●SFFに3.xGHzのPentium 4を載せるTidewater
スリムサイズのデスクトップPCに、3.xGHzの0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)、さらに将来は5GHzクラスのPrescott(プレスコット)を搭載できるようにする。つまり、SFFとフルサイズデスクトップの間に、基本的にパフォーマンスギャップがなくなるようにする。これがIntelの現在のSFF(Small Form Factor)デスクトップ戦略だ。
IDFJで公開されたTidewaterのモックアップ |
そのためのリファレンスとして、Intelはまず「Tidewater(タイドウォータ)」を、そして3GIO世代のリファレンス「Big Water(ビッグウォータ)」を提供する。Tidewaterでは、9リットルクラスの容積の筺体に、CPUファンなしでTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)75W以上のCPUを搭載できるようにする。Northwood向けマザーボードのデザインガイドでは、TDPの上限が76Wになっているため、Tidewaterは事実上、最高性能のNorthwoodもサポートできることになる。Tidewaterベースの製品は年内に登場するとIntelは言う。
この方向性が意味するのは、最終的にデスクトップPCの大半をSFF(Small Form Factor)に統合させたいという意図だ。つまり、SFFが日本だけの特殊なものではなく、どの国でもSFFが主流になるようにすることがゴールだ。
●WillametteでSFFが問題に
IntelのデスクトップPC戦略が、急速に変わりつつある。目立つ変化はSFFに対する戦略だ。ポイントは2つ。(1)SFF向けに特化したCPUを提供する計画を止めて、SFFのPC自体を改良して普通のデスクトップCPUを搭載できるように合わせて行くことにした。(2)そのために、IntelがSFFデザインのリファレンスを提供し、マザーボードなどのスタンダード化を図り、どのOEMも容易にSFFを作れるようにする。
Pentium 4世代になってから、IntelのSFF戦略は二転三転してきた。というか、そもそもPentium 4以前には、IntelにはSFF戦略自体が存在しなかった。SFFは、PCメーカー側が勝手に設計するもので、Intelはほとんど何もして来なかった。
もっとも、IntelがPCの小型化や、フォームファクタの多様化に関心がなかったわけではない。'99年春のIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」では、パット・ゲルシンガーCTO兼副社長(Patrick Gelsinger, Vice President & Chief Technology Officer)は、キーノートスピーチの中でPCファッションショウを開催。奇抜なコンセプトPCを多数紹介したが、その多くはSFFサイズだった。また、FlexATXを提案するなど、ある程度はSFFの方向に動いた。しかし、基本的には、SFFはPCメーカー側にまかせる形であり、Intelもそんなに積極的には動いてこなかった。
こうしたIntelのSFF戦略は、Pentium 4時代になって壁に当たった。それは、0.18μm版Pentium 4(Willamette:ウイラメット)のTDPがあまりに高いため、当初、PCメーカーが「これではSFFに搭載できない」と反発したからだ。そこで、IntelはPentium 4をリリースする前から、日本のPCメーカーに、Pentium 4をSFFに載せるための共同開発などをもちかけていたが、あまり乗ってこなかった。
●Deep ForestでまずSFFの経験を積んだIntel
最終的にIntelが組んだ相手はHewlett Packard(HP)だった。HPは、Pentium 4ベースのSFFコンセプトPC「Deep Forest」を、2000年11月のCOMDEXで発表した。Deep Forestは、IntelのMicroATXタイプのIntel 850マザーボード「Cape Sebastian(ケープセバスチャン)」を使っていた。Cape Sebastianは、当時、まだOEMベンダーに提供されていなかったばかりか、Deep Forestに使われていたボードは、さらにCape Sebastianにモディフィケーションを加えた(メモリの配置が90度違う)ものだった。あるHPの関係者によると、そうしたモディフィケーションやシステムの熱設計のほとんどは、Intel側が担当したという。つまり、Deep Forestは、事実上、Intelによる最初のSFFの試みだったのだ。
このDeep Forestは、CPUファンを持たず、筺体の2基のファンで作り出すエアフローでコンポーネントを冷却する方式になっていた。この方式は、Tidewaterにも受け継がれている。Deep Forestは、Tidewaterへのファーストステップだったと言える。Intelは、Deep ForestでSFFにもPentium 4を搭載できることを実証することで、PCベンダーをSFFに促す計画だった。しかし、それでもPCメーカーは難色を示した。そのため、Intelは昨年中盤、ついにSFF向けに特殊なCPUを提供する計画を立てた。
当時Intelのデスクトップ製品を担当していたAnand Chandrasekher(アナンド・チャンドラシーカ)副社長(現在Vice President/General Manager, Mobile Platform Group)は、10カ月前にSFF向けの戦略を次のように説明した。
「Pentium 4のボリュームを出す時には、様々なバージョンのPentium 4を提供し、SFFにもオプティマイズすることを考えている。我々は、富士通やNECといったメジャーな日本のOEMベンダーと、SFF向けデザインについて一緒にやっている。その結果、Pentium 4は、11~13リットル(の容積)の筺体なら問題なくフィットすることがわかった。しかし、日本では、6~9リットルといった(小さな)筺体があり、ここではPentium IIIをベースにしたデザインが主流だ。そこで、今はPentium 4を9リットルの筺体に入れようとしており、日本のOEMと協議しているところだ。そうしたOEMからのフィードバックを得た上で、Pentium 4をSFFロードマップに持ってくることができると考えている」
