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DDRは醜いソリューション
~Rambus上級副社長Steve Tobak氏インタビュー


Steve Tobak氏

 Intelのチップセット戦略の変更とともに揺れるPC市場でのRDRAM。だが、Rambusは、次世代メモリ技術「Yellowstone」やシリアルインターフェイス技術「RaSer」など、矢継ぎ早に次世代技術を発表している。Rambusはどこを目指すのか。同社のSteve Tobak氏(Sr. Vice President, Worldwide Marketing)に、Rambusの今後を伺った。



●次の戦略は小さな魚を釣ること

[Q] Rambusはシリアルインターフェイス技術「RaSer」を発表した。RaSerは物理レイヤだけを提供し、論理レイヤは何でもいい、PCI Express(3GIO)でもSerial ATAでもいいという説明だった。これは論理レイヤも提供し、標準化を促進したRDRAMとは異なる戦略に見える。

[A] そうだ。間違われやすいが、RaSerとRDRAMは理念的に違う。それは、我々がフィロソフィを変えたからだ。RDRAMでは我々は物理レイヤ、論理レイヤ、プロトコルなどすべて含んだ完全な垂直ソリューションを供給した。その方法を再び行なわないとは言わないが、今回はRDRAM方式は採らないことにした。

 RaSerでは、新しいスタンダードを作るのではなく、顧客と協力して、彼らに論理レイヤやプロトコル、コンパチビリティをインプリメントさせる。我々は得意の物理レイヤを顧客に提供することに専念する。それによりデファクトスタンダードを創り出す。

[Q] どうしてフィロソフィを変えたのか。

[A] こういうことわざを知っているだろうか。大きな魚を狙って釣りに行くと大きな釣果はあるかもしれないが、カラで終わるかもしれない。ところが、小さい魚を狙ったら大きな魚は得られないだろうが、釣果はあるだろう。

 以前、我々は大きな魚を狙った。それはエキサイティングだった。でも、今はもっと現実的なアプローチをとったほうがいいと考えている。つまり、努力が最もよく報われるところを狙うことにした。

 我々がエンジニアやイノベータであるなら、エンジニアリングやイノベーティングをするのが一番効率のいい時間の使い方だ。標準化の推進や、論理レイヤ、プロトコルなら誰にでもできる。それらは、我々に適した分野ではない。だから我々は得意な分野に固執することにした。

 それから、DRAM市場では大きな魚を追うのは非常に意味があった。なぜなら1つのDRAM標準が、常に市場の多くを占めるからだ。だから大市場のために、大きな魚を追わなければならなかった。でもネットワーク、家電、ゲームコンソール、トランシーバなどの分野は、細かく別れたプロプラエタリな市場だ。ここでは小さな魚を狙うアプローチがうまく働くだろう。大きな魚のために骨を折らなくていい。今後も学ぶことは多いと思うが、これは理にかなった方法だと考えている。

[Q] その理屈はよくわかる。Rambusが物理設計で多くの特許を持っているのを知っている。

[A] そうだ。論理レイヤで我々がいくつの特許を持っているか……、正確な数字は今わからないが、ほとんどない。特許はみな物理レイヤ、コアシグナルテクノロジだ。それが我々の得意分野だ。

 そこから始まり、徐々に、システムレベル、アプリケーションレベルでも同程度のエンジニアリング熟練度を達成できたと思う。我々は多額の投資をしてこの分野の専門家を雇った。そうすることで、顧客も市場に製品を早く出せるようになる。

 我々がRDRAMとPC業界のため、いったい何百万労働時間、何百万ドルを費やしたか、それを算出すればきっと驚くと思う。ソケットボードレベル、パッケージレベル、システムレベルのインフラを開発するために、膨大な労力を費やした。RaSerでも、基本的に同じことをしている。ただし、論理レイヤの実装は顧客に任せる。


●グラニュラリティがRDRAMの武器

[Q] RDRAMのロードマップを確認させて欲しい。PC向けのロングチャネル(LC)は、PC800LCのあとはPC1066LC、PC1200LC、PC1333LCへと移行して行く。それに対して組み込み向けのショートチャネル(SC)はPC1066SCの次がPC1244SCとなっている。

[A] そうだ。

[Q] なぜショートチャネルは1,244MHzなのか。

[A] それは、SONETインターフェイスとの関係があるからだ。ショートチャネルの用途の多くがパケットバッファだからSONETに合わせた(注:SONETのベースクロックは51.8MHz)。

 ネットワーク分野では我々はRDRAMで多くのデザインウインがある。まだボリュームはそんなに大きくはないが、市場が回復し、IntelがRDRAM対応製品を立ち上げればかなりのボリュームが期待できるだろう。

[Q] ネットワーク市場で成功した理由は。

[A] グラニュラリティ(粒度:最小構成単位)だ。それが、ネットワーク機器市場でRDRAMがこれほど成功できた理由だ。RDRAMが、もっともコスト効率の高いメモリ帯域を提供できる。つまり、最高の帯域を、最小のシリコン(DRAMチップ)数で達成できるからだ。例えば、TIが新たに発表したDSPはRDRAMを使うが、SDRAMに比べて(同じ帯域で)DRAMチップ数を1/4に減らすことができる。

