大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「ウイルススキャン」の扱いを巡って、日本法人とソースネクストが激突?


●米国本社の買収劇が原因に

 米Network Associatesによる米McAfee.comの完全子会社化を巡って、その影響が日本にも飛び火しそうだ。

 両社は、もともと同一の会社だったが、前経営陣の判断から、'98年に、個人向けセキュリティーソフト事業を米McAfee.comとして、Network Associatesから分離独立。その後、McAfee.comは、米ナスダックに上場し、現在では、同社に占めるNetwork Associatesの株式所有比率は75%になっていた。

ウィルス対策マーケットの予測図
 McAfee.comは、セキュリティ分野で現在主流となっているウェブから直接ウイルス対策ソフトをダウンロードするというオンラインサービスを最初に提供するなど、ウェブを活用した先進的な取り組みで順調に売り上げ高を拡大し、'99年には2,449万ドルだった売上高が、2000年には4,686万ドルと倍増、2001年には6,200万ドルとなっている。ASP方式によるセキュリティ製品の提供への取り組みにも積極的で、これらの効果もあって、2002年は上期だけで3,950万ドル。6四半期連続で前期比を上回る実績となっている。

 最近では、グリッドセキュリティサービスによる新たなコンセプトや、セキュリティセンターといったサービスを用意、とくに、セキュリティセンターは、米国では既に200万人のユーザーが利用しているサービスとなっている。

 だが、2001年になって米Network Associatesは、ジョージ・サムヌーク氏がCEOに就任、それとともに、米McAfee.comを完全子会社化しようという動きが米国本社で出ており、現在、市場に流れているMcAfee.com株を買い戻そうとしているのだ。

 先頃来日した米McAfee.comのワールドワイドマーケティング担当副社長 アトリ・チャタジ氏は、「ウェブでセキュリティマネジメントを行なう仕組みを考えたときには、これが企業ユーザーにも波及するとは考えていなかった。だが、いまや企業においても同様の仕組みを利用しようとしている。独立前の従来の形に戻して一緒にやった方がいい、という部分もあるので、それはそれでいい。だが、これは当社が成功したからこそ出た話といえる」とコメントし、「最終的には株主の判断で決めること」とした。

 しかし、Network Associatesの株価に比べて、McAfee.comの株価の方が上回っている事実や、Network Associatesが提示する買い取り金額が低く、株主の意向にそぐわないなどの理由から、株の買い戻しは難航しており、方針を発表してからずいぶん月日が経過しているのが実態だ。

 この取り組みが長期化すればするほど、Network Associatesにとっても、悪い材料となる公算が強いため、これに関しては、早期に決着をつけたいところだろう。


●日本法人が取り扱いに色気?

日本ネットワークアソシエイツ 加藤孝博社長
 だが、この影響は日本でも徐々に表面化することになりそうだ。日本においては、Network Associatesの日本法人である日本ネットワークアソシエイツが同社製品を扱う一方で、McAfee.comの製品に関してはソースネクストが取り扱っている。

 日本ネットワークアソシエイツの加藤孝博社長は、「米国での完全子会社化が完了すれば、同様に日本法人が取り扱う方が自然。1社が取り扱う方が望ましい」として、マカフィー製品の取り扱いに意欲を示す。

 現在、日本ネットワークアソシエイツでは、McAfee.comの製品を国内で扱える権利はまったく有していない。個人向けセキュリティ製品が急成長しているだけに、日本法人としても喉から手が出るほどほしい製品だといえるだろう。

 これに対して、国内でのMcAfee.com製品の販売権をもつソースネクストの松田憲幸社長は、「当社は2001年第2四半期から3年間の契約を結んでおり、その契約は完全子会社化後も有効だと考えている。少なくとも、あと2年間は取り扱える」と話す。

 米McAfee.comのチャタジ副社長も、「ソースネクストが日本で取り扱いを開始してから、マーケットシェアが上昇している」として、ソースネクストの成果を手放しで評価する。