そして、Intelは昨年8~9月に、OEMメーカーに対してSFF向けCPUロードマップを発表した。これは、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)を45W以下に抑えたPentium 4/III/Celeronを提供してゆくという計画だった。0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)の1.8A/1.6A GHzは、このロードマップの製品だ。そして、今年中盤からは、低TDP品を選別した2.4GHz以上の製品が提供される予定になっていた。
●白紙に戻ったSFF向けCPUロードマップ
副社長兼事業本部長William M. Siu(ウィリアム・スー)氏 |
だが、現在このロードマップは完全に白紙に戻っている。それは、昨秋以降、状況が大きく変わったからだ。
「最初、特に日本のOEMメーカーの反応は、40~45W程度のCPUしか、SFFに納めることができないというものだった。そこで45Wのロードマップを用意した。しかし、昨年の11月頃になって見ると、そんなことはないことが明らかになった。IBM、NEC、富士通、多くのカスタマが、(40~45Wより)もっと高パフォーマンスの製品のSFFへの搭載に成功したのだ。
こうした過程で、Intelも顧客と一緒に学習した。今では、顧客もIntelも、Pentium 4については、最大能力(のCPU)をSFFに納めることができると考えている。現在は、顧客と密接に協力してそれを実現しようとしている。その結果、45W(TDPのCPU)の需要は、もう高くなくなったと判断した」と、William M. Siu(ウィリアム・スー)副社長兼事業本部長(Vice President & General Manager, Desktop Platforms Group)は説明する。
前後の事情を、もうちょっと詳しく説明すると次のようになる。(1)Intelは、SFF版Pentium 4を用意したものの、それはPCメーカーにあまり受け入れられなかった、(2)仕方がないのでPCメーカーは熱設計を向上させ、その結果、高いTDPのCPUをSFFに搭載できるようになった、(3)Intel自身も熱設計の研究を重ねた結果、74W程度のTDPまでのCPUをSFFに搭載できると確信するようになった。
まず、PCメーカーに受け入れられなかった理由は明白で、SFF向けの特別版Pentium 4の価格が通常のPentium 4より高かった(今後も高くなる気配だった)からだ。パソコンメーカーとしては、SFFだからと言って通常のデスクトップより高い価格をつけられない。そのため、デスクトップCPUではTDPに付加価値をつけるという価格体系は受け入れられない。そもそも、PCメーカーは、SFF特別版をIntelに作らせたかったのではなく、際限なく上がるCPUのTDPに歯止めというか、枠をかけたかったのだ。
次に、PCメーカーの熱設計のスキルが向上したのは、これはやむ得ない事情からだ。各社とも、他社の動向を見ながらSFF開発レースを繰り広げ、開発コストをかけても入れ込んだ。他がやるならやらないわけにいかない。
そして、Intelの側も、Deep Forestから始めた熱設計への取り組みをより成熟させた。Intelは2月のIDFで、かなりのシミュレーションを重ねたことを示した。そして、その結果がTidewaterだったわけだ。
●Tidewaterのリファレンスデザイン
IDFJで公開されたTidewater搭載機 |
「Tidewaterでは、われわれはリファレンスデザインを提供する。そのデザインでは、(高TDPのCPUを搭載する場合の)エアーフローの扱い方、ヒートシンク、その他、筺体内でどんな対応が必要かを説明している」とIntelのSiu副社長は説明する。
Intelは4月中にTidewaterのリファレンスをOEMベンダーに提供すると説明した。今のところまだ提供されておらず、若干遅れる可能性もあるが、Intelが早急にデザインガイドを出すつもりなのは確かなようだ。ちなみに、現在は( http://www.formfactors.org/ )で、Tidewaterよりも大き目(10~13リットル)で75Wまで対応するSFFのデザイン「microATX Small Form Factor System Design Guide」が公開されている。Tidewaterデザインのマザーボードは、MicroATXをベースにするがコンポーネントの配置はかなり異なる。筺体正面に80mmクラスのファンが2基あり、その正面にCPU、右にメモリ、左にAGPとPCI、CPUの下にチップセットという配置になっている。CPUヒートシンクはカッパーベース。ハードディスクは手前の上につく構造だ。つまり、筺体外から取り込んだ空気を、まずCPUに当てて冷却して、さらに下流のチップセットとハードディスクを冷却。一方、CPUのサイドを流れる空気は、メモリとカードをそれぞれ冷却するという仕組みだ。当然通風口は大きくなるが、EMI対策は「Waveguide」などで対策できるという話だった。
もちろん、これはSFFをすべてTidewaterデザインにさせようと目論んでいるわけではない。
「Tidewaterでは、リファレンスをどのようにインプリメントするかは、各社の選択にまかされている。つまり、顧客に対して、どのようにデザインするかを細かく指定しているわけではない。1つのデザイン例として、どんなテクノロジが実現されているかを示している」とSiu副社長は言う。
ただし、ボードベンダーがTidewaterに沿ったマザーボードを標準品として用意すれば、Tidewater型デザインのSFFの開発は容易になる。つまり、個々のメーカーがそれぞれシミュレーションを行ない、特別なデザインを発注するより安上がりになると。ストーリーとしてはそんな形となる。
Tidewater搭載機内部。80mmクラスのケースファンが2基搭載されている | CPUの冷却用にカッパーベースの特製ヒートシンクが取り付けられる | チップセットにもヒートシンクが取り付けられている |
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【4月18日】【IDFJ】microATX拡張の新フォームファクタ「Tidewater」などを解説
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0418/idf3.htm
(2002年4月30日)
[Reported by 後藤 弘茂]