[Q] RDRAMのグラニュラリティの小ささは、デジタル家電でも強力な武器になりうる。

[A] その通りだ。(RDRAMを使う)PlayStation 2と(DDRメモリを使う)XboxのDRAMのインプリメンテーションを比べれば一目瞭然だ。Xboxの(メモリ配線面積)は信じられないくらい大きい。PlayStation 2の4倍くらい場所をとっていてばかげている。この分野でもRDRAMは長生きするだろう。面白いのはコンシューマ市場とネットワーキング市場では、DRAMアーキテクチャーに求める要素がとても似ていることだ。


●Yellowstoneではグラフィックスも狙う

[Q] RDRAMの次のメモリ技術「Yellowstone」のターゲットは。

[A] Yellowstoneが当座のターゲットとする市場はとても明確だ。コンシューマグラフィックス、PCグラフィックス、ハイエンドネットワーク機器だ。いずれも、メモリバンド幅が必要な分野であり、競争に勝てることを願っている。

[Q] 御社のAvo Kanadjian元副社長(Worldwide Marketing)は一昨年、ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)とも次世代機でミーティングを持っていることを示唆していた。Yellowstoneが次世代ゲーム機に採用される可能性は高いのか。

[A] 彼は私の前任者だ。……我々は、主要顧客といい関係を保っている。PlayStation 2については、シュリンクやコスト削減などで、継続して協力している。

[Q] 過去2世代、ゲームコンソールではRambusの技術が使われてきた。Nintendo 64とPlayStation 2だ。そして、あるソースから、次世代のゲーム機にも採用される計画が具体的に進んでいるとも聞いている。

[A] もちろんチャンスはあり、非常に興味を持っている。そのために、技術を今デモしている。DDR IIはYellowstoneに遠く及ばない。しかし、すべては顧客次第だ。希望としては、全てのアプリケーション、つまりすべての顧客を勝ち得たいと思う。ゲーム機、PCグラフィクス、ハイエンドルータなど全てだ。そして、次の5年ではメインメモリもやる…… これは冗談だが(笑)。


●CPUの性能向上に追従できるメモリはRDRAMだけ

[Q] 率直に言ってPC市場でのRDRAMの状況をどう見ているか。

[A] 1.6GHz以上のPentium 4がメインストリームPC市場に浸透し始めると、面白いことになると思う。その時、RDRAMアーキテクチャーが勝つチャンスがあると思う。なぜなら、DDRはコスト効率を保ちながらパフォーマンスニーズに応える余裕がないからだ。

 DDRは我々のロードマップに追従して来れないだろう。例えば、32bitのRIMM4200は、2つのモジュールを1つにしたために、シングルモジュールではバンド幅(4.2GB/sec)とパフォーマンスは最高だ。RDRAMを使えば広帯域でも、設計が簡単で、4層基板で対応可能で、グラニュラリティは低い。顧客は、製品をどのようにも位置づけられる。

 その意味では、DDRは醜い(ugly)ソリューションだと思う。システムの観点から見ると高くつく。コントロールチップが高価(ダイサイズが大きくなる)だし、グラニュラリティが問題になる。512Mbit DRAMだと512MBのグラニュラリティ(x8の場合)になってしまう。今年はまだ平気だろうが、多分2003年には(グラニュラリティが上がるため)ダメージがくる。

[Q] RDRAMは、DDR系メモリに対して性能アドバンテージを示すことができると考えるか。

[A] 明確なのは、CPUの性能向上に合わせてスケールアップできるメモリアーキテクチャが必要であることだ。そして、そのアーキテクチャは何かは明らかになりつつある。実際、いくつかベンチマークを測ってみたが、MPEG-4のビデオコーディングなどでははっきりとRDRAMのアドバンテージが出る。

 DDRメモリは結局のところ、Rambusの発明したダブルエッジクロッキングを使ったSDRAMにすぎない。だから、CPUの性能向上に追従できるゆとりがない。まあ、128bit幅にするなど、彼らはあらゆる手を尽くしているが、数GHzのCPUに追従できるのはRDRAMだけだ。

 だから、CPUの性能向上と共にどんどんRDRAMの利点は明確になるだろう。DDRアーキテクチャでは、メモリもチップセットも、どんどんコスト高になりどんどん難しくなって行く。それに対して、RDRAMは同じ4層マザーボード、同じデザイン、同じルール、同じプロセステクノロジーで、CPUのロードマップに追従できる。

 DDRが上手くやっているのは紙を売ることに過ぎない。それはたわごと(bullshit)だ。我々も紙は売れるがそうしたくない。CPUが速ければ速いほどRambusの利点も大きくなる。彼らはもう我々を叩けないだろう。


