiSのサーバー向け製品は、現在はまだデスクトップ用チップセットの転用で、Xeonデュアルプロセッサもサポートしていないし、4GBを超えたメモリ空間にも対応していない。VIAのPentium 4向けハイエンドチップセットがどちらも対応しているのとは対照的だ。しかし、来年からはこれらに対応することも検討しているという。

 今春のインタビューで、SiSのNelson Lee氏(Sr. Technical Marketing Manager, Integrated Product Division)は次のように説明していた。「サーバー市場については真剣に考えている。デュアルプロセッサでデュアルチャネルメモリの組み合わせ、それから4wayマルチプロセッサ構成のサポートも検討している」「市場への参入に成功したら、こうした拡張を次のステップで進めることになるだろう」

 つまり、RDRAMチップセットのSiSR658系やDDR IIチップセットのSiS656でローエンドサーバー市場への足がかりをうまく作ることができたら、来年後半以降は、より本格的にサーバー市場向け製品を出して行こうとしているわけだ。

 GPUも同様だ。SiSは、統合チップセット用のグラフィックスコアから出発し、Xabreではメインストリーム向けGPUにまで進出してきた。そして、これからはさらに上へとラインナップを伸ばすという。

 「Xabreファミリまではメインストリームからバリュー向けの製品だった。しかし、次からは、我々はデザインフィロソフィを変える。ハイエンドセグメント向けの、より高性能で高価格な製品へと向かう。Xabre IIやIIIの世代でそのセグメントに到達できるかどうかはわからない。しかし、方向性は明確だ」とSiSでグラフィックス製品を担当するThomas Tsuiディレクタ(Multimedia Product Division)は語る。

●長期戦略ではメディアとネットワーク接続技術が要

 では、その次のステップはどうなるのか。Wu氏は次のように説明する。

 「次の数年について、PC業界の誰もが感じているのは、PCが家庭に必ず浸透しなければならないということだ。そうしないと、市場は縮小してしまい、PCを使うのはピュアPCユーザーだけになってしまう。

 だから、次のステップでは、メディア技術、つまり、DVDとかオーディオとか接続性(コネクティビティ)の技術が重要となる。そうした技術を幅広く揃えて、多様なニーズに合わせて最適な組み合わせを提供できるようにする。これは長期戦略で、SiSは慎重に取り組んでいる」

 この路線では、従来型のチップセット以外の製品も必要となる。そのため、SiSはインフォメーションアプライアンス(IA)向けの、x86ベースのSoC(システムオンチップ)製品「SiS550」ファミリも発表している。

 整理すると、SiSは2年前に自社Fabを建設したことで、大きく戦略を変えることになった。過去2年ではPC市場全体へと製品ラインナップを拡大した。そして次の2年では、サーバー市場やハイエンドグラフィックス市場も狙う。そして長期的には、PCのホームユースや、PCアーキテクチャベースのIA市場を睨んだ拡大もしようとしている。

 すでに説明したような理由で、SiSはこのアグレッシブな拡張を継続しなければならない。そうしなければ、Fab投資を回収できずに沈んでしまうからだ。SiSにとっては、背水の陣ということになる。

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【8月27日】【海外】PC1333 RDRAMを来年サポートするSiSチップセットロードマップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0827/kaigai01.htm
【8月26日】【海外】4チャネルRDRAMチップセットも検討するSiSのRDRAM戦略
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0826/kaigai01.htm

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(2002年8月29日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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