槻ノ木隆のPC実験室

画質にこだわったチューンナップドライバ「Omega Drivers」



 Omega Driversというビデオカード用ドライバをご存知だろうか? これは速度よりも画質を優先したチューンナップ、しかもメーカー製品ではなく、有志によるフリーウェアという、なかなか珍しい形態をとるドライバなのだ。画質を優先した分、速度的なペナルティは存在するが、よほどヘビーなゲームでなければ描画性能はあまり気味な昨今。むしろ画質向上を選択したいユーザーも多いだろう。今回はNVIDIAのGeForceシリーズでこのOmega Driversを利用した際の効果を確認してみる。


●汎用のチューンナップドライバ

 Omega Driversは、Omegadriveというユーザーグループによって作成されているドライバである。ベースとなるのは、各メーカーの標準ドライバであり、これを元にして画質を上げたチューニングが施されている。

 現時点ではNVIDIAのGeForceシリーズ、ATIのRADEONシリーズ、それと3dfxのVoodoo3/4/5向けのドライバがリリースされている。標準ドライバをベースとしている強みとして、同じコントローラを搭載していればビデオカードのメーカーを選ばないのがありがたい。また、Omega Driversは無償で提供されており、Omegadriveのホームページから自由にダウンロードできる。

 ちなみにこのOmega Drivers、割と多くの人が既に愛用している。例えばマルチプレイヤーロールプレイングゲーム「PSO(ファンシースターオンライン)」では標準ドライバより綺麗だ、とかOmega Driversを使うとRADEON系で1,280×960ピクセル表示が利用できる(ATIの標準ドライバではこの解像度が選択できない)、などといった書き込みがあちこちの掲示板で散見され、その点でも期待ができそうだ。


●GeForceシリーズ3世代を用意

【写真1】今回のテストに用いたビデオカード。左からSPARKLE SP7200T6 128MB DDR(GeForce4 Ti4600)、PixelView MVGA-NVG20A 64MB(GeForce3)、玄人志向 GF2MX400-AGP64(GeForce2 MX400)
 今回はGeForce系に限ってテストを行なってみた。用意したカードは以下の3世代の製品である(写真1)。テスト環境は以下の通り。

・CPU:AMD Duron 1GHz
・マザーボード:ECS K7S5A
・メモリ:PC2100 DDR SDRAM 256MB(CL=2.5)
・HDD:Seagate BarracudaATA IV 80GB(ST380021A)
・DVD-ROMドライブ:日立 GD-7000
・OS:Windows Me

 この環境で、(1) NVIDIA Omega Drivers for Win9x/ME v1.0.80、(2)DETONATOR XP 29.42の2種類のドライバを試す事にした。

 Omega Driversを組み込むと、デバイスマネージャー上で「ビデオカード名 (Omega 9M 1.0.80)」と表示される(写真2)。また、ビデオカードのプロパティを確認すると、ディスプレイドライバのバージョンは「4.13.01.2980」と表記されており、DETONATORXP 29.80に相当するバージョンをベースにチューンナップが施されていることが分かる(写真3)。

 ちなみに、NVIDIAのホームページで一般に配布されているDETONATOR XPの最新版は、原稿執筆時点ではまだ29.42で、Omega Driversはベンダーにのみ提供されるバージョンをベースとしたものの様だ(写真4)。

【写真2】Omega Driversを組み込むと、デバイスマネージャー上でも、それと分かる表記に変わる 【写真3】今回使用したOmega Drivers V1.0.80は、正式には未リリースのDETONATORXP 29.80をベースに作られていることが窺える 【写真4】こちらは、NVIDIAからリリースされている最新版ドライバ、DETONATOR XP 29.42を組み込んだ場合のプロパティ


●ぼやけた部分が鮮明に!

