Platform Conferenceレポート

μPGAパッケージのThoroughbredでモバイルPentium 4-Mに対抗するAMD

会期:1月23日~24日(現地時間)
会場:Silicon Valley Conference Center


 AMDはPlatform Conferenceにおいて基調講演を行なったほか、デスクトップPC、モバイルPCそしてHyper Transportに関するセッションを行ない、同社のモバイル向けCPUの今後などについて説明した。本レポートではそれらについてまとめてお伝えしていく。



●モバイルAthlon 4の弱点だったCPGAパッケージとSocket 462

 AMDは11月の半ばに行なわれた証券アナリスト向けのカンファレンスにおいて、モバイル版のThoroughbred(以下Thoroughbred)では、現行のモバイルAthlon 4(Palominoコア)で採用されているCPGA(Ceramic Pin Grid Array)に加えて、新しいパッケージとしてμPGAを導入することを明らかにしていた。

 これまでAMDは、デスクトップPCでもノートPCでも同じSocket Aのインフラが使えることのメリットを強調してきた。システムボードのマニュファクチャは、1つのSocket Aのデザインすることで、ハイエンドのAthlon 4からローエンドのDuronまでカバーすることができた。デザイナーはデスクトップPCでの経験を元にノートPC用のボードをデザインすることができるので、確かに開発期間の短縮や、コストという意味ではメリットがある。

AMDがAthlon 4用に導入したロープロファイルSocket462。3スピンドルのA4フルサイズには十分だが、2スピンドルのA4スリムにはやや厚さがある

 しかし、デメリットもある。1つにはSocket Aを利用することにより、基板の厚さ、そして実装面積が増してしまうことだ。実際、デスクトップPC用のSocket Aは高さが5.5mmもあり、これは下手をすれば基板よりも厚くなってしまう。もちろん、AMDも何も対策をしていない訳ではなく、モバイル向けにはロープロファイルなSocket 462という特別なソケットを用意しており、その厚さは4.2mmとなっている。しかし、これでもノートPC用としてはまだ厚い。さらに、底面積という点でも、IntelのモバイルPentium III-Mが採用しているμFCPGAやμFCBGAが1,225(35×35)平方mmであるのに対して、モバイルAthlon 4のCPGAでは2,401(49×49)平方mmとなり、底面積では倍近くになってしまうのだ。

 実際、日本のあるノートPCメーカーのエンジニアに、「どうしてAthlon 4を採用しないのか?」という質問をぶつけたことがあるのだが「うちの製品はA4フルサイズ、いわゆる3スピンドルでも厚さは極限まで薄くしたり小さくしている。そうした製品でモバイルAthlon 4の厚さは受け入れられるものではない」という返事が返ってきたことがある。

 台湾のODMメーカーがコモディティな製品をたくさん作り、それを世界中に売ることでビジネスが成り立っている場合、スタンダードでパワフルなA4フルサイズノートPCが安価に作れるSocket Aも大歓迎だが、日本メーカーは自社の技術で付加価値が高い製品を作っていかない限り生き残ってはいけないのだから、コモディティではなくより小さく薄い製品を作れるパッケージが欲しいというのも無理はないだろう。つまり、これまで(特に日本では)この点がAMDのモバイルでは弱点だった訳だ。



●2スピンドル市場への参入を可能にするSocket 563

AMDがThoroughbredで導入する新しいパッケージのμPGA。563ピンで、Socket 563と組み合わせて利用する
 そうした点を補うのが、Thoroughbredに導入されるμPGAパッケージだ。μPGAパッケージは563ピンのOPGAで、563ピンのSocket 563と組み合わせて利用することになる。Socket 563にはドライバで回せるネジが用意されており、これを180度回転させることで、CPUの着脱が可能になっている。

 μPGAパッケージのサイズは33×33mmで、底面積としては1,089平方mmとなる。これにより、IntelのμFCPGAやμFCBGAよりも小型になる。厚さも大きく改善されており、ソケット自体の厚さは2.8mmとなり、ロープロファイルSocket462+CPGAが6.44mmであったのに対して、μPGA+Socket 563では4.74mmと薄くなる。このため、前述のエンジニアが語っていたような懸念は改善される可能性が高く、日本メーカーにとってAthlon 4を採用するためのハードルの1つが無くなることを意味している。

 これらのパッケージの小型化により、2つの市場に参入する。1つは米国ではThin & Lightと呼ばれる2スピンドルのA4スリムノートだ。今後、A4フルサイズの市場は縮小し、このA4スリムノート市場が増えるだろうと予測されている。実際、AMDも昨年の11月の証券アナリスト向けカンファレンスで2002年には50%がこのセグメントになると予想している。この市場向けにμPGAが投入されることになる。

AMDが導入するThoroughbredで導入するSocket 563。ソケットの付け根の部分にあるネジをドライバーで回すことで、CPUの装着を行なう AMDはμPGAとThoroughbredの組み合わせで新しくThin & Lightと呼ばれる2スピンドルのA4スリムの市場に参入する