●現状はRDRAMに対する政治的反動の時期

[Q] しかし、IntelはOEMベンダーには、Intel 850E以降にRDRAMチップセットはなく、i850Eのバグフィックスさえできないと説明している。Intelのこの姿勢は、PC市場でのRDRAMの立場を弱くしている。

[A] こういうたとえができると思う。'80年代に日本車が売れ始めた時、米政府は米メーカーが損害を受けると言って関税をかけた。その結果、何が起きたか。消費者はもっと日本車に金をかけるはめになっただけで、米メーカーの車を買いはしなかった。でも、現在は、米メーカーもどうやって競争するかを学び、いいクルマを作っている。そうしたら、人は米国車を買うようになった。

 RDRAMの状況は、これと似ている。Intelは市場にRDRAMを使うように言ったが、そのタイミングが悪かった。Pentium IIIの時でそんなにメモリパフォーマンスの必要がなかったからだ。そのため、(RDRAMを使わせるのは)非常に難しかった。その結果、振り子は反動で大きく振れた。RDRAMに対して、政治的なバックラッシュとなった。

 そうした混乱の結果、彼ら(Intel)は、今は「市場に任せる」と言うようになった。市場が望むから「DDRをサポートする」と言っている。

 私は、最終的には、Intelの言っていることが正しいと思う。つまり、市場に決めさせるのがいい。政治的な反動で、振り子がこっちに振れたりあっちに振れたりするのは無視して、基本的に市場が振り子を真ん中に落ち着かせるのに従うべきだ。

 もし、PC業界がパフォーマンスソリューションを求め、そしてもしDDRがそれを提供できなければ、我々は市場に奉仕できる準備がある。もし、Intelが顧客の声に耳を傾けなくても、SiSや多分VIAも耳を傾けるだろう。Intelにしても、1年前までは、Intelは全PCにRDRAMをもたらすと言っていたのが、変わった。逆もまた起こりうる。

[Q] SiSはRDRAMベースチップセットを開発しているが、彼らは、メインターゲットはサーバーだと言っている。

[A] サーバー!? 本当にそう言ったのか。誰から聞いた?

[Q] Alex Wuディレクタ(SiS、Integrated Product Division)とNelson Lee氏(SiS、Sr. Technical Marketing Manager, Integrated Product Division)だ。

[A] うーん、そうか。……我々のRDRAMのポジションはパフォーマンスデスクトップ、それからワークステーション市場だ。サーバーもあるだろうが、わずかだと思っている。

 とはいえ、我々の顧客は望むことが何でもできる。これがRambusがIP企業であることの美点だ。我々はテクノロジーを提供し、彼らは何でもしたいことをできる。私の知る範囲ではSiSに去年ライセンスを与えた。彼らがチップセットを作るのは間違いないだろう。


●DRAMアーキテクチャーは今後もっと分化する

[Q] だが、DRAMは通常1アーキテクチャが市場を独占する。一度劣勢になると難しい。

[A] 考えて欲しい。PC業界史上、2つの異なるDRAMアーキテクチャーが共存するのは今回が初めてだ。これは来るべき事態の前触れだと思う。DRAMアーキテクチャーは今後もっと分化すると思う。我々は長いこと、こうなることを待っていた。なぜなら1つのアーキテクチャーで、市場の全ニーズに応えることはできないからだ。

[Q] JEDECのデジー・ローデン氏は、Rambus社は、SDRAMもDDR SDRAMも発明したわけではなく、ただ権利を主張しているだけだと言っている。SDRAMもDDR SDRAMもすべてのテクノロジはすでに何年も前から存在していたと主張している。

[A] デジーか(笑)。それは裁判所が決める事柄だと思う。特許を読めば自明の理だ。そもそも、我々の特許の1つはJEDECができる前に完了していた。また、JEDECが作られる前は、我々は業界全体に我々の技術を買ってもらおうと伝えていた。いずれにせよ、これは率直に言って大きな問題ではない。しかし、注意は払っていく。

[Q] DRAM業界はIPビジネスに慣れていないという文化的な背景があるという意見も……

[A] 悪いが遮らせてもらおう(笑)。私は以前TIに務めていた。知っているか、TIは当時DRAMメーカーとライセンス契約したが、Rambusがうらやむような高いロイヤリティを課した。

 半導体業界最大のIP企業はどこだと思う? それはRambusでもARMでもない。IBMやTIやIntelやLucent Technologiesだ。それらはIP企業ではないと言うかもしれない。でも、IPがなければどうしてIntelはプロセッサに平均200ドルもの価格をつけられる? 他のプロセッサは1/10の価格だ。だから、(IPで利益を得るというのは)新しいコンセプトではない。

 むしろ、これ(IP企業)は業界の進む方向であり、消費者に革新をもたらす方法だ。我々は、顧客が革新的な製品を、市場に迅速に、安価に提供するのを手伝う。我々が他の企業に望んでいるのは、ルールを持ってプレーすることだけだ。

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【7月4日】【海外】Rambusが次世代RDRAM技術「Yellowstone」の概要を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0704/kaigai01.htm

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(2002年7月15日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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