 まず最初に断っておくと、Omega Driversは、今までのDETONATORシリーズの欠点を補えるものではない。DETONATORの欠点とは、例えばガンマ値が低くて全般的に暗い画面になることとか、一部のアプリケーションが正常に動作しないことだ(独SYNETICの「MBTR:Mercedes-Benz TRUCK RACING」はその代表例だ)。こうした問題に、Omega Driversは何の解決にもならない。3Dゲームの画面は相変わらず同程度に暗いし、MBTRのデモを実行すると、依然としてブチ壊れた画面が表示される。

 では何が異なるかと言うと、ディテールの鮮明さである。論より証拠、具体的に画 質を比べてみる事にしよう。まずはMadOnion.comの3DMark2001 SEのImageQualityテストから、Game1の画面を比較してみたい。

 
  【写真5】リファレンスラスタライザによる描画
【写真6】GeForce2 MX400 + Omega Drivers 【写真7】GeForce2 MX400 + DETONATORXP 29.42
【写真8】GeForce3 + Omega Drivers 【写真9】GeForce3 + DETONATORXP 29.42
【写真10】GeForce4 Ti4600 + Omega Drivers 【写真11】GeForce4 Ti4600 + DETONATORXP 29.42

 写真5~写真11は、Game1画面の左下にある赤いピックアップを拡大したものだ。この荷台のミサイルランチャーに搭載されたミサイル、先端の白いシーカーの後ろは赤く塗られているが、ここに黄色のストライプが1本入っている。ところがこのストライプ、はっきりと描画されているのは写真6/8/10で、リファレンスラスタライザとDETONATOR XPの写真5/7/9/11では、描画がぼやけている事が判る。

 またボンネットやルーフトップの描画も、Omega Driversと比較するとリファレンスラスタライザやDETONATOR XPではややシャープさに書ける事が判る。タイヤのマーキングも、同じ傾向だ。

 
  【写真12】リファレンスラスタライザによる描画
【写真13】GeForce2 MX400 + Omega Drivers 【写真14】GeForce2 MX400 + DETONATORXP 29.42
【写真15】GeForce3 + Omega Drivers 【写真16】GeForce3 + DETONATORXP 29.42
【写真17】GeForce4 Ti4600 + Omega Drivers 【写真18】GeForce4 Ti4600 + DETONATORXP 29.42

 続いて、同じく3DMark2001 SEのImageQualityテストより、Game2の画面を用意した。写真12~写真18がそれだ。まず、石畳の表現が、Omega Driversでは全然異なる事が判るはずだ。リファレンスラスタライザやDETONATOR XPの場合、石畳部の描画は膜がかかったようにどんよりとした表現なのに対し、Omega Driversではくっきりと表現されている。

 また、奥にあるスロープ部も、リファレンスラスタライザやDETONATOR XPでは単なるのぺっとした坂道に見えるのが、Omega Driversではちゃんと石畳の延長として表現されているなど、概して質感が大幅に向上している事が判るはずだ。

 
  【写真19】リファレンスラスタライザによる描画
【写真20】GeForce3 + Omega Drivers 【写真21】GeForce3 + DETONATORXP 29.42
【写真22】GeForce4 Ti4600 + Omega Drivers 【写真23】GeForce4 Ti4600 + DETONATORXP 29.42

 もうひとつ、今度はGame4の画面を見てみよう。こちらはPixel Shaderを使うテストのため、GeForce2 MX400でのテストは無しである。写真19~写真23がそれだが、ここで注目して欲しいのは水の表現である。リファレンスラスタライザやDETONATOR XPでは、例えば小川の流れの表現も穏やかだし、その先の池の水面の表現も、あまり起伏のないものになっている。

 ところがOmega Driversを利用すると、波の表現が大きく変わってくる。小川の流れもよりダイナミックに描画されているし、池の水面ははるかに複雑なものになっている。なにしろ波の数が全然違うし、起伏自体もより大きく描画されている。中央の人物や丘の表現には大差が無いので、これだけ見ていると同じ画像に錯覚するが、逆に水面や波に着目するとまるで別の画像とすら思えるほどの違いがある。