 また、AMDはμPGAのBGA版、つまりμBGAパッケージを用意している。AMD モバイルサーマル/メカニカルエンジニアのベン・バーツ氏は「μBGAパッケージも用意されるが、これはより特殊な環境で採用される」と説明している。おそらく、これは米国でいうミニノート、日本で言うところのサブノートを前提としているのではないだろうか。実際、AMDはCPUの熱設計消費電力(TDP)の上限を16Wにした、モバイルThoroughbredを出荷すると、前出の証券アナリスト向けカンファレンスで説明している。こうしたサブノートでは、A4スリムに比べてさらにシステムボードを小型化しなければならないため、直接CPUをシステムボードに貼り付けることで、実装面積を小型化できるBGAパッケージが好まれるからだ。

AMDが導入する563ピンのμPGAとSocket 563(日本AMD開催の記者会見において撮影)


●モバイル版プロセッサモデルナンバーを導入

 ところで、AMDはモバイル版Thoroughbredでモデルナンバーをモバイルにも導入する。同じPalominoコアを採用していながら、Athlon XPやAthlon MPはすでにモデルナンバーを採用しているのに、どうしてモバイルAthlon 4だけモデルナンバーを導入していないのだろうか? 同じ疑問はDuronについても言える。現在のDuronは、PalominoのL2キャッシュ減少版であるMorganコアになっているが、こちらも未だにモデルナンバーは導入されていない。一見すると、なんだか矛盾しているように感じるが、AMDがモデルナンバーを導入した理由を考えれば、じつは矛盾していないのだ。

 モバイルAthlon 4とDuronにモデルナンバーを導入していない理由は、現在のところそのセグメントにIntelのNetBurstマイクロアーキテクチャベースのCPUが無いからだ。以下は、AMDの各セグメントの製品と、Intelの対抗製品の一覧だ。

AMDインテル
サーバー/ワークステーションAthlon MPXeon
パフォーマンスデスクトップAthlon XPPentium 4
パフォーマンスモバイルモバイルAthlon 4モバイルPentium III-M
バリューデスクトップDuronCeleron
バリューモバイルモバイルDuronモバイルCeleron

モデルナンバー導入済み
NetBurstマイクロアーキテクチャ


 これで見れば一目瞭然のように、IntelがNetBurstマイクロアーキテクチャベースのCPUを出しているセグメントでは、モデルナンバーが導入されているが、そうでないセグメントには導入されていない。

 AMDがOEMメーカーに語っているロードマップは、さらにそれを裏付ける。AMDはモバイルPentium 4が登場するあとに登場する予定のモバイルThoroughbredでモデルナンバーを導入するし、さらにDuronの0.13版であるAppalosaを第3四半期に登場させるが、ここでデスクトップPC向けDuronにモデルナンバーを導入する。第3四半期にはIntelがWillamette-128kのコードネームで呼ばれるNetBurstマイクロアーキテクチャベースのCeleronを投入するからだ。

 AMDはモデルナンバーを導入する理由として、IntelがNetBurstマイクロアーキテクチャを投入したことで、IPCが下がった反面クロックを上げられるようになったため、“クロック”は指標とはなりえず、クロックを使っていると性能に対しての誤解が生じるためモデルナンバーを導入すると説明した。であれば、NetBurstマイクロアーキテクチャがないセグメントでは、“誤解”が生じない訳だから、相変わらずクロック表記であっても問題ないと考えている、そういうことだろう。

 【追記】 レポート執筆後にAMDからモデルナンバーを採用したモバイルAthlon 4 1500+が発表された。IntelからモバイルPentium 4が発表されていない時点での採用である。ちなみに、Athlon XP/1500+は実クロック1.33GHzでFSB266MHzだったが、このAthlon 4 1500+は実クロック1.3GHzで、FSB200MHzである。


●Thoroughbred、Barton、そして0.09μmでHammerへ

今年前半にThoroughbred、後半にThoroughbredをSOI化したBartonとAppaloosa、さらに2003年の後半に0.09μmプロセスでモバイル版のHammerをリリース

 AMDのモバイル向けのセッションでは、モバイル向けのコアロードマップについて説明があった。基本的には、AMDのウェブサイトで公開されているのとなんら変わりなく、今年の前半にPalominoの製造プロセスルールを微細化したThoroughbredをリリースし、後半にThoroughbredをSOI化したBartonをリリースする。いずも電圧とクロックを動的に変更するPowerNow!テクノロジをサポートしている。

 Hammerがモバイル向けに利用されるようになるのは、2003年の後半で、製造プロセスルールが0.09μmに微細化された後になる。Hammerの0.09μm版はダイサイズが64平方mmと大幅に小さくなる。リーケージ電力の問題で、意外と消費電力が下がらない0.13μm世代に対して、0.09μm世代では大きな消費電力の低下が期待でき、このタイミングでHammerを投入するというのも妥当な判断だろう。ただ、AMDは0.13μmプロセスの出荷が、Intelに比べて半年程度遅れた訳で、次世代ではあまり差が無く出荷できるようにするのが課題と言えるだろう。

 AMDがThin & Lightやサブノートといった市場に参入できるようになることで、それらの市場におけるIntelとの綱引きは激化するだろう。特に、ビジネスユースで好まれるThin & Lightの市場に参入できるようになることは、これまでAMD製CPUを搭載したノートPCが入っていけなかった、コーポレート向けの市場に参入できることを意味しており、そのことの意味は決して小さくないし、今後ノートPC市場の大部分を占めると予測されているThin & Light市場への参入により、AMDのASP向上も期待することができ、今後の動向には大きな注目が集まっている。

□Platform Conferenceのホームページ(英文)
http://www.platformconference.com/

(2002年1月28日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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