 ソースネクストが取り扱う以前は、当然のことながら、日本法人がMcAfee.com製品を取り扱っていたのだが、パソコンショップ向け販売ノウハウをもっていない日本法人が、個人ユーザーが中心となるこれらの製品を扱うにはやや無理があったという側面も見逃せない。この点、パソコンショップ向け製品では実績をもつソースネクストが取り扱ったことで成果があがったというのも頷ける話だ。


●戦略製品に位置づけたいソースネクスト

ソースネクスト 松田憲幸社長
 実は、ソースネクストでは、McAfee.comの「ウイルススキャン」をはじめとするセキュリティ製品を今後の重要な柱と位置づけている。

 現在、同社では、「トータルユーザー満足戦略」を展開しており、これをもとにビジネスソフトメーカーとしてトップシェア獲得を狙っている。

 すでに、パソコンショップ店頭における実売ランキングでは、6月の最終週でマイクロソフトを抑えてトップシェアを獲得、その後も高いシェアを維持しつづけている。

 松田社長は、「OSを除くビジネスソフトならば、ソースネクストですべてが揃ってしまうという製品ラインアップを実現したい」と抱負を語り、これによりトップシェアを獲得する考えだ。

 タイピングソフト、無線LAN関連ソフト、携帯電話関連ソフト、英語学習ソフト、翻訳ソフト、DV編集ソフト、ブロードバンド関連ソフトなどに加え、今年7月からは、米サン・マイクロシステムズが開発したオフィススイートソフト「StarSuite」の取り扱いを開始しており、その実現に向けて加速している段階だ。

 「まだ埋まりきっていない領域もある。もっと品揃えを広げていきたい」と、松田社長は意欲を見せている。その同社にとって、McAfee.comのウイルススキャンは、いわば戦略的製品ともいえるもの。

 「2003年には、ウイルススキャンだけで年間100万本を出荷したい」(松田社長)として、同社製品の全出荷目標数値となる200万本(2002年)の原動力にしたい考えである。

 アンチウイルスソフト市場でも、2003年には25%のシェアを獲得する計画であり、このほど、パッケージのデザインを一新して、先行するトレンドマイクロ、シマンテックを追随する姿勢だ。

 「販売店では、赤(=トレンドマイクロ)を100本、黄色(=シマンテック)を100本というように、パッケージの色で発注することが多いようだ。しかし、当社の場合、パッケージに明確な色がなかったために、その点でも損をしていた感がある。パッケージのカラーを白を基調としたものに変更することで、白いパッケージのウイルススキャンという新たなイメージを定着させたい」と松田社長は話す。

 また、社内にマカフィードットコムセンターを新設、セキュリティ情報のローカライズ、専任のコールセンターチームの設置、4,900円という戦略的価格によるキャンペーン販売というように、積極的な取り組みを開始しようという姿勢を見せている点からも、ソースネクストにとって、ウイルススキャンを同社の基幹製品のひとつに育て上げたいと考えていることがわかる。

 米国におけるNetwork AssociatesによるMcAfee.comの完全子会社化、そして、日本における契約がどうなるのか……今後の行方が気になるところだ。

□日本ネットワークアソシエイツのホームページ
http://www.nai.com/japan/
□ソースネクストのホームページ
http://www.sourcenext.com/
□関連記事
【8月7日】ソースネクスト、McAfee.com製品について個人向けセキュリティ新構想を発表(Broadband)
http://www.watch.impress.co.jp/broadband/news/2002/08/07/snext.htm
【8月7日】NAI、総合ウィルス対策新戦略「McAfee MVP2」を発表(INTERNET)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0807/mvp2.htm
【3月26日】米McAfee.com、Network Associatesによる買収を拒否(INTERNET)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0326/mca.htm

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(2002年8月21日)

[Reported by 大河原克行]


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