 次は実際のゲーム画面で比較してみよう。id Softwareが発売する「Return to Castle Wolfenstein」(国内ではピーアンドエーから発売されている)から、ゲーム開始後に流れるデモ画面を比較してみよう。

【写真24】GeForce2 MX400 + Omega Drivers 【写真25】GeForce2 MX400 + DETONATORXP 29.42
【写真26】GeForce3 + Omega Drivers 【写真27】GeForce3 + DETONATORXP 29.42
【写真29】GeForce4 Ti4600 + Omega Drivers 【写真29】GeForce4 Ti4600 + DETONATORXP 29.42

 写真24~29がそれだが、奥手のレンガの壁、それと木の表現に注目されたい。DETONATOR XPでは、レンガの模様が殆ど全部ぼやけてしまっているのに対し、Omega Driversでは比較的くっきりした表現がまだ残っている(一番奥手はさすがに潰れているが、それでもDETONATOR XPよりはまだマシである)。

 加えて木の葉っぱの表現が、DETONATOR XPでは荒っぽく潰れている。このあたりのディテールはOmega Driversの得意とするところで、更に細かく比較すると右手奥の建物の屋根の表現なども、Omega Driversの方が緻密に表現されている。

 最後に、NVIDIAがGeForce3のVertex Shaderのテクニカルデモとして利用した「Zolter」の画面を比べてみよう(写真30~写真33)。このデモはVertex Shaderを活用しているため、比較はGeForce3とGeForce4 Ti4600のみで行なっている。

【写真30】GeForce3 + Omega Drivers 【写真31】GeForce3 + DETONATORXP 29.42
【写真32】GeForce4 Ti4600 + Omega Drivers 【写真33】GeForce4 Ti4600 + DETONATORXP 29.42

 今までの例の中で一番明確に違いが判るのがこの結果だ。襟の金色の縁取りの端に注目して欲しい。DETONATOR XPを使うと、この縁部は単にパイピング処理でもしてある様にしか見えないのだが、Omega Driversでは金糸でモールド処理を施してある事が明確に表現される。

 どちらが正しいかと言うと、これはモールド処理なのであって、要するにDETONATOR XPではこのあたりが端折られて表現されているわけだ。また、目元やひたいの皺も、DETONATOR XPでの表現はややぼんやりしたものになっており、Omega Driversを使った場合のくっきりした表現とは明らかに異なっている事が判る。

 同様に、胸元の模様も、DETONATOR XPではかすれた感じになっている。NVIDIA自社製のデモですら、これだけ明確に違いが出るわけだ。


●それほど大きくないパフォーマンスロス

 冒頭でも書いたように、このOmega Driversは「画質優先」であり、パフォーマンス面でのペナルティが存在する。実際、Omegadriveのホームページには「THESE DRIVERS ARE SLOWER THAN NVIDIA ORIGINALS!!!」(これらのドライバは、NVIDIAのオリジナルドライバより遅いよぉ! )との記述があるほど。

【グラフ1】3DMark2001 SEの結果比較
 画質はともかく、パフォーマンスの落ち具合はちょっと気になるところだ。そこで、1,024×768ピクセルの環境で3DMark2001 SEを実施してみた結果がグラフ1である。

 結果を見ると判る通り、意外に性能差が見られない。ソフトウェアT&Lでの成績の差は1%前後で、ほとんど誤差のうち。ハードウェアT&Lを使った場合でも、せいぜい5%前後でしかない。

 具体的にどのテストで数字が落ちるかを確認するために、個別のテスト結果をまとめたのが表1だが、ご覧のとおりGame1~Game3では、その性能差はそれほど大きいものではない。GeForce2 MX400では絶対的なグラフィックコアのパフォーマンスが不足しているためか、割とシビアな結果になっているが、GeForce3/4ではそれほどのパフォーマンスデメリットとは言いがたい。

 一番差が出るのはGame4、つまりPixel Shaderを利用した場合だろう。この場合は最大で30%程度のパフォーマンスロスが発生する。現時点のPixel Shaderの性能はそれほど高いものでは無いから、Omega Driversを利用した場合のペナルティはかなり大きくなると言うことだろう。

 ただこれは逆に言えば、例えばRADEON 9700とか、11月に発売されると言われるNV30の様に、Pixel Shaderの性能が上がったカードでは、相対的に回避できる問題と言えそうだ。

 また幸いにも、現時点ではまだPixel Shaderをフルに生かしたゲームタイトルはそれほど多くないから、比較的パフォーマンスの高いGeForceシリーズのカード(GeForce3もしくはGeForce4)を使ってゲームを楽しんでいるユーザーには、広くお勧めできそうだ。

表1
※【O】= Omega Drivers 1.0.80
 【D】= DetonatorXP 29.42
GeForce4 Ti4600 GeForce3 GeForce2 MX400
【O】 【D】 性能差 【O】 【D】 性能差 【O】 【D】 性能差
1024×768ピクセル
16bpp
H/W T&L使用
Game 1 Low 78.0 77.7 0.39% 73.2 73.9 -0.95% 56.5 60.5 -6.61%
Game 1 High 22.6 23.2 -2.59% 22.0 23.3 -5.58% 17.5 17.7 -1.13%
Game 2 Low 141.0 141.4 -0.28% 89.2 90.6 -1.55% 52.4 54.0 -2.96%
Game 2 High 72.8 73.1 -0.41% 48.6 49.1 -1.02% 25.3 25.9 -2.32%
Game 3 Low 80.7 80.6 0.12% 76.5 77.8 -1.67% 57.7 58.1 -0.69%
Game 3 High 34.1 34.2 -0.29% 33.0 33.7 -2.08% 27.4 27.4 0.00%
Game 4 39.6 51.7 -23.40% 31.3 35.3 -11.33% N/A N/A N/A
1024×768ピクセル
32bpp
H/W T&L使用
Game 1 Low 77.7 77.9 -0.26% 72.2 73.7 -2.04% 36.4 42.5 -14.35%
Game 1 High 22.7 23.1 -1.73% 23.0 23.3 -1.29% 16.6 17.3 -4.05%
Game 2 Low 136.6 139.2 -1.87% 85.4 86.8 -1.61% 39.2 41.9 -6.44%
Game 2 High 72.2 72.8 -0.82% 47.3 47.8 -1.05% 19.9 21.2 -6.13%
Game 3 Low 80.5 80.8 -0.37% 77.1 77.1 0.00% 40.9 42.5 -3.76%
Game 3 High 34.2 34.4 -0.58% 33.6 33.6 0.00% 22.3 22.7 -1.76%
Game 4 30.2 42.7 -29.27% 25.3 31.8 -20.44% N/A N/A N/A


●トライしてみる価値はあり

 この手のドライバの場合、オリジナルのドライバには無かったトラブルが出る可能性も否定できない。例えば筆者は自分のゲームマシンにもOmega Driversを導入して使っているが、一部のゲーム(Team17のWarms Armageddonなど)では動作がちょっとおかしかったりする。

 とはいえ、実害があるほどのトラブルには今のところ出会っておらず、またOmegadriveはトラブルがあると比較的迅速に対処を行なってくれる。ネットでの情報では、古いバージョンのOmega DriversとRADEON 8500 LEを組み合わせると動画再生が汚いなんて話が出ていたが、今回のバージョンのドライバとGeForce2/3/4の組合せでは、特にこうした問題もなかった。

 いきなり全面的にDETONATOR XPをOmega Driversに差し替えろ、というのはやや乱暴だとは思うが、試してみる価値はあると筆者は思う。またVoodoo3/4/5や、特にRADEONシリーズを使っているユーザーも、試してみてもいいのではなかろうか?

□Omegadriveのホームページ(英文)
http://www.omegacorner.com/

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(2002年8月8日)

[Reported by 槻ノ木隆]


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