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Hammerのデビューは今年の秋冬商戦? それとも来年?


●Athlonの時のスケジュールと比べると

 AMDが次期CPU「ClawHammer(クローハマー)」のサンプルをデモして以来、Hammerは大いに盛り上がっている。しかし、実際店頭でHammerとHammer対応マザーボードを見るのはいつになるのだろう。一時期、Hammerが今年第3四半期、年末商戦前に登場して迅速にAthlonを置き換える的なウワサが流れた。しかし、理詰めで考えると、これはまずありそうにない。まずAMDはなんと言っているか。

 先月末のHammerデモ公開の際、AMDのジョン・クランク氏(Product Marketing Engineer, Computation Products Group)はHammerのスケジュールについて、次のように説明した。

 「(Hammerは)第4四半期だ。もっとも、製品が出荷可能な状態になれば、その前の出荷もありうるが」

 「Hammerは時間をかけてAthlonに取って代わっていく。どのくらいになるかは、市場のダイナミックスに左右されるので、予測できない」

 「少なくとも2003年中は、Athlonはまだほとんどの市場に存在しているだろう。2003年は、第7世代(Athlon)から第8世代(Hammer)への移行期間となるが、両CPUとも複数のマーケットで並存する」

 AMD側の説明でも、そんなにアグレッシブなスケジュールではなさそうだ。しかし、これはCPUのスケジュールの常識を考えた場合、当然の話という気もする。

 例えば、同じようにCPUとチップセットインフラを革新したAthlon(K7)を振り返ってみよう。Athlonの時は、'98年11月のCOMDEXでサンプルのデモを大々的に行ない、実際の製品発表は'99年8月、そして本格的にK6系と世代交代が進展したのは2000年の秋冬シーズン頃だった。つまり、サンプルデモから9カ月で発表、それから12カ月で世代交代というスケジュールになる。Hammerをこのセオリーに当てはめるとどうなるか。発表は2002年末、Athlon/Duronと入れ替わってくるのが2003年いっぱいということになる。


●HammerはPrescottと正面衝突

 実際、CPUとチップセットのA0シリコンができあがっても、そこから膨大なバリデーションを経ないと、最終的な製品として流通させることができない。FSB(フロントサイドバス)も含めたインターコネクトに導入される新しいHyperTransport、Hammerに統合されたDRAMコントローラなど、ハードルはなかなか高い。AMDはこれまで、チップセットのバリデーションとステッピングチェンジにそれなりの時間がかかっていたので、今回も、同程度の時間が必要だと考えた方がいいだろう。

 それに、マーケットのシチュエーションを考えても、Hammerをどうしても急がなくてはならない状況ではない。というのは、Athlon XPのモデルナンバー導入が成功したため、Intelが次世代CPU「Prescott(プレスコット)」を出すまでは、とりあえずPentium 4(Northwood:ノースウッド)と競争できるメドが立ったからだ。

 CPUメーカーにとっての指標はASP(平均販売価格)だが、Athlon XPでAMDのASPは今や90ドル台。これは、かつての60~70ドルというAMDのASPからすると、十二分に採算ラインで、絶好調状態だ。Intelのロードマップと互してこのレベルのASPを維持できるのなら、AMDとしては恩の字だろう。むしろ、AMDとしては、マーケティング的な方向としてはHammerを対Prescottと位置づけて投入して来るに違いない。Hammerは、2003年後半に3.x~4GHzクラスのPrescottと対決しなければならないのだから。


●Hammerへの移行は需給バランスに左右される

 では、HammerがAthlon、そしてDuronと入れ替わるのはいつになるのか。これは簡単に推測できる。というか、どういう条件であれば、移行が進むかのメカニズムは、簡単に説明できる。まず、Hammerに技術的な問題が発生しないと仮定すると、原理的にK7世代からHammerへの移行は次の条件に左右される。

(1)AMDのマーケットシェアが拡大し続け、(2)PC需要全体が伸び、(3)Fab30の0.13μmプロセスの立ち上げが不調で、(4)UMCの0.13μmプロセス技術が期待外れだと、Hammerへの移行が遅くなる。

(1)AMDのマーケットシェアが伸び悩むか減少、(2)PC需要の伸びが鈍化し、(3)Fab30の0.13μmプロセスの立ち上げが順調で、(4)UMCの0.13μmプロセス技術が好調だと、Hammerへの移行が早くなる。

 つまり、生産キャパシティと需要の関係だ。もう少し詳しく説明すると次のようになる。

 半導体は設備産業で、製造キャパシティは長期計画で決まってしまっている。そして、CPUメーカーは、製造キャパシティ一杯に製造しないと、工場はムダに遊んでしまうことになる。そこで、CPUメーカーはなんとか製造キャパ一杯に製品を作ろうとする。

 その場合、Fabに流せるウエーハ枚数は決まっているため、どのCPUを作るかによって製造できるCPUの個数が変わってくる。これは、CPUによってダイサイズ(半導体本体の面積)が異なるからだ。ダイが小さければ小さいほど、1枚のウエーハから、多数のチップが採れる。そのため、ダイの小さなチップの比率を増やせば増やすほど、そのCPUメーカーが生産できるCPUの総数が増えることになる。

 では、同じ0.13μmプロセスでAthlonとHammerを比較するとどうなるか。Athlon XPの0.13μm版「Thoroughbred(サラブレッド)」は約80平方mmのダイサイズなので200mmウエーハにグロスで315個が取れると、AMDは説明している。一方、ClawHammerのダイは約104平方mmなので計算上はグロスで250~270個しか取れないことになる。

 さらに、ダイが大きいと1個のチップに欠陥(Defect)が含まれる確率が増えてしまうため、不良品の率が高くなる(=歩留まりが落ちる)。そのため、良品率で比較すると、ClawHammerとThoroughbredの差はさらに広がる。おそらく、Thoroughbredの方が30%以上も多くのチップが採れると思われる。そして、0.13μm版Duron(Appaloosa:アパルーサ)の場合には、さらに多くのチップが採れるだろう。

 こうした構造であるため、AMDの製品比率は需要予測に大きく左右される。AMDのシェアが伸び続け、またPC市場全体が拡張していると、需要に応えるためAMDはCPUの総生産個数を高く維持しなければならない。そうすると、Hammerの比率を高めにくくなり、Athlon/Duron系が長く残る。ところが、もしAMDがシェアを落としたり、PC市場が伸び悩むと、AMDは低需要に合わせてCPUの総生産数を減らせるので、その分Hammerの比率を高くできる。そのため、より速く移行が進む。つまり、もしAMDがIntelに対して劣勢になったりすると、AMDはHammer化を加速できることになり、劣勢に歯止めをかけられる原理となる。

 以上が需要面。で、供給面はどうかというとこちらは、AMDの生産キャパシティの伸張に影響される。Hammerは独ドレスデンにあるAMDのFab30の0.13μm SOIプロセスで生産される。そのため、Fab30の0.13μm SOIプロセスの仕上がりにキャパシティは影響される。これが順調に立ち上がれば、Hammerの生産も増やすことができる。

 また、AMDは台湾ファウンダリUMCに、Athlon/Duron系CPUの製造を委託する。これは、UMCの0.13μmプロセスを使うチップだ。UMCが順調にAMDのチップを生産できれば、AMDはAthlon/DuronはUMCに移管して行き、Fab30のキャパシティをフルにHammerに使えるようになる。その分、Hammerの生産量が増えるというわけだ。



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(2002年3月